(旧版)女性下部尿路症状診療ガイドライン
3
疫学とQOL
2 女性下部尿路症状とQOL
1)QOL に対する影響
下部尿路症状(lower urinary tract symptoms: LUTS)は,蓄尿症状(storage symptoms)と排尿症状(voiding symptoms),排尿後症状(post micturition symptoms)に分けられるが,頻尿,尿失禁,尿意切迫感などの蓄尿症状は排尿症状,排尿後症状に比べて,生活における支障度がより高いことが知られている。蓄尿障害は,上部尿路障害や生命にかかわる身体的障害をもたらすことはまれであるが,QOL を障害する。本邦において日本排尿機能学会により行われた下部尿路症状の疫学調査27,29)では,下部尿路症状の日常生活における支障度について包括的な検討が行われた。それによると,なんらかの下部尿路症状で生活に影響のあった者は14.7% であり,影響は心の健康,活力,身体的活動,家事・仕事,社会的活動などの領域にみられた。ある症状を問題とする者の割合は,夜間頻尿,昼間頻尿,腹圧性尿失禁,尿意切迫感,切迫性尿失禁,尿勢低下の順であり,一般的に蓄尿症状のほうが排尿症状より支障度が高い傾向がみられ,男女別の検討では,男性での最も困る症状は夜間頻尿で,女性では夜間頻尿と腹圧性尿失禁が同等であった(図3)。このように,男女間における影響度については若干の差がみられるものの,下部尿路症状は男女いずれにおいてもQOL を障害する7,20,51)。
下部尿路症状をきたす下部尿路機能障害の診療においては,従来は他覚的検査に よる評価が重視されてきたが,近年,自覚症状,およびQOL が重要な評価項目であるとの認識が世界的に広まりつつある。下部尿路症状は多岐にわたる領域で,日常生活に支障をきたすため,疾患の重症度や治療の有効性は,臨床医学的パラメータのみで評価することは困難であり,QOL の評価は不可欠である。また,さまざまな下部尿路症状のQOL に及ぼす検討や,QOLを評価するツールとしての質問票が開発され,妥当性の検証された日本語版も作成されている。
さまざまな妥当性の検証されたQOL 質問票を用いた女性下部尿路症状のQOL に対する影響が報告されており,尿失禁,尿意切迫感,夜間頻尿などの蓄尿症状を中心に検討が行われ,年齢を問わず,これらの症状がQOL を障害することが報告されている3,14,52-64)。骨盤臓器脱は女性特有の疾患であり,臓器脱による不快感などの症状のみならず,さまざまな下部尿路症状を引き起こしてQOL を障害することが知られ,QOL 質問票を用いた骨盤臓器脱および関連下部尿路症状および性機能障害とQOL との関連が検討されている65-68)。また,下部尿路症状,骨盤臓器脱の治療によるQOL の変化についても報告され,尿失禁治療によるQOL,性機能の改善69-74),骨盤臓器脱および関連下部尿路症状の治療によるQOL・性機能改善66,75-86)効果が報告されている。
下部尿路症状をきたす下部尿路機能障害の診療においては,従来は他覚的検査に よる評価が重視されてきたが,近年,自覚症状,およびQOL が重要な評価項目であるとの認識が世界的に広まりつつある。下部尿路症状は多岐にわたる領域で,日常生活に支障をきたすため,疾患の重症度や治療の有効性は,臨床医学的パラメータのみで評価することは困難であり,QOL の評価は不可欠である。また,さまざまな下部尿路症状のQOL に及ぼす検討や,QOLを評価するツールとしての質問票が開発され,妥当性の検証された日本語版も作成されている。
さまざまな妥当性の検証されたQOL 質問票を用いた女性下部尿路症状のQOL に対する影響が報告されており,尿失禁,尿意切迫感,夜間頻尿などの蓄尿症状を中心に検討が行われ,年齢を問わず,これらの症状がQOL を障害することが報告されている3,14,52-64)。骨盤臓器脱は女性特有の疾患であり,臓器脱による不快感などの症状のみならず,さまざまな下部尿路症状を引き起こしてQOL を障害することが知られ,QOL 質問票を用いた骨盤臓器脱および関連下部尿路症状および性機能障害とQOL との関連が検討されている65-68)。また,下部尿路症状,骨盤臓器脱の治療によるQOL の変化についても報告され,尿失禁治療によるQOL,性機能の改善69-74),骨盤臓器脱および関連下部尿路症状の治療によるQOL・性機能改善66,75-86)効果が報告されている。

2)QOL の評価方法
QOL は多分に主観的なものであり,文化や教育,あるいは社会的背景因子によっても影響され,QOL の定義についてのgold-standard はない。QOL は個人の価値観,信念,あるいは文化,教育などに影響されるものであり,医師,家族・介護者ではなく,患者自身により評価されるべきである。実際,医師あるいは介護者によるQOL の評価は,患者自身による評価と一致しないことが指摘され,一般的には医師のほうがQOL を過小評価する傾向があると報告されている87,88)。
QOL の評価は質問票(questionnaire)によって行われ,質問票には包括的質問票(generic questionnaire)と疾患特異的質問票(disease-specific questionnaire)がある。包括的質問票は,特定の疾患や状態に限らず,幅広い対象におけるQOL を普遍的に測定するために開発されたもので,疾患特異的QOL 質問票は,特定の疾患におけるQOL への影響や治療による変化を評価するために開発されたものである。包括的質問票は,異なる疾患や状態におけるQOL の違いを普遍的に評価するためには有用であるが,ある特定の疾患の評価においては特異性に欠け,臨床的には疾患特異的QOL 質問票が用いられることが多い。一般にQOL 質問票は多領域評価を含むことが必要で(multidimension structure),身体的機能,社会的活動,対人関係,仕事,精神面,健康感,生活満足度,性生活,睡眠,痛み,疲労・活力などの領域を含む。
