(旧版)女性下部尿路症状診療ガイドライン
2
女性下部尿路症状とは
2 女性下部尿路症状の臨床的意義
1)成因
過活動膀胱と腹圧性尿失禁は互いに相関があり,BMI(body mass index)の増加とも相関が認められている5)。若い未産婦女性にみられる切迫性尿失禁と排尿症状は潜在性の神経因性膀胱の可能性が示唆されている6)。20 歳以上の約4,700 例の中国女性を対象とした検討7,8)によれば,下部尿路症状と過活動膀胱が約40%,8% に認められ,リスク因子は前者が閉経,2 回以上の分娩,便秘,出産児体重,会陰切開,後者が閉経,2 回以上の分娩,出産児体重,会陰切開であった。70 歳以上の約200例の高齢女性を対象とした検討9)によれば,排尿症状が主体であり,下部尿路症状との関連は便秘,筋肉・骨疾患,尿路感染症に認められた。糖尿病,高血圧,脂質異常症(高脂血症),喫煙などの血管系リスクの高い女性では下部尿路症状の発症が多いとされる10)。
20〜59 歳の約3,100 例と約3,500 例の台湾女性を対象とし,それぞれ,尿失禁11)と頻尿12)について行った検討によれば,尿失禁と関連が認められたのは出産回数と最大尿流率,尿道閉鎖圧,機能的尿道長であり,頻尿のリスク因子は糖尿病と高血圧であった。女性スポーツ選手では腹圧性尿失禁が25% に認められたが,それらの95% が他人には話していなかった13)。機能障害性排尿の女性患者はうつと不安に陥ることが多く,精神状態の評価が大切とされている14)。中国の検討15)では,女性の混合性尿失禁は全体としては9.4% に認められ,年齢,経腟分娩,便秘がリスク因子であった。30〜79 歳の約2,000 例の女性を対象としたBoston Area Community Health(BACH)Survey16)によれば,腹囲が低値な女性ではカロリー摂取量と下部尿路症状とに正の相関があった。
20〜59 歳の約3,100 例と約3,500 例の台湾女性を対象とし,それぞれ,尿失禁11)と頻尿12)について行った検討によれば,尿失禁と関連が認められたのは出産回数と最大尿流率,尿道閉鎖圧,機能的尿道長であり,頻尿のリスク因子は糖尿病と高血圧であった。女性スポーツ選手では腹圧性尿失禁が25% に認められたが,それらの95% が他人には話していなかった13)。機能障害性排尿の女性患者はうつと不安に陥ることが多く,精神状態の評価が大切とされている14)。中国の検討15)では,女性の混合性尿失禁は全体としては9.4% に認められ,年齢,経腟分娩,便秘がリスク因子であった。30〜79 歳の約2,000 例の女性を対象としたBoston Area Community Health(BACH)Survey16)によれば,腹囲が低値な女性ではカロリー摂取量と下部尿路症状とに正の相関があった。
2)自然史
頻尿,尿意切迫感,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁のある成人女性は,下部尿路症状を有さない女性と比べて,小児期に機能障害性排尿を既往歴に有することが多いとされている17)。
一般女性を対象として,尿失禁および尿失禁以外の下部尿路症状について6 年半の間に縦断的に検討した報告18,19)によると,尿失禁の頻度はベースライン時と6年半後で32%,43% であり,毎年の平均累積頻度は3.9% であった。また,ベースライン時に尿失禁のあった女性患者が6 年半後には2.9% で消失しており,その半数はベースライン時には中等度の尿失禁を有する女性であった。一方,下部尿路症状の頻度はベースライン時と6 年半後で35.9%,47.1% であり,平均累積頻度は5.3% であった。また,ベースライン時に下部尿路症状のあった女性患者が6 年半後には4.6% で消失していた。尿意切迫感,頻尿,夜間頻尿が改善し,残尿感は悪化傾向があった。尿失禁および下部尿路症状は必ずしも進行性ではなく,変動が認められた。2006 年と2008 年(フォローアップ)の2 年間にわたり,尿失禁のタイプの頻度および消失について検討した報告20)によると,新たに尿失禁となるのが17%,尿失禁が消失するのが16.8% であった。女性尿失禁はタイプ間の変動も起こり,動的病態であることが示唆されている。
