(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版
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EDのリスクファクター
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慢性腎臓病(CKD)
CKD 患者ではEDの罹患率が高い。
CKD によるEDの原因は多因子による。
CKD によるEDに対する腎移植の効果は不明である。
CKD によるEDの原因は多因子による。
CKD によるEDに対する腎移植の効果は不明である。
エリスロポエチンによる貧血の治療は勃起機能を改善させる。
〔推奨グレードB〕

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)患者(透析患者,腎移植後の患者,透析を受けていないCKD の患者)における性機能障害の罹患率を調べたメタアナリシスによれば93),自己申告による調査を行った21研究における4,389名の男性患者のED罹患率は70%(95% 信頼区間:62〜77%)である。また,日本人を対象にIIEFを使用して174名の透析患者を調査した研究によれば,30歳代の36.4% から年齢とともに罹患率は上昇し,60歳代では93.1% にもなる94)。
CKD によるED発生の機序としては,以下のような多数の因子が考えられている。
なお,腎移植の勃起機能に対する効果に関しては,15名の移植患者を対象としてIIEF5を使って前向きに調べた研究では,移植後にスコアが11名で改善し,2名で不変,2名で悪化していた105)。また,78名の移植患者を対象としてIIEF を使用して前向きに調べた研究によると,移植前EDを訴えていたのは68名であったのに対して,移植後は71名に増加し,IIEF スコアの平均値も42.46から39.97に低下していた106)。
CKD によるED発生の機序としては,以下のような多数の因子が考えられている。
① | 血流障害:海綿体内圧/造影検査を20名(うち14名が腎移植後)のCKD によるED患者に行った研究では,78% に動脈の閉塞所見を認め,90% の患者で静脈閉鎖機構の不全を認めている95)。 |
② | 神経障害:12名のCKD によるED患者に対して,Valsalva 負荷により心拍の変動をみたところ,NPT の異常と心拍変動の異常がよく一致したとされる96)。また,CKD によるED患者では,末梢神経伝達速度やBCR(球海綿体筋反射)の異常の頻度が高いという報告もある97)。 |
③ | 内分泌系の異常:総テストステロン値も遊離テストステロン値も低下するとされる98)。日本人での調査でも,30歳代と40歳代の透析患者では遊離テストステロン値が健常者に比して有意に低下していた99)。高プロラクチン血症も高率に起こるとされる98)。前述の日本人での調査99)でも40%(26/65名)に高プロラクチン血症を認めている。 |
④ | 貧血の関与:腎性貧血により,海綿体内は虚血に陥る。虚血になれば,NO を合成する酵素(NOS)の活性が低下する100)。エリスロポエチンの投与により勃起機能が回復することが知られている101)。 |
⑤ | NO 産生の低下:④と関連するが,CKD 患者では内因性NO 合成阻害物質(asymmetric dimethylarginine: ADMA)が蓄積し,これがNO の合成を阻害することが知られている102)。 |
⑥ | 薬剤性:CKD の患者に処方される降圧薬や抗うつ薬などが薬剤性EDの原因となりうる。しかも,CKD 患者では薬物代謝は障害されているので影響が大きくなる。 |
⑦ | 精神的な問題:透析患者では,より多くのうつのエピソードが起こることが報告されている103,104)。 |