(旧版)女性下部尿路症状診療ガイドライン

 
4 病態と疾患
2 排尿症状を呈するもの(表4)
Female(女性),voiding dysfunction,voiding disturbance(排尿障害,尿排出障害),urinary(tract)symptom(尿路症状),dysuria(micturition pain,urination pain)(排尿痛),pelvic organ prolapse(骨盤臓器脱),cystocele(膀胱瘤),pathophysiology(病態,病態生理),mechanism(作用機序),etiology(病因)などをキーワードとして組み合わせて検索し,18 編の論文を引用した。さらに,各種ガイドライン1-5)および他3 編を加えて,合計26 編を引用した。
排尿症状を起こす病態は,下部尿路閉塞と排尿筋低活動のいずれかが考えられる。
女性においては,男性における前立腺のように排尿障害の原因となる解剖学的構造がないことから,下部尿路閉塞は軽視されがちである。Massey とAbrams による5,948 例の尿流動態学的検討では,① 最大尿流率12 mL/s 未満,② 最大尿流時の排尿筋圧が50 cmH2O 以上,③ 尿道抵抗(PdetQmax/Qmax2)が0.2 以上,④ 明らかな残尿を認める,の4 つのうち2 つを満たす例を閉塞ありと規定すると,排尿筋括約筋協調不全や明らかな神経障害およびacontractile bladder を除けば2.74% に閉塞を認めたと報告されており6),男性同様の基準では閉塞の範疇に入る患者は決して多くはないことがわかる。ただし,女性が男性同様の尿流動態パラメータで評価できるかどうかについては議論があり,さらなる検討を要する。
一方,排尿筋低活動の原因は,神経因性と非神経因性のいずれかに分けられる。 排尿筋低活動があっても腹圧排尿で排尿できる場合が多いため,それのみでは生活に支障をきたすことは少ない。しかし,このような患者が尿失禁の手術を受ける場合には,術後の排尿困難のリスクが高くなる7)。また,下部尿路閉塞は軽度であっても排尿筋低活動を伴っていると著明な尿流低下や残尿量の増加をきたすことがある。

1)膀胱・尿道の病態・疾患

a. 膀胱頸部閉塞
 女性の膀胱頸部閉塞の診断基準は確立されていない8,9)。膀胱頸部閉塞には機械的閉塞または機能的閉塞があり,両者の鑑別が治療上重要となる。Diokno らは1984 年,ビデオウロダイナミクスを用いて本病態をはじめて明らかにした10)。Nittiらは,1999 年に非神経因性の排尿障害を精査する目的で多チャンネルウロダイナミクスを施行した患者331 例中,ビデオウロダイナミクスを施行した261 例について検討した11)。76 例(23%)が閉塞ありと判定されたが,76 例中12 例(16%)が原発性の膀胱頸部閉塞と診断された。33% の症例では不適切な排尿が原因であった。28% が膀胱瘤,14% が過去の尿失禁手術,4% が尿道狭窄,3% が子宮脱によるものであった。
 Groutz らの2000 年の報告によると,複数回の尿流測定にて最大尿流率12 mL/s未満,最大尿流時排尿筋圧が20 cmH2O 以上を閉塞と定義して検討したところ,わずか38 例(6.5%)しかこの基準に当てはまる症例はなかった12)。うち3 例(8%)が原発性の膀胱頸部閉塞であった。10 例(26%)が過去の尿失禁手術による排尿困難であった。24% が高度の骨盤臓器脱,13% は尿道狭窄,5% が不適切な排尿,5%が排尿筋括約筋協調不全,3% が尿道憩室であった。16% は原因不明であった。
 Smith とAppell は不適切な排尿と機能的膀胱頸部閉塞を尿流動態検査にて区別することの重要性を強調している13)。彼らは,自覚症状,尿流測定,排尿時筋電図と尿流動態検査は,排尿時の膀胱頸部を評価するために透視下の観察を行うのと同様に重要であるとしている。
b. 加齢に伴う排尿筋低活動
 中高年女性では,明らかな神経疾患やその他の要因がないにもかかわらず,排尿筋低活動を認めることがある。原因の詳細は不明であるが,加齢により膀胱壁における平滑筋の占める割合は低下し,結合織の占める割合が増加する。そのため排尿筋低活動ならびに低コンプライアンス膀胱を認めるとされる1)。また,日常的に排尿回数が少なく,多量の残尿を認める症例(infrequent voiding syndrome)を時に経験することがある。
c. 膀胱憩室
 下部尿路閉塞に起因する膀胱内圧の上昇が原因と推定され,通常,膀胱粘膜が筋層を貫いている1)。憩室内の尿は残尿となるので,尿路感染症が発生しやすい。排尿症状が主体であるが,感染合併に伴い蓄尿症状,排尿痛,尿混濁もみられる。
d. 膀胱結石
 膀胱粘膜刺激による蓄尿症状が主であるが,結石が内尿道口に嵌頓すると尿線途絶などの排尿症状をきたす1)
e. 尿道狭窄
 女性における尿道狭窄は決して珍しくない。当然,下部尿路閉塞の原因となるが,尿流が低下した程度では医療機関を受診するほどには困ることはなく,閉塞により生じた尿意切迫感や切迫性尿失禁によって受診することが少なくないので,主訴が蓄尿症状でもこれらがないかどうか注意する必要がある。
f. 尿道憩室
 女性の0.6〜6% にあるといわれているが,多くは無症状のため診断されていない例が多いと推測されている14)。症状は排尿困難の他に尿失禁,性交痛,排尿後尿滴下などであり,中年以降に診断される例が多い。感染,結石,悪性腫瘍を合併する場合もある。

