(旧版)女性下部尿路症状診療ガイドライン
6
治療
Clinical Question
CQ 11
骨盤臓器脱手術後に起こる尿失禁に対し,予防的な腹圧性尿失禁手術は推奨されるか?
骨盤臓器脱手術後に起こる尿失禁に対し,予防的な腹圧性尿失禁手術は推奨されるか?
要約
予防的な腹圧性尿失禁手術により骨盤臓器脱手術後の尿失禁は有意に低下するが,術後の排出障害や合併症の出現率は高くなる(レベル1)。
予防的な腹圧性尿失禁手術により骨盤臓器脱手術後の尿失禁は有意に低下するが,術後の排出障害や合併症の出現率は高くなる(レベル1)。
推奨グレードB
Pelvic organ prolapse(骨盤臓器脱),anti-incontinence surgery(尿失禁手術),stressurinary incontinence(腹圧性尿失禁),prophylactic operation(予防的手術),concomitantoperation(同時手術)をキーワードとして組み合わせて検索し86 編の論文を得た。そこからの参照論文18 編の合計104 編の論文から5 編を引用した。
骨盤臓器脱にはしばしば腹圧性尿失禁が合併している。さらに,骨盤臓器脱を修復後に顕在化する潜在性腹圧性尿失禁も高率に存在し,術前に尿失禁がない骨盤臓器脱患者における術後腹圧性尿失禁発生率は30%以上と高率である1)(I)。しかし,術前の予測は難しく,潜在性腹圧性尿失禁に対する予防的な腹圧性尿失禁手術に関しては議論がある2-4)(III)。
腹圧性尿失禁のない骨盤臓器脱患者に対する同時手術(骨盤臓器脱修復手術と腹圧性尿失禁手術)のRCTを示す5)(I)。対象は,POP-Q(Pelvic Organ ProlapseQuantification)測定上,ステージII 以上の患者で骨盤臓器脱手術と同時に中部尿道スリング手術あるいはsham 手術を受けた。骨盤臓器脱手術としては腟閉鎖術,腟断端挙上術あるいは前腟壁形成術を,中部尿道スリング手術としてはtension-freevaginal tape(TVT)手術を施行した。337 例中327 例(97%)が12 カ月の経過観察を完遂した。3 カ月後にはスリング手術群の23.6%,sham 手術群の49.4% に尿失禁を認め(p<0.001),12 カ月後にはそれぞれ27.3%,43.0% に尿失禁を認めた(p=0.002)。その一方で不具合な事象として,膀胱誤穿刺をそれぞれ6.7%,0% に(p≦0.05),尿路感染症をそれぞれ31.0%,18.3% に(p≦0.05),術後6 週後の排出障害を3.7%,0% に認めた(p≦0.05)。
術前の脱出臓器を還納した状態でのストレステスト(barrier test)では33.5% が陽性で,このうちスリング手術群では29.6% に,sham 手術群では71.9% に3 カ月後に尿失禁を認め,術前ストレステスト陽性の症例は陰性の症例に比べてスリング手術の恩恵を受けていた(p=0.06)5)(I)。 予防的な腹圧性尿失禁手術により骨盤臓器脱修復後の尿失禁は有意に低下するが,術後の尿排出障害や合併症の出現率は高くなる。手術にあたっては十分なインフォームドコンセントが必要である。
腹圧性尿失禁のない骨盤臓器脱患者に対する同時手術(骨盤臓器脱修復手術と腹圧性尿失禁手術)のRCTを示す5)(I)。対象は,POP-Q(Pelvic Organ ProlapseQuantification)測定上,ステージII 以上の患者で骨盤臓器脱手術と同時に中部尿道スリング手術あるいはsham 手術を受けた。骨盤臓器脱手術としては腟閉鎖術,腟断端挙上術あるいは前腟壁形成術を,中部尿道スリング手術としてはtension-freevaginal tape(TVT)手術を施行した。337 例中327 例(97%)が12 カ月の経過観察を完遂した。3 カ月後にはスリング手術群の23.6%,sham 手術群の49.4% に尿失禁を認め(p<0.001),12 カ月後にはそれぞれ27.3%,43.0% に尿失禁を認めた(p=0.002)。その一方で不具合な事象として,膀胱誤穿刺をそれぞれ6.7%,0% に(p≦0.05),尿路感染症をそれぞれ31.0%,18.3% に(p≦0.05),術後6 週後の排出障害を3.7%,0% に認めた(p≦0.05)。
術前の脱出臓器を還納した状態でのストレステスト(barrier test)では33.5% が陽性で,このうちスリング手術群では29.6% に,sham 手術群では71.9% に3 カ月後に尿失禁を認め,術前ストレステスト陽性の症例は陰性の症例に比べてスリング手術の恩恵を受けていた(p=0.06)5)(I)。 予防的な腹圧性尿失禁手術により骨盤臓器脱修復後の尿失禁は有意に低下するが,術後の尿排出障害や合併症の出現率は高くなる。手術にあたっては十分なインフォームドコンセントが必要である。
参考文献 |
1) | Al-Mandeel H, Ross S, Robert M, Milne J. Incidence of stress urinary incontinence following vaginal repair of pelvic organ prolapse in objectively continent women. Neurourol Urodyn 2011; 30: 390-394(I) |
2) | Karateke A, Tug N, Cam C, Selcuk S, Asoglu MR. Concomitant surgical correction of occult stress urinary incontinence by TOT in patients with pelvic organ prolapse. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2011; 154: 105-107(III) |
3) | Klutke JJ, Ramos S. Urodynamic outcome after surgery for severe prolapse and potential stress incontinence. Am J Obstet Gynecol 2000; 182: 1378-1381(III) |
4) | Araki I, Haneda Y, Mikami Y, Takeda M. Incontinence and detrusor dysfunction associated with pelvic organ prolapse: clinical value of preoperative urodynamic evaluation. Int Urogynecol J Pelvic Floor Dysfunct 2009; 20: 1301-1306(III) |
5) | Wei JT, Nygaard I, Richter HE, Nager CW, Barber MD, Kenton K, Amundsen CL, Schaffer J, Meikle SF, Spino C for the Pelvic Floor Disorders Network. A midurethral sling to reduce incontinence after vaginal prolapse repair. N Engl J Med 2012; 366: 2358-2367(I) |