精巣腫瘍診療ガイドライン 2015年版

 
 

CQ5
精巣腫瘍の腫瘍マーカーとして、何が推奨されるか?

推奨グレードA α-胎児性タンパク(alpha-fetoprotein:AFP)およびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin:hCG)は、胚細胞腫瘍の診断および治療の効果判定に必須である。

推奨グレードB AFP 分画(AFP-L3)は、時に病勢を反映し、参考になる。
   
推奨グレードA 乳酸脱水素酵素(lactic dehydrogenase:LDH)は、精巣腫瘍に特異的ではないが、陽性率は高く、特にセミノーマでは有用である。また、IGCCC の判定に必須である。


解説
   精巣腫瘍の腫瘍マーカーとしての AFP、hCG、LDH の重要性は確立されており、1997 年に IGCCC(International Germ Cell Concensus Classification)が報告されて以来、病期診断、治療効果判定、経過観察に必須なものとなっている1)。この IGCCC における腫瘍マーカーの評価時期は初診時と考えがちであるが、精巣摘除後(化学療法前)であることに留意すべきである。さて、全精巣腫瘍のうち約 50%は 1 つないし 2 つの腫瘍マーカーが上昇していると報告されている2,3)。これら 3 種類のマーカーは、転移を有する非セミノーマでは、特に治療後の再発の初期徴候となりうるため重要である。
   LDH を AFP や hCG と比較すると、精巣腫瘍に疾患特異性があるわけではないが、進行癌や再発の症例で上昇が見られるために有用と考えられている4)。肝疾患などの他疾患でも上昇しうるため、その解釈には注意が必要である。Venkitaraman らは 499 名の Stage I精巣腫瘍の経過観察での LDH 測定の意義について検討した4)。その結果、再発患者 15 名中 6 名に LDH 上昇を認めたが、持続的な偽陽性が 9.1%に見られ、結果的に感度は 40%、特異度は 90.5%、positive predictive value は 12.8%であり、経過観察中の LDH 測定は有用であるが、その解釈には注意を要すると報告した4)
   AFP はいずれの Stage においても胎児性癌や卵黄嚢腫瘍で上昇するが、肝疾患でも上昇することがある。AFP は非セミノーマの 50-70%で上昇すると報告されている。Beck らは 779 名の非セミノーマ患者で、後方視的に精巣摘除術前の血清中の AFP 値とβ-hCG 値および腫瘍径が後腹膜リンパ節郭清の病理学的病期を予測できるかを検討したところ、術前β-hCG 値と腫瘍径は予測できなかったが、術前 AFP 値は後腹膜リンパ節での病理学的病期を予測できたと報告した5)。AFP の血中半減期は 5-7 日であり、個々の症例の AFP 値の半減期を計算することで、 精巣腫瘍の残存の有無を判定する際の参考となる。時に、病理学的に pure seminoma と診断されても AFP が上昇していることがある。そのような場合は、検出できていない非セミノーマ成分が存在すると考えられる。
   また、治療後に AFP が軽度上昇している場合があり、残存腫瘍の有無の判断に迷う場合がある。その場合は、AFP 分画のうち AFP-L3 を測定することやコンカナバリン A 結合 AFP 比を測定することで、肝疾患等から鑑別することが可能と報告されている6,7)
   hCG はα鎖とβ鎖からなる。通常は非セミノーマの 40-60%で上昇するが、 AFP と同様にセミノーマと診断された場合でも上昇することがある。hCG の測定にはいろいろなキットが存在するので、その評価には注意が必要である8)。すなわち、わが国では hCG のβ鎖の測定には free β-hCG の他に total β-hCG や total HCG があり、また free β-hCG を測定しない intact hCG がある。free β-hCG のみを測定するキットは IGCC 分類に使用できないため、測定キットの単位が mIU/mL のキットを用いることが必要である。ただし、治療経過を観察していく上では、total β-hCG も free β-hCG もそれぞれ腫瘍マーカーとして病勢評価に有用であるという報告もあり9,10)、同一キットを継続的に使用して経過観察することが重要である。(コラム 2参照)
   その他の腫瘍マーカーとしては、胎盤性アルカリフォスファターゼ(PLAP)11) が pure seminoma の経過観察に有用な場合があり、必要に応じて測定すべきと EAU のガイドラインには記されている12)。また、白人に多い精巣 CIS のマーカー として stem cell factor(c-kit ligand)や OCT3/4 が有用という報告13)や Glypican 314)、循環血中の mitochodrial DNA15)が精巣腫瘍のマーカーとして有用という報告もあるが、いずれもその有効性は確立していない。