2)骨盤臓器脱・子宮筋腫

一般に骨盤臓器脱による排尿症状は,骨盤臓器脱の進行に伴い尿道が屈曲することによる下部尿路閉塞が主となると考えられているが,排尿症状と有意な相関のあるPOP-Q の値はBa 値(第5章「診断:2. 診察」参照)のみであるとされる15)。また,高度の骨盤臓器脱で排尿症状を有する場合,下部尿路閉塞型の排尿パターンに加えて尿意切迫感や切迫性尿失禁などの蓄尿症状の合併が多い。骨盤臓器脱が排尿症状を引き起こすメカニズムは,機械的閉塞のみならず神経系への影響なども推定されており,骨盤臓器脱の修復で排尿症状が改善するメカニズムも単なる機械的閉塞の解除だけではない可能性がある。
Bradley らによると,下部尿路閉塞と下垂部位との相関は,前壁p=0.4,後壁p<0.01,最も下垂した部分p=0.01 であり,後壁の下垂が下部尿路閉塞と最もよく相関していた16,17)。一方,Ellerkmann らは,排尿症状(排尿遅延,尿線途絶)は,前腟壁や腟円蓋部の下垂の重症度に相関するとしている18)。Stage III やIV の骨盤臓器脱が排尿症状に関連し,stage I やII の骨盤臓器脱が腹圧性尿失禁などの蓄尿症状と関連していると考えられる。重症の骨盤臓器脱は尿道や膀胱頸部の屈曲が機械的閉塞を作り,腹圧性尿失禁の発生を防止している。FitzGerald らによると,stageIII,IV の膀胱瘤ではペッサリーや手術によって臓器脱を修復することにより,尿流動態検査所見で認められた閉塞性排尿パターンは94% の患者で消失するとされる19)。一方,骨盤臓器脱による慢性的な膀胱過伸展や下部尿路閉塞のために排尿筋低活動になる可能性が報告されている20)
また,頻度は高くはないが,大きな子宮筋腫により,下部尿路閉塞が生じ,排尿症状を呈することがある。後屈子宮や子宮頸部筋腫で起こりやすいとされる。子宮筋腫に対する子宮摘除後の下部尿路症状の変化を前向きに調査した報告によると,術前に81% の症例が何らかの排尿症状を有していたが,術後は47% に減少したことから,子宮筋腫が排尿症状の原因になっていたと考えられる21)

3)神経系の疾患

蓄尿症状を呈する神経系の疾患の項との一部重複を避けるために,重要なものに関して記載した。神経系疾患が関与する病態の詳細は前項を参照されたい。
神経疾患が下部尿路閉塞をきたす病態としては,排尿筋括約筋協調不全が重要である。仙髄より上位の障害で生じることが多く,脳の疾患としては,脳幹部に発症した脳血管障害,脳腫瘍などがある 1)。パーキンソン病は,一般に排尿症状より蓄尿症状が多いが,両者をあわせもつ症例も少なくない。多系統萎縮症も進行して橋や延髄に病変が及ぶと排尿症状を認める。 脊髄の疾患としては,仙髄より上位に障害があると排尿筋括約筋協調不全による排尿障害を生じることが多い1)。多発性硬化症にも排尿筋括約筋協調不全を認めることが少なくない。まれなものに髄膜炎─尿閉症候群(Elsberg 症候群とも呼ばれる)がある。 一方,仙髄あるいは,それより末梢が障害された場合は,排尿筋低活動を呈しやすい。主な疾患としては二分脊椎や腰椎椎間板ヘルニアなどの馬尾神経障害,骨盤外傷や子宮癌,直腸癌手術による骨盤神経障害,糖尿病,悪性貧血,アルコール性神経障害,帯状疱疹,陰部単純疱疹,Guillain-Barre 症候群などの末梢神経障害がある1)

