精巣腫瘍診療ガイドライン 2015年版

 
 

CQ7
Stage Iのセミノーマに対して術後補助治療は推奨されるか?

推奨グレードB Stage Iセミノーマに対し、高位精巣摘除術後に経過観察(サーベイランス)が選択された場合、再発率は 15-20%である。しかし、再発した場合でもほぼ 98-99%は治癒可能であり、術後補助療法による不必要な治療や副作用を避けられるので、経過観察は推奨できる。


推奨グレードB 術後放射線治療は再発率を約 5%以下に低下させることができ、経過観察が選択されなかった場合の選択肢として推奨できる。しかし、二次癌発生などの長期的な問題がある。

推奨グレードB カルボプラチン単剤による補助化学療法は再発率を約 5%以下に低下させることができ、再発予防効果は放射線治療と同等で、経過観察が選択されなかった場合の選択肢として推奨できる。安全性も確立されつつあるが、10 年以上にわたる大規模な長期成績は得られていない。


解説
   セミノーマの約 75%は転移を有さない Stage Iのレベルで診断される1)。Stage Iの精巣腫瘍に対しての高位精巣摘除術後のオプションとして、1.経過観察、2.補助放射線療法、3.1 または 2 コースの補助カルボプラチン療法という 3 つの選択肢がある。3 つの選択肢のどれを選んでも、最終的には疾患特異的生存率はほぼ98-99%に及ぶ2-5)。したがって、Stage Iのセミノーマに対する治療方針は、短期的にも長期的にも侵襲の少ない治療を選択するかが焦点である。方針選択にあたっては、各選択肢の臨床データを十分配慮する必要がある。

1.経過観察を選択した場合    再発率(対側精巣腫瘍発生は de novo として含めない場合)は、経過観察期間にもよるが、13-20%である2-5,7,8)。再発の約 7 割は 2 年以内に起こり、再発までの中央値は 14-16 カ月である2,8)。しかし、6.6%の再発は 6 年以降に起こり3)、10 年以降の再発もありうる。経過観察での再発部位の 80-100%が腹部の傍大動脈領域である2,7,8)。しかし、再発後も再発時の Stage に応じた適切な治療が行われれば、治療関連死も含めても、精巣腫瘍関連死は 1%程度である2-5,7,8)
   再発の予後因子については、精巣腫瘍径が 4 cm を超える、rete testis への浸潤がある場合で、2 つの危険因子が無い場合、1 つ有り、2 つ有りの 5 年再発率は、それぞれ 12%、16%、32%との報告がある3)。この再発の予後因子に基づいた高位精巣摘除後の選択肢を決定する前向き研究もあるが9)、リスク分類による補助治療選択は十分にエビデンスがあるとはいえない10,11)

2.補助放射線療法を選択した場合    補助放射線療法により、再発率はほぼ 5%以下に抑えられる。大規模ランダム化比較試験のデータによると、再発率は 4.1%(TE19:EORTC20982 研究、観察期間中央値 6.4 年、n=904)、4.0%(TE18/19:EORTC30942 研究、観察期間中央値 7 年、n=1,094)、4.2%(TE10 研究:傍大動脈領域照射、観察期間中央値 12 年、n=236)で、いずれも 5.0%以下である6)。ランダム化比較試験ではないが、 245 例の術後補助放射線治療群(25 Gy)と、226 例の経過観察群の比較的大規模 な観察研究で、放射線治療群(観察期間中央値 9.7 年)では再発が 14 例(5.7%) と抑えられたのに対して、経過観察群(観察期間中央値 7.7 年)では 37 例(16.4%) の再発があった12)
   照射量としては、20 Gy と 30 Gy のランダム化比較試験(非劣勢試験、TE18/ 19:EORTC30942 研究)によって非再発率に差がないことが示され(5 年非再発率、各々 97%、95%)、現在 20 Gy が推奨される6,13)。照射野に関しては、患側の腸骨領域を加えた dogleg 型と傍大動脈領域のみの 30 Gy による照射野のランダム化比較試験(TE10 研究)によって、差がないことが示されたため、現在では傍大動脈領域のみの照射が推奨される6,14)
   放射線治療後の有害事象については、短期的には mortality や重い morbidity にはほとんど経過観察と差がないことが示されている。長期の合併症や有害事象については、25 Gy の照射での観察期間中央値 15 年の報告では、ごく少数例の胃腸障害があったのみで、放射線治療の安全性が主張されている15)。しかし、放射線治療後、二次癌の発生率が増加するとの報告や16-19)、放射線療法に伴う一時的な不妊の問題20)、心血管系合併症リスク上昇の可能性19)もある。照射野の縮小や照射線量減量などがなされている現在の治療によって、これらの諸問題が解決されるかは明確ではない。したがって、若年者に多い精巣腫瘍では、補助放射線療法は慎重に選択すべきである。なお照射野や線量については『放射線治療計画ガイドライン 2012 年版』21)を参考にし、治療にあたる放射線科医と十分にコンセンサスをとるべきである。