一般女性を対象として,尿失禁および尿失禁以外の下部尿路症状について6 年半の間に縦断的に検討した報告18,19)によると,尿失禁の頻度はベースライン時と6年半後で32%,43% であり,毎年の平均累積頻度は3.9% であった。また,ベースライン時に尿失禁のあった女性患者が6 年半後には2.9% で消失しており,その半数はベースライン時には中等度の尿失禁を有する女性であった。一方,下部尿路症状の頻度はベースライン時と6 年半後で35.9%,47.1% であり,平均累積頻度は5.3% であった。また,ベースライン時に下部尿路症状のあった女性患者が6 年半後には4.6% で消失していた。尿意切迫感,頻尿,夜間頻尿が改善し,残尿感は悪化傾向があった。尿失禁および下部尿路症状は必ずしも進行性ではなく,変動が認められた。2006 年と2008 年(フォローアップ)の2 年間にわたり,尿失禁のタイプの頻度および消失について検討した報告20)によると,新たに尿失禁となるのが17%,尿失禁が消失するのが16.8% であった。女性尿失禁はタイプ間の変動も起こり,動的病態であることが示唆されている。
3)頻度
40〜79 歳の男女の下部尿路症状について国際前立腺症状スコア(IPSS)を用いて検討したUrEpik study 21)によれば,若年では女性が男性より多く起こり,高齢では男性が多いとされている。また,重症な下部尿路症状は高齢男性に多いことが示されている。
検診を受診した女性約1,600 例を対象としたIPSS とInternational Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(ICIQ-SF)による検討22)では,尿失禁の重症度とIPSS とに相関があり,女性下部尿路症状に対する定量的評価の重要性が示唆されている。中年女性を対象として尿失禁を自己申告した女性と尿禁制であると自己申告した女性とに区分した検討23)によれば,尿失禁を自己申告した女性では尿失禁以外の下部尿路症状も多いとされている。20〜95 歳の男女それぞれ約1,100 例を対象とした検討24)によれば,夜間頻尿は女性の58%,男性の53% に認められ,女性に多かった。30〜89 歳の約3,400 例の韓国女性を対象とした検討25)によれば,約60% で1 カ月に1 回以上は尿失禁が認められた。
20〜59 歳の約3,500 例の台湾女性を対象とした検討26)によれば,尿失禁は5.2%に認められた。男女それぞれ約700 例,約750 例を対象とした検討27)によれば,頻尿,尿意切迫感,蓄尿症状は女性に多く認められている。また,男女それぞれ34%,43% で下部尿路症状と痛みが併存することが示された。40 歳以上の米国女性の過活動膀胱の頻度は43.1% であり,そのうち半数以上が困っているとされる28)。韓国のEPIC study 29)では,下部尿路症状と過活動膀胱が高頻度に認められ,また,女性においては下部尿路症状のなかでは腹圧性尿失禁が最も多かった。
加齢との関係については,尿失禁が年齢による影響がないとする報告26)以外は,日本排尿機能学会の疫学研究30-32),IPSS を使用した市民公開講座に参加した約650 例の男女を対象とした検討33),UrEpik study21),550 例の外来受診患者を対象とした検討34),検診を受診した男性約2,300 例,女性約1,700 例を対象とした検討35),韓国女性での検討25)などで下部尿路症状が加齢により増加することが報告されている。BACH Survey36)でも下部尿路症状が加齢に伴い増加するとされ,女性の混合性尿失禁が加齢に伴い増加し,70 歳以上では24.1% との報告15)もある。韓国のEPIC study29)でも下部尿路症状と過活動膀胱が加齢に伴い増加している。
検診を受診した女性約1,600 例を対象としたIPSS とInternational Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(ICIQ-SF)による検討22)では,尿失禁の重症度とIPSS とに相関があり,女性下部尿路症状に対する定量的評価の重要性が示唆されている。中年女性を対象として尿失禁を自己申告した女性と尿禁制であると自己申告した女性とに区分した検討23)によれば,尿失禁を自己申告した女性では尿失禁以外の下部尿路症状も多いとされている。20〜95 歳の男女それぞれ約1,100 例を対象とした検討24)によれば,夜間頻尿は女性の58%,男性の53% に認められ,女性に多かった。30〜89 歳の約3,400 例の韓国女性を対象とした検討25)によれば,約60% で1 カ月に1 回以上は尿失禁が認められた。