4)心因性

明確な定義はないが,下部尿路の器質的疾患や機能的障害を除外した上で,その発症が心因性障害と密接な相関を認める,あるいは心的障害の除去により下部尿路症状が消失,軽減するとされている22)
心因性下部尿路機能障害では尿閉にまで至る排尿症状や,頻尿・尿意切迫感などの蓄尿症状がそれぞれ単独または合併してみられる。男性にもみられるが,女性のほうが多い。不安神経症や情動的うつに多く,強いストレスと身体症状で発症,睡眠中は症状が消失するなどが特徴としてあげられる。下腹部や骨盤部の圧迫感,胃腸症状などの不定愁訴を高頻度に合併する。

5)尿失禁手術後

中部尿道スリング手術により術後排尿困難が起こりうる。TVT(tension-free vaginaltape)手術とTOT(transobturator tape)手術では,術後排尿困難の発生率はTVT が0〜20.6% と報告されているのに対し23),TOT は2.1〜6.7% であり24),術後排尿困難発生率はTVT のほうが高いとされる25)

6)薬剤性

排尿筋収縮力を低下させる作用のある薬剤(抗コリン薬,感冒薬,抗ヒスタミン薬,抗うつ薬など)の服用により,女性でも尿閉をきたすことがある。特にすでに下部尿路閉塞や排尿筋低活動を有している場合に問題となりやすい(「診断:1 症状,問診票 表5」参照)。

7)その他

明らかな神経疾患や原因がなく外括約筋の緊張亢進による排尿障害をきたす病態をFowler 症候群とよぶ。30 歳以下の若い年代の女性にみられ,時に尿閉の原因になるとされる26)
参考文献
1) 日本排尿機能学会男性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会編.男性下部尿路症状診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2008
2) 泌尿器科領域の治療標準化に関する研究班.EBM に基づく尿失禁診療ガイドライン.じほう,2004
3) 日本排尿機能学会過活動膀胱ガイドライン作成委員会編.過活動膀胱診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2005
4) 日本排尿機能学会過活動膀胱ガイドライン作成委員会編.過活動膀胱診療ガイドライン改訂ダイジェスト版.ブラックウェルパブリッシング,2008
5) 日本間質性膀胱炎研究会ガイドライン作成委員会編.間質性膀胱炎診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシング,2007
6) Massey JA, Abrams PH. Obstructed voiding in the female. Br J Urol 1988; 61: 36-39
7) Farrar DJ, Osborne JL. Voiding dysfunction in women. In: Mundy AR, Stephenson TP, Wein AJ eds. Urodynamics: principles, practice and application. 2nd ed. New York: Churchill Livingstone, 1994: 327-333
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9) Schäfer W. Principles and clinical application of advanced urodynamic analysis of voiding function. Urol Clin North Am 1990; 17: 553-566
10) Diokno AC, Hollander JB, Bennett CJ. Bladder neck obstruction in women: a real entity. J Urol 1984; 132: 294-298
11) Nitti VW, Tu LM, Gitlin J. Diagnosing bladder outlet obstruction in women. J Urol 1999; 161: 1535-1540
12) Groutz A, Blaivas JG, Chaikin DC. Bladder outlet obstruction in women: definition and characteristics. Neurourol Urodyn 2000; 19: 213-220
13) Smith PP, Appell RA. Functional obstructed voiding in the neurologically normal patient. Curr Urol Rep 2006; 7: 346-353
14) Cardozo L, Staskin D eds. Textbook of female urology and urogynaecology. London: Isis Medical Media, 2001
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25) de Tayrac R, Madelenat P. Evolution of surgical routes in female stress urinary incontinence. Gynecol Obstet Fertil 2004; 32: 1031-1038
26) Fowler CJ, Christmas TJ, Chapple CR, Parkhouse HF, Kirby RS, Jacobs HS. Abnormal electromyographic activity of the urethral sphincter, voiding dysfunction, and polycystic ovaries: a new syndrome? BMJ 1988; 297: 1436-1438


 

 
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