(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版

 
4 EDのリスクファクター

8 下部尿路症状/前立腺肥大症(LUTS/BPH)
EDとLUTS/BPH は合併することが多く,しかもそれぞれの重症度が比例する。

BPH の薬物療法に関しては,α1遮断薬はEDを起こす可能性は少ない。
〔推奨グレードB〕
5α還元酵素阻害薬はEDを起こす可能性がある。
〔推奨グレード保留〕
BPHの手術療法に関しては,標準的な治療法である経尿道的前立腺切除術(TUR-P)でも,ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP),TUMT,経尿道的針焼灼術(TUNA)でも,勃起機能を改善する可能性と悪化させる可能性がある。
〔推奨グレード保留〕
EDと共存する病態として下部尿路症状/前立腺肥大症(lower urinary tract symptoms/benign prostatic hyperplasia: LUTS/BPH)がある。EDとLUTS/BPH は加齢男性に多く発症することから,両者の共存は偶然の産物と考えられてきたが,最近になり強い関連が見出され,共通する機序も推定されている。そもそもLUTS とは,重要な症状として蓄尿症状(頻尿,尿意切迫感,尿失禁),排尿症状(尿勢低下,尿線散乱,尿線途絶,排尿遷延,腹圧排尿),排尿後症状(残尿感,排尿後滴下)から成り,その背景に下部尿路通過障害があることを示唆するものである75)。一方,BPHの定義は「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患で,通常は前立腺肥大と下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」とされる76)。以下の記述の根拠となった論文に関して,疫学調査では“LUTS”が,治療に関するものでは“BPH”または“LUTS/BPH”の両者が,論文のタイトルとして使われることが多かった。これらの用語は同じ病態を指し示していると考えて,以下の記述を行った。
欧米7カ国の50〜80歳の男性12,815名を調査した研究77)では,LUTS を国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS,付録3参照)で,EDをIIEF で評価し,年齢と合併症で調整した結果,両者の重症度には相関関係があり,LUTS はEDの独立した予測因子であった。同様の多くの横断研究のLUTSのEDに対するオッズ比は1.06〜8.90である78)
わが国でも,2,084名の人間ドックのデータを分析した結果6),ED重症度(IIEF5による)の年齢調整後オッズ比は,LUTS(IPSS による)の軽症群に対してLUTS の中等症群では4.49(95% 信頼区間:2.14〜9.41)であり,LUTS 重症群のそれは7.34(同:1.37〜39.30)と用量相関性があった。
両者に共通する機序として,① 交感神経系の過活動,② 骨盤内血管床の虚血,③NOS/NO の低下,④Rho キナーゼのup-regulation が提起されている79)
また,BPH に対する治療は,手術療法にせよ,薬物療法にせよ,性機能に大きく影響することが知られている。
薬物療法のうち,わが国で多く処方されているα1遮断薬については,外国のデータでは日本未採用のアルフゾシンのデータが多く,それはEDを起こすことはなく,むしろ勃起機能を改善するとされている78)。わが国で頻用されているタムスロシンに関しては,開発時の日本人270名を対象としたRCT において,プラセボ,0.1 mg,0.2 mg,0.4 mg の4群でEDは報告されていない80)。また,英国(投与量0.4〜0.8 mg は,わが国の投与量0.2 mg の2〜4倍)での12,484名の市販後調査のデータでは,EDの発症率は1.4% であり,低血圧の発症率を少し上回る程度であった81)。より新しいα1遮断薬であるシロドシンに関しては,日本人175名のデータではEDは報告されていない82)。しかし,両薬剤とも射精障害を発症することがある81,82)ので,性的QOL 低下をきたすことはある。
5α還元酵素阻害薬であるデュタステリドのプラセボ対照のRCT 83)では,EDの発症率はプラセボ群1.7% に対して,デュタステリド群4.7%(有意差あり)であり,別の臨床試験のデータでも6〜8% の報告がある84)。日本でのRCT 85)でもEDの発症率はプラセボ群1% 未満に対して,デュタステリド群2%(有意差検定行わず)であった。デュタステリドをEDの副作用のために中止した患者の一部では,中止しても勃起機能が回復しなかった例が報告されており,性欲の低下/消失,射精量の減少も報告されており,投与前に,患者とこれらの性的副作用の可能性について,十分に相談しておくことが求められる84)
また,適応は取得していないがEDの薬物療法であるPDE5阻害薬のいずれもが排尿機能を改善する86-88)ことは,EDとLUTS/BPH の両者に共通する発生機序を強く示唆するものである。
手術療法に関しては,標準的治療とされる経尿道的前立腺切除術(transurethralresection of the prostate: TUR-P)のEDの発生率は歴史的には2〜10% とされる89)。しかし,古い研究に関しては,勃起機能を把握する妥当性のある尺度を用いていなかったり,射精障害をEDととらえていたり,術前のEDの存在を把握してなかったり,リコールバイアスの問題がある後ろ向きの調査であったり,といった問題が存在した。そこで,比較的最近(1995〜2010年4月)の論文のsystematic review90)によると,ホルミウムレーザー前立腺核出術(holmium laser enucleation of the prostate:HoLEP)を対照とするTUR-P の8つのRCT を総合すると,TUR-P 群(370名)で,勃起機能の低下が7.7%,改善が6.2% で,HoLEP 群(390名)では,勃起機能の低下が7.5%,改善が7.1% である。日本におけるコホート研究91)によると,TUR-P群(55名)で26.5% に勃起機能の低下(札幌医大式性機能問診票の勃起機能スコア10点満点のうち,スコアが2点以上悪化)を認め,20.4% で勃起機能が改善(同スコアで2点以上改善)している。HoLEP に関する日本の研究(98名)92)では,IIEF5で評価した結果,勃起機能の低下が11%,改善が13% である。
同systematic review によると,TUMT(transurethral microwave thermotherapy)群(190名)は,TUR-P を対照として3つのRCT と前述の日本のコホート研究を総合して,勃起機能の低下が8.7%,改善が15.2% である。経尿道的針焼灼術(transurethral needleablation: TUNA)群(198名)は,やはりTUR-P を対照として3つのRCT と前述の日本のコホート研究を総合して,勃起機能の低下が5.8%,改善が7.9% である90)。高密度焦点式超音波治療(high intensity focused ultrasound: HIFU)に関しては,勃起機能への影響を調べた研究がない。
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