文献
1) J Clin Oncol. International Germ Cell Consensus Classification:a prognostic factor-based staging system for metastatic germ cell cancers. International Germ Cell Cancer Collaborative Group. J Clin Oncol. 1997;15:594-603.(V)
2) Wanderås EH、 Tretli S、 Fosså SD. Trends in incidence of testicular cancer in Norway 1955-1992. Eur J Cancer. 1995;31A:2044-8.(Ⅲ)
3) Germa-Lluch JR、 Garcia del Muro X、 Maroto P、 et al. Spanish Germ-Cell Cancer Group (GG). Clinical pattern and therapeutic results achieved in 1490 patients with germ-cell tumours of the testis:the experience of the Spanish Germ-Cell Cancer Group(GG). EurUrol. 2002;42:553-62.(Ⅲ)
4) Venkitaraman R、 Johnson B、 Huddart RA、 et al. The utility of lactate dehydrogenase in the follow-up of testicular germ cell tumours. BJU Int、 2007;100:30-2.(IVb)
5) Beck SD、 Foster RS、 Bihrle R、 et al. Significance of primary tumor size and preorchiectomy serum tumor marker level in predicting pathologic stage at retroperitoneal lymph node dissection in clinical stage S nonseminomatous germ cell tumors. Urology、 2007;69:557-9.(IVb)
6) Kamoto T、 Satomura S、 Yoshiki T、 et al. Lectin-reactive alpha-fetoprotein(AFP-L3%) curability and prediction of clinical course after treatment of non-seminomatous germ cell tumors. Jpn J Clin Oncol、 2002;32:472-6.(IVb)
7) Mora J、 Gascon N、 Tabernero JM、 et al. Alpha-fetoprotein-concanavalin A binding as a marker to discriminate between germ cell tumours and liver diseases. Eur J Cancer、 1995;31A:2239-42.(IVb)
8) 日本泌尿器科学会・日本病理学会編.精巣腫瘍取扱い規約(第 3 版).金原出版(東京); 2005.
9) Lempi ä inen A、 Stenman UH、 Blomqvist C、 et al. Free beta-subunit of human chorionic gonadotropin in serum is a diagnostically sensitive marker of seminomatous testicular cancer. Clin Chem、 2008;54:1840-3.(IVb)
10) Hoshi S、 Suzuki K、 Ishidoya S、 et al. Significance of simultaneous determination of serum human chorionic gonadotropin(hCG)and hCG-beta in testicular tumor patients. Int J Urol、 2000;7:218-23.(IVb)
11) Torabi-Pour N、 Nouri AM、 Chineguwndo F、 et al. Standardization and potential use of HPLC for detection of cellular placental alkaline phosphatase using tumor cell lines and fresh tumour biopsies. Urol Int、 1999;63:234-41.(IVb)
12) Albers P、 Albrecht W、 Algaba F、 et al:Guidelines on Testicular Cancer. European Association of Urology. 2012:7-7.
13) Stoop H、 Honecker F、 van de Geijin GJ、 et al. Stem cell factor as a novel diagnostic marker for early malignant germ cells. J Pathol、 2008;216:43-54.(IVb)
14) Zynger DL、 MaCallum JC、 Luan C、 et al. Glypican 3 has a higher sensitivity than alphafetoprotein for testicular and ovarian yolk sac tumor:immunohistochemical investigation with analysis of histological growth patterns. Histopathol、 2010;56:750-7.(IVb)
15) Ellinger J、 Albers P、 Muller SC、 et al. Circulating mitochondrial DNA in the serum of patients with testicular germ cell cancer as a novel noninvasive diagnostic marker. BJU Int、 2009;104:48-52.(IVb)

 
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