(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版

 
4 EDのリスクファクター

3 高血圧
高血圧患者ではEDを合併する頻度が高く,重症化しやすい。高血圧とEDの合併頻度が高い理由は,血管機能障害が両疾患の原因になっている可能性と,高血圧による血管障害がEDの原因となっている可能性がある。
降圧薬のなかにはEDを増悪させる作用をもつものがある「薬剤」参照)

降圧薬による薬剤性EDは,性的に活動性のある男性患者の降圧薬の服薬コンプライアンスを低下させるため,EDを起こしにくい薬剤の選択を考慮することが望まれる。
〔推奨グレードC1〕
高血圧患者ではEDを合併する頻度が高い。MMAS によると,全集団の完全ED罹患率が9.6% であったのに対して,治療を受けている高血圧患者の15% が完全EDに罹患していた1)。そのほかにも,高血圧患者においてはEDの頻度が高いことがいろいろな地域から報告されている21,22)。平均年齢59歳の高血圧患者をIIEF5(International Index of Erectile Function 5)質問票を用いて解析した報告によると,EDの頻度は高血圧患者で67%,糖尿病患者で71%,糖尿病を合併した高血圧患者では77% であった21)。男性高血圧患者(平均年齢62.2歳)を対象にIIEF を用いて行った調査では23),68.3% がなんらかのED(IIEF の勃起機能ドメインが24点以下)を合併していたが,EDの程度は7.7% で軽症,15.4% で中等症,45.2% が重症であった。MMAS の一般的な集団では,完全EDの頻度は約10% であったと報告されていることから考えると,高血圧症例ではEDが重症化しやすいと考えられる。
逆にED患者では,高血圧を合併する頻度が高い。米国のマネージドケアのデータを解析した研究によると,ED患者285,436名の41.2% に高血圧を合併していたが,非ED男性1,584,230名では19.2% しか高血圧を合併していなかった24)。また,高血圧のEDに対するオッズ比は,年齢や背景因子を補正した結果1.38であった24)。わが国で行われた2つの研究でも4,5),EDに対する高血圧のオッズ比はそれぞれ2.79,1.79と有意に高かった。一方,別の人間ドック受診者のデータでは,EDに対して糖尿病,冠動脈疾患のオッズ比はそれぞれ2.54,8.04と有意であったものの,高血圧のオッズ比は0.68と有意ではなかった6)
高血圧患者では,内服薬のEDへの影響を考慮する必要がある。英国で行われた2型糖尿病患者のコホート研究では,EDの頻度がACE 阻害薬やα遮断薬によって増加,利尿薬によって減少,Ca 拮抗薬やβ遮断薬によって不変であった25)。そのほかにも,降圧薬がEDに対してなんらかの悪影響を及ぼしている可能性が示唆されている(薬剤によるEDとして後述)。しかし,多くの患者が降圧薬投与前にすでにEDを自覚しており,高血圧自体が独立したEDのリスクファクターであることは多くの研究によって支持されている1,23,26)
高血圧とEDの合併頻度が高い理由はいくつか想定される。第一に,血圧の恒常性と勃起の生理機能の維持に重要な,神経,血行動態,生理活性物質などのバランスが崩れることで,高血圧とEDが同時に引き起こされると考えられる。第二に,高血圧によって虚血性心疾患や腎不全などの心血管合併症が発症し,その影響でEDが発