20〜59 歳の約3,500 例の台湾女性を対象とした検討26)によれば,尿失禁は5.2%に認められた。男女それぞれ約700 例,約750 例を対象とした検討27)によれば,頻尿,尿意切迫感,蓄尿症状は女性に多く認められている。また,男女それぞれ34%,43% で下部尿路症状と痛みが併存することが示された。40 歳以上の米国女性の過活動膀胱の頻度は43.1% であり,そのうち半数以上が困っているとされる28)。韓国のEPIC study 29)では,下部尿路症状と過活動膀胱が高頻度に認められ,また,女性においては下部尿路症状のなかでは腹圧性尿失禁が最も多かった。
加齢との関係については,尿失禁が年齢による影響がないとする報告26)以外は,日本排尿機能学会の疫学研究30-32),IPSS を使用した市民公開講座に参加した約650 例の男女を対象とした検討33),UrEpik study21),550 例の外来受診患者を対象とした検討34),検診を受診した男性約2,300 例,女性約1,700 例を対象とした検討35),韓国女性での検討25)などで下部尿路症状が加齢により増加することが報告されている。BACH Survey36)でも下部尿路症状が加齢に伴い増加するとされ,女性の混合性尿失禁が加齢に伴い増加し,70 歳以上では24.1% との報告15)もある。韓国のEPIC study29)でも下部尿路症状と過活動膀胱が加齢に伴い増加している。
4)医療機関への受診
日本排尿機能学会の疫学調査30-32)では,下部尿路症状による医療機関への受診は約8% に過ぎず,きわめて低いことが示されている。50 歳以上のデンマーク女性の調査37)でも,排尿の問題で医療機関を受診したのは8% に過ぎず,治療されていないことが示唆されている。19 歳以上の約2,700 例を対象としたマレーシアでの検討38)によれば,約20% で下部尿路症状を有しているのに,下部尿路症状のある女性で治療を求めたのは約20% に過ぎず,受診をしない理由は下部尿路症状に対する知識不足であった。女性の下部尿路症状は頻度が高く,QOL(quality of life)を損ねているが,恥ずかしさのために医療機関を受診しないことが多く,下部尿路症状に関して社会一般への周知が必要である39)。1991 年と2007 年に実施した20歳以上の女性を対象とした検討40)によれば,16 年間で尿失禁と過活動膀胱の頻度には変化がなかったが,夜間頻尿と昼間頻尿の頻度が増加していた。医療機関を受診したのは1991 年と2007 年でいずれも10% 以下に過ぎなかった。男女間における下部尿路症状に対する治療の求め方の違いに関する検討41)によれば,男女の受診率は同じであったが,男性では加齢および下部尿路症状の重症化に相関が認められた。一方,女性では困窮度と相関が認められ,男女間で受診動機の違いが示唆されている。
5)性機能との関連
下部尿路症状や尿失禁を有する女性患者の半数が性機能障害を有しており,一般的に健康な女性と比べると高率であった。特に腹圧性尿失禁例では性欲が低下していた42)。
下部尿路症状は,40〜65 歳台の男女を問わず,性機能に影響を与え,性機能障害の独立したリスク因子であった43)。20〜91 歳台の約1,200 例の女性を対象とした調査44)では,過活動膀胱が性活動に影響があるとしたのは31% であった。40〜60歳台の約2,300 例の女性を対象とし,1 年間での性活動と下部尿路症状の相関を検討した報告45)では,性活動のない女性では,ある女性よりも下部尿路症状の発症が多く認められ,性活動が継続されていた女性では下部尿路症状の発症にも変化がなかった。