質問票は,QOL という自覚的な現象を他覚的な方法で測定する手段である。質問票の開発は単純な過程ではなく,ある質問票が,本当に測定しようとするものを測定しているか,また評価しようとする対象に用いるのが適切かどうかを確信するためには,多くの検討がなされる必要がある。QOL 質問票は,QOL を科学的に評価するためのいわば道具であるので,測定道具としての信頼性・妥当性を満たしているかどうかが科学的に検証されなければならない。検証は,内的整合性評価,再テスト法などを含む信頼性の検証,また基準関連妥当性,構成概念妥当性などの妥当性の検証,さらに治療前後での変化についての反応性の検証が必要である。また,臨床において使用するためには,質問票の簡便性も重要な条件となる。
QOL の評価は質問票(questionnaire)によって行われ,質問票には包括的質問票(generic questionnaire)と疾患特異的質問票(disease-specific questionnaire)がある。包括的質問票は,特定の疾患や状態に限らず,幅広い対象におけるQOL を普遍的に測定するために開発されたもので,疾患特異的QOL 質問票は,特定の疾患におけるQOL への影響や治療による変化を評価するために開発されたものである。包括的質問票は,異なる疾患や状態におけるQOL の違いを普遍的に評価するためには有用であるが,ある特定の疾患の評価においては特異性に欠け,臨床的には疾患特異的QOL 質問票が用いられることが多い。一般にQOL 質問票は多領域評価を含むことが必要で(multidimension structure),身体的機能,社会的活動,対人関係,仕事,精神面,健康感,生活満足度,性生活,睡眠,痛み,疲労・活力などの領域を含む。
質問票は,QOL という自覚的な現象を他覚的な方法で測定する手段である。質問票の開発は単純な過程ではなく,ある質問票が,本当に測定しようとするものを測定しているか,また評価しようとする対象に用いるのが適切かどうかを確信するためには,多くの検討がなされる必要がある。QOL 質問票は,QOL を科学的に評価するためのいわば道具であるので,測定道具としての信頼性・妥当性を満たしているかどうかが科学的に検証されなければならない。検証は,内的整合性評価,再テスト法などを含む信頼性の検証,また基準関連妥当性,構成概念妥当性などの妥当性の検証,さらに治療前後での変化についての反応性の検証が必要である。また,臨床において使用するためには,質問票の簡便性も重要な条件となる。
3)推奨される質問票
包括的質問票としては,妥当性の検証された日本語版SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey)が一般的に用いられる。疾患特異的QOL 質問票としては,LUTS〔Urogenital Distress Inventory(UDI),Incontinence Impact Questionnaire(IIQ),Incontinence Quality of Life(I-QOL),King’s Health Questionnaire(KHQ),International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(ICIQ-SF),Overactive Bladderquestionnaire(OAB-q),Nocturia-Quality of Life(N-QOL)〕および女性骨盤臓器脱〔Pelvic Floor Distress Inventory(PFDI),Pelvic Floor Impact Questionnaire(PFIQ),Prolapse/Urinary Incontinence Sexual Questionnaire IUGA-Revised(PISQ-IR),International Consultation on Incontinence Questionnaire-Vaginal Symptoms(ICIQ-VS),Prolapse Quality of Life(P-QOL)〕における種々のQOL 質問票が開発され妥当性の検証が行われているが,英語版として開発されたものが多く,さまざまな言語への翻訳版やその妥当性の検証が行われている89-109)。本邦では,下部尿路症状の評価のための症状・QOL 質問票として,主要下部尿路症状スコア(Core Lower Urinary Tract Symptom Score: CLSS)が開発され,診断未確定の患者における包括的な症状・支障度の評価に有用とされている110-112)(「診断」参照)。CLSSでのQOL評価についてはIPSS と類似した7 段階の質問票が1 項目含まれている。
本邦で開発された下部尿路症状におけるQOL 質問票は少なく,また新たな質問票の開発はきわめて甚大な労力を必要とするため,すでに開発された質問票を目的に応じて用いることが現実的である。上記の質問票を日本語訳して用いる場合は,日本語訳の言語学的妥当性を検証し,さらに日本語版について,信頼性,妥当性,反応性を検証する必要がある。日本語で妥当性の検証された症状・QOL 質問票を表2 に示す113-120)。具体的質問票の内容は診断の項(「診断:1 症状,問診票」参照)に譲るが,臨床,研究において目的に応じて適切なQOL 質問票を用いることが推奨される。
本邦で開発された下部尿路症状におけるQOL 質問票は少なく,また新たな質問票の開発はきわめて甚大な労力を必要とするため,すでに開発された質問票を目的に応じて用いることが現実的である。上記の質問票を日本語訳して用いる場合は,日本語訳の言語学的妥当性を検証し,さらに日本語版について,信頼性,妥当性,反応性を検証する必要がある。日本語で妥当性の検証された症状・QOL 質問票を表2 に示す113-120)。具体的質問票の内容は診断の項(「診断:1 症状,問診票」参照)に譲るが,臨床,研究において目的に応じて適切なQOL 質問票を用いることが推奨される。
