精巣腫瘍診療ガイドライン 2015年版
CQ25
Stage I 非セミノーマに対してどのような経過観察(サーベイランス)が推奨されるか?
推奨グレードB | Stage I 非セミノーマの再発率は補助療法なしの場合 30%、補助療法を加えた場合 3%以下である。経過観察は、いずれも理学的検査、腫瘍マーカー、胸部 X 線検査、腹部 CT を用いてモニタリングし、補助療法なしではとくに厳密に行う。最初の 2 年は密に経過観察をすべきであるが、5 年以上の長期にわたるフォローアップも必要である。 |
解説
Stage I 非セミノーマに対して再発リスクに応じて追加補助療法を行う場合と追加補助療法なしで厳密に再発をチェックしながら経過観察 (サーベイランス)する方法がある。再発の最も重要な危険因子は摘除精巣における脈管侵襲と胎児性癌1-3)で、低リスクでは経過観察4,5)、高リスクではBEP 2コースによるアジュバント化学療法または神経温存後腹膜リンパ節郭清(RPLND)が推奨される。いずれも Stage I 非セミノーマに対する確立された治療法であり、どれを選択しても 97%以上の長期生存率が得られる6)。しかし、再発の頻度、再発部位および時期は治療によって異なるため、経過観察に必要な検査、その頻度 とタイミング、フォローアップ期間についての至適プロトコールも治療ごとに議論されるべきである。ここでは Stage I 非セミノーマの経過観察について治療別に解説する。
1.経過観察 Stage I 非セミノーマに経過観察を選択した場合の再発率は 30%2,3,7)で、アジュバントとして化学療法または RPLND を加えた場合よりも明らかに高い。このため、より綿密で注意深いモニタリングが要求される。
必要な検査項目として腫瘍マーカーは欠かせない。再発の 70%は腫瘍マーカー上昇を伴い、10~20%は腫瘍マーカー上昇のみで発見されるためである6,8)。理学的検査も忘れてはならない。対側精巣における腫瘍発生の可能性に加えて、再発の 5%は鎖骨上リンパ節や鼠径部腫瘤の触知、女性化乳房を契機に発見されることが報告されている8)。画像検査としては再発の 70%が後腹膜に生じること3)、15%は腫瘍マーカーに異常がみられないこと9)から、腹・骨盤部 CT は重要である。一方、腫瘍マーカー正常かつ腹・骨盤部 CT 正常であるにもかかわらず、胸部に再発が発見されることはまれであり、胸部 CT はルーチンには行われない6)。 再発の 20%を占める肺病変は、ルーチンの胸部 X 線検査で検出されている。
モニタリングの頻度と期間については、再発の半数が精巣摘除術後 6 カ月、80-90%は 1 年以内に、95%は 2 年以内に認められるため2,3,6,9)、経過観察開始時は厳密に、時間経過とともに検査間隔を延ばすという方針が基本になる。非セミノーマの速い増殖速度を考慮すれば、開始時は 1-2 カ月間隔に設定するのが合理的であろう8)。腹・骨盤部 CT については、経過観察開始 1 年間の検査間隔を 2-3 カ月に設定した多くの研究が 95%以上の良好な生存率を報告している9)。CT は 3 年目以降の頻度はアウトカムに影響しないが、この時期においても再発の 10%が後腹膜に発生するため引き続き 6-12 カ月間隔で行うべきである9)。ただし、経過観察開始から 3 カ月、12 カ月の 2 回で十分な再発検出率を示す無作為比較試験の成績が報告されており10)、低リスク患者では 2 年目以降の定期的 CT 検査は不要の可能性がある。
フォローアップ期間については、再発の 1-5%は精巣摘除術後 5 年以上経過して発生することが知られており6,8)、5 年以上の長期フォローアップが必要である。
典型的フォローアップスケジュールを表 1 に示す。現時点でコンセンサスの得られている至適プロトコールはなく、これを基準に個々の予想される再発リスクを考慮して検査間隔を調整するのが合理的であろう。また、患者のコンプライアンスが不良の場合は追加補助療法を考慮すべきである。
表 1 経過観察時のフォローアップ(例)

2.アジュバント化学療法察 アジュバント化学療法に関する長期フォローアップデータは限られているが、 BEP2 コース(または 1 コース)後の再発率はおおむね 2%以下で、経過観察時の 1/10 以下である6,7,11-14)。平均再発時期はやや遅い(平均 20 カ月以上)が、再発パターンは経過観察時と類似している6,7,8,14)。したがって、アジュバント化学療法後のフォローアップスケジュールは、経過観察単独時のモニタリング間隔をやや延長したものが妥当であろう。低い再発率に対応して腹・骨盤部 CT の頻度も下げるのが合理的であるが、後腹膜における奇形腫発生のリスクに対して年 1 回は継続すべきである。平均的フォローアップスケジュールを表 2 に示す。
表 2 化学療法後のフォローアップ(例)

3.RPLND RPLND で外科的に完全な摘除が行われ、かつ病理学的に転移のないことが証明された患者には経過観察が選択される。この場合、後腹膜再発は極めて低く (3%未満)6,15)、再発の頻度が高いのは肺、縦隔、鼠径部の順で、再発の 90%以上は RPLND から 2 年以内に生じる(平均 8 カ月)が、再発の場所と時期に関連性はない8,15)。ほとんどの再発は胸部 X 線検査と腫瘍マーカーで検出される8)。したがって、RPLND 後のフォローアップスケジュールは化学療法後と同様に、経過 観察単独時のモニタリング間隔をやや延長したものが妥当であろう。ただし、後腹膜リンパ節に取り残しの疑いがなければ、ルーチンの腹・骨盤部 CT 検査は必要ない。平均的フォローアップスケジュールを表 3 に示す。
RPLND で転移が検出された場合、アジュバント化学療法を行うべきか否かの無作為比較試験で、全生存率に差はなかったが、アジュバント化学療法によって再発率を 49%から 6%に有意に減少させた16)。
表 3 後腹膜リンパ節郭清後のフォローアップ(例)

文献
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