腹圧性尿失禁,過活動膀胱,健康関連QOL,性機能の相関を検討した報告46)では,腹圧性尿失禁の女性は性交痛と性交時の尿漏れを過活動膀胱の女性より多く経験していた。下部尿路症状を有する女性では半数近くが精神的に病的状態やショックを経験しており,下部尿路症状を有しない女性と比べて高率であった47)。OABwet(尿失禁を伴う過活動膀胱)の患者では男女を問わず,性生活に支障を生じており,過活動膀胱患者に対する性生活への支障の有無を評価すべきとされる48)。腹圧性尿失禁を有する女性は有しない女性よりも性機能指標が低値を示しており,腹圧性尿失禁が性機能障害に関連することが示唆されている49)。
下部尿路症状は,40〜65 歳台の男女を問わず,性機能に影響を与え,性機能障害の独立したリスク因子であった43)。20〜91 歳台の約1,200 例の女性を対象とした調査44)では,過活動膀胱が性活動に影響があるとしたのは31% であった。40〜60歳台の約2,300 例の女性を対象とし,1 年間での性活動と下部尿路症状の相関を検討した報告45)では,性活動のない女性では,ある女性よりも下部尿路症状の発症が多く認められ,性活動が継続されていた女性では下部尿路症状の発症にも変化がなかった。
腹圧性尿失禁,過活動膀胱,健康関連QOL,性機能の相関を検討した報告46)では,腹圧性尿失禁の女性は性交痛と性交時の尿漏れを過活動膀胱の女性より多く経験していた。下部尿路症状を有する女性では半数近くが精神的に病的状態やショックを経験しており,下部尿路症状を有しない女性と比べて高率であった47)。OABwet(尿失禁を伴う過活動膀胱)の患者では男女を問わず,性生活に支障を生じており,過活動膀胱患者に対する性生活への支障の有無を評価すべきとされる48)。腹圧性尿失禁を有する女性は有しない女性よりも性機能指標が低値を示しており,腹圧性尿失禁が性機能障害に関連することが示唆されている49)。
6)妊娠および分娩との関連
約800 例の正常妊娠女性を対象とした検討50)では,夜間頻尿が最も多く,次いで腹圧性尿失禁,尿意切迫感,頻尿が認められ,いずれも妊娠周期の進行に伴い,増加した。さらに,出産回数が下部尿路症状の発症と関連があり,腹圧性尿失禁は経産婦に多く,他の下部尿路症状は初産婦に多かった。妊娠中および分娩後の下部尿路症状について検討した報告51)によると,蓄尿症状が妊娠初期から認められ,分娩後には腹圧性尿失禁は継続し,その他の蓄尿症状は改善するとされる。ブラジルの500 例の妊娠女性を対象とした検討52)では下部尿路症状が63.8% で認められ,リスク因子は分娩回数,喫煙,便秘,コーヒー摂取であった。初回妊娠および出産の5 年後には腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁が30%,15% に認められ,出産後3 カ月で両症状がある女性では症状が持続するリスクが高いとされる53)。
経腟分娩と帝王切開とで下部尿路症状の発症を比較すると,腹圧性尿失禁が経腟分娩で多く,また妊娠初期に腹圧性尿失禁があった女性では経腟分娩,帝王切開の両者のいずれにおいても分娩1 年後に腹圧性尿失禁を認めるリスクが高かった54)。腟式子宮摘除術と腹式子宮摘除術の手術前,手術後6 カ月,3 年後に下部尿路症状の発症について検討した報告55)によると,下部尿路症状が腟式子宮摘除術において腹式子宮摘除術より多く発症するとされる。
経腟分娩と帝王切開とで下部尿路症状の発症を比較すると,腹圧性尿失禁が経腟分娩で多く,また妊娠初期に腹圧性尿失禁があった女性では経腟分娩,帝王切開の両者のいずれにおいても分娩1 年後に腹圧性尿失禁を認めるリスクが高かった54)。腟式子宮摘除術と腹式子宮摘除術の手術前,手術後6 カ月,3 年後に下部尿路症状の発症について検討した報告55)によると,下部尿路症状が腟式子宮摘除術において腹式子宮摘除術より多く発症するとされる。
7)骨盤臓器脱との関連
下部尿路症状を有する女性は,肛門失禁,便秘などの肛門直腸機能異常を合併することが多く,骨盤臓器脱がリスク因子となる56)。骨盤臓器脱患者にみられる下部尿路症状は,核磁気共鳴画像(MRI)で評価した肛門挙筋欠損の程度と相関し,大きな欠損では小さな欠損に比べ発症が少なかった57)。約330 例の骨盤臓器脱患者の検討58)では混合性尿失禁が約70% に認められ,そのなかで,腹圧性尿失禁優位が57%,切迫性尿失禁優位が43% であった。メッシュ手術後1 年で,排尿回数,切迫性尿失禁,残尿量は有意に減少したが,腹圧性尿失禁の頻度は改善しなかった59)。