精巣腫瘍診療ガイドライン 2015年版
CQ23
脳転移症例では、どのような治療が推奨されるか?
推奨グレードB | コントロールすべき重篤な神経症状がないかぎり早急に化学療法を開始すべきである。 |
解説
IGCCCG(International Germ Cell Cancer Collaborative Group)の報告では1)、転移性精巣腫瘍症例の 1.2%が脳転移を伴っているとされており、多数の精巣腫瘍症例の治療を行っている施設でも脳転移症例の経験数は限られている。したがって、後ろ向きに検討された症例集積型レポートを参考にせざるをえない。
Lester らは 22 例の脳転移症例を報告し、そのうち初発時から脳転移がある症例、導入療法(PVB 療法)で CR を得られた後の脳のみへの転移症例は化学療法、放射線療法(全脳照射)、手術療法を組み合わせて根治を目指して、積極的な治療をすべきとした2)。
Bokemeyer らは 44 例の脳転移症例に対し、1.シスプラチンを含む化学療法単独、2.放射線療法(全脳照射 30-45 Gy/20-25 fr)単独、3.手術療法単独、4.化学療法+放射線法、5.化学療法+放射線療法+手術療法を行った。治療方法だけから見た成績は、5 が最も良好で中央値 144 カ月の生存期間が得られたが、 2・3 は予後不良であった。単変量解析による検討では初診時からの脳転移、単発の脳転移巣、化学療法と放射線療法の併用の 3 項目が有意に予後良好因子となった3)。
また、Fossåらは多施設での 139 例の脳転移症例の治療成績を報告している4)。 139 例を初発時あるいは化学療法開始後 4 週以内に脳転移と診断された群(グループ 1)、導入化学療法完遂後に脳転移が出現した群(グループ 2)の 2 群に分類し、検討を行った。5 年疾患特異的生存率はグループ 1 で 45%、グループ 2 で 12%であり、グループ 1 では化学療法が基本治療で、放射線療法は生存率向上に寄与する割合は高くないこと、グループ 2 では化学療法のメリットは少なく、放射線療法(症例により手術療法併用)が重要な治療であると述べている。
Kollmannsberger らは初発時から脳転移のある 22 人に対して high dose VIP 療法±放射線療法(全脳照射)を行い、12 人(55%)で CR が得られたとする良好な成績を報告した5)。しかし現時点では、poor prognosis 症例に対する標準レジメンは BEP 療法が推奨されており、この報告の解釈には慎重を要する。
近年、ガンマナイフなどの定位手術的照射(stereotactic radiosurgery:SRS) が急速に普及してきているが、SRS と従来の手術療法、全脳照射との比較/併用効果などを精巣腫瘍原発例に限定して検討した論文は現状では存在しない。全脳照射は晩期有害事象として記銘力障害など認知機能低下が出現する場合もあり、QOL が著しく損なわれる可能性も念頭に置く必要がある。長期予後が期待できる症例に対しては、1 回照射量を減らし晩期有害事象を軽減する治療計画も考慮すべきであろう。SRS は低侵襲な modality ではあるが、転移巣の個数、大きさ、患者の全身状態、期待される生存期間などを十分に考慮したうえで適応を決定すべきである。
文献
1) | International Germ-Cell Cancer Collaborative Group. International Germ-Cell Consensus Classification:A prognostic factor-based staging system for metastatic germ-cell tumors. J Clin Oncol. 1997;15:594-603.(V) |
2) | Lester SG, MorphisII JG, Hornback NB, et al. Brain metastases and Testicular Tumors: Need for Aggressive Therapy. J Clin Oncol. 1984;2:1397-1403.(IVb) |
3) | Bokemeyer C, Nowak P, Haupt A, et al. Treatment of brain metastases in patients with testicular cancer. J Clin Oncol. 1997;15(4):1449-54.(IVb) |
4) | Fosså SD, Bokemeyer C, Gerl A, et al. Treatment outcome of patients with brain metastases from malignant germ cell tumors. Cancer. 1999;85(4):988-97.(IVb) |
5) | Kollmannsberger C, Nichols C, Bamberg M, et al. First-line high-dose chemotherapy± radiation therapy in patients with metastatic germ-cell cancer and brain metastases. Ann Oncol. 2000;11(5):553-9.(IVb) |