(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版
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EDのリスクファクター
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糖尿病注)
EDをもつ糖尿病患者では,無症候性心筋虚血のリスクが高い。
糖尿病性ED患者の治療は,生活習慣と血糖コントロールを是正したうえでPDE5阻害薬の使用を考慮する。
〔推奨グレードA〕

注) | EDは1型糖尿病でもみられるが,わが国では2型糖尿病が大多数(95%)であるため,本稿では2型糖尿病について記載する。 |
1)EDと糖尿病の疫学
EDを主訴に泌尿器科を受診した患者の17% が既知の糖尿病であったが,空腹時血糖値を調べて5% に新たな糖尿病が,12% に耐糖能異常が発見されたという報告28)があるように,ED患者には既知の糖尿病と同数の未発見の糖尿病,または耐糖能異常が推定される。一方,糖尿病におけるEDの有病率はEDの診断方法や対象患者で異なり,海外の自己記入による調査では35〜46%29-31),直接面接調査では36〜65%32-34),IIEF による判定(mild ED以上)では71〜86%21,35,36)と報告されている。わが国における糖尿病患者のED有病率は,IIEF5による判定で42〜90%37-40)(薬物療法の糖尿病を対象)と報告されている。糖尿病でのED有病率は非糖尿病と比べると2〜4倍高い1)。2)EDのリスクファクターとしての糖尿病
EDを合併する糖尿病患者のHbA1c とIIEF との関係は逆相関し,血糖コントロールが悪いほどEDは高頻度で,高度である40,41)。しかし,HbA1c は過去1〜2カ月間の血糖値の平均であるため,1時点だけのHbA1c とEDの有無とは必ずしも関係しないことがある39,42)。糖尿病の罹病期間や年齢も糖尿病性EDのリスクである34,43)。糖尿病性EDは糖尿病の合併症であり,神経障害,網膜症,腎症などの糖尿病性合併症と有意な関係が認められる34,40,43)。糖尿病に喫煙,高血圧,脂質異常症,虚血性心血管疾患などを合併すると,さらにEDの頻度が高まるという報告が多いが43),わが国や韓国では喫煙,飲酒,脂質異常症との関係は否定的である34,40,42)。性欲は当初保たれていても,長い経過で低下することが多く,その要因としてうつや低テストステロン血症の関与が考えられる42,44,45)。海綿体神経末端からの一酸化窒素(NO)放出が低下すると勃起の発現が抑制され,輸入動脈や陰茎海綿体洞の血管内皮細胞からのNO 放出が減少すると勃起の持続が低下する。したがって,糖尿病性自律神経障害や動脈硬化,糖尿病による血管内皮細胞障害は糖尿病性EDの大きな要因である40,43,46)。
糖尿病性EDの24% に低テストステロン血症が認められるが,これは非糖尿病性EDの2倍の頻度である44)。低テストステロン血症の要因として,海外では肥満やインスリン抵抗性の関与が示唆されているが43),肥満が少ないわが国では糖尿病性EDと低テストステロン血症との関係を指摘する報告はみられない。
糖尿病では脳梗塞や虚血性心疾患を合併した例でEDが多い34,40,43)。無症候性心筋虚血をもつ糖尿病患者ではEDの有病率が34% と高く,逆にEDを合併した糖尿病では無症候性心筋虚血の発症リスクが14.8倍と最も高いので,糖尿病におけるEDの診断が無症候性心筋虚血の発症予知因子になるという報告がある47)。海外より虚血性心疾患の少ない日本でこの予測が妥当するとは考えにくいが,EDが内皮細胞障害や動脈硬化の前兆,または予知因子であることは確かである48)。
3)糖尿病性EDの診断,治療,予後
糖尿病の診断は1回の採血で可能であり,HbA1c≧6.5%(NGSP 値注))でかつ,空腹時血糖値≧126 mg/dL,または食後血糖値≧200 mg/dL ならば糖尿病である。EDを訴える糖尿病患者のすべてが糖尿病性EDではなく,糖尿病性EDの診断では心因性,内分泌性,薬剤性,血管性ED等を鑑別する必要がある。
糖尿病性EDの治療第一選択薬はPDE5阻害薬であるが,その有効率は他の原因によるEDより低く,シルデナフィルでは56% である49)。わが国でのシルデナフィル認可量は50 mg までであるが,糖尿病では100 mg で有効となる例が多いとの報告がある50)。糖尿病ED患者でのシルデナフィルの有効率は血糖コントロールが良い例で高く51,52),より高度なED,より進行した糖尿病合併症例では低い。60歳以上のED患者を対象とした,シルデナフィルの効果に関する韓国の報告では,勃起機能不良(IIEF≦16点)のEDが最大の効果不良予知要因で,次いで低テストステロン血症,喫煙,血糖コントロール不良(HbA1c≧7%)の糖尿病であった51)。糖尿病性EDに対するPDE5阻害薬の効果は1年後で薄れ,性的満足度や全体のQOLが低下するとの報告がある45)。
注) | わが国で汎用されていたHbA1c 値〔JDS(Japan Diabetes Society)値〕は海外で使われるHbA1c 値〔NGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)値〕より0.4% ほど低値であったが,2012年4月より国際標準値(NGSP 値に相当する)に統一された。 |