3.補助カルボプラチン療法が選択された場合    近年、カルボプラチン単剤単回投与が放射線治療と同等の再発予防効果を有し、治療期間が短く簡便な方法として確立された。カルボプラチンと放射線治療の 1,477 例(観察期間中央値 4 年)の大規模なランダム化比較試験(TE19/ EORTC30982)で、AUC(area under the curve)7 のカルボプラチン単剤投与は再発率において放射線治療に劣っていないことが示された(期間中央値 6.5 年)6,22)
   カルボプラチン群全体の 5 年非再発率は 94.7%だが、カルボプラチンが AUC7で投与された場合の 5 年非再発率は 96.1%、放射線治療群の 5 年非再発率は 96%であった6,22)。さらに、カルボプラチン群は対側の二次精巣腫瘍の発生率が有意に低かった6,22)。一方、400 mg/m2の 1 コース投与方法では、その再発率は 8%(93例)や 0%(25 例)との報告がある23,24)
   カルボプラチンの治療回数については、1 コースよりも 2 コースのほうが再発率を低下させたとの複数の報告がある。カルボプラチン(400 mg/m2)を 2 コース施行した 107 例の報告では、再発例はなく(観察期間中央値 74 カ月)25)、別の282 例、276 人の報告(観察期間平均値 75 カ月)でも 3 例(1.1%)のみの再発で26)、いずれの研究も有害事象も軽微であったことから、その有用性が示唆されている25,26)
   非ランダム化の研究であるが、93 例の 1 コース(400 mg/m2)施行群と 32 例 の 2 コース施行群の比較では、再発率は 1 コース施行群で 8.6%(8 例)、2 コース 施行群は 0%であり、有害事象は 2 コースでも軽微であった24)。したがって、カルボプラチン 400 mg/m2のデータに限られるが、2 コース施行が再発率を低下させられる可能性がある。また前述した TE19/EORTC30982 試験でも、AUC7 以上 が投与された例と AUC7 未満の例では有意差がないものの、再発率に違いがあることが指摘されており6,22)、カルボプラチンの投与量や投与回数が再発率に影響する可能性がある。
   カルボプラチン補助療法の安全性については、短期的には複数の研究で示されている6,22,25,26)。比較的長期にわたるものでは、199 例のカルボプラチン単剤投与 の観察期間中央値 9 年の報告があり、全死亡率、循環器系疾患による死亡率、精巣腫瘍以外の二次癌発生率などは増加していない27)。しかし、長期成績や晩期合併症についてのデータは補助放射線療法と比較すると十分ではない。今後再発率、有害事象、あるいは最適コース数などについて、長期間のデータ蓄積が待たれる。
   このように、上記の 123 のどの選択肢にも利益と不利益があるが、最終的な疾患特異的生存率、全生存率に差がないことから、現在では欧米、特にヨーロッパのガイドラインでは経過観察を第一選択としている4,10,28)。Stage Iのセミノーマの患者に一律に補助療法を行うにあたり、80-85%の患者に不用な治療を行うこと、さらにいずれの補助療法を行っても 4-5%で再発すること、長期経過観察が必要なこと、放射線療法による二次癌の可能性があること、カルボプラチン投与の長期的な合併症(二次癌や心血管疾患)の増加が不明なことを考えると、まず経過観察を選択肢として勧めて良いと考えられる4,10,28)。しかし、患者背景や意向を十分加味するべきであり、補助カルボプラチン療法や補助放射線療法も選択肢となる。


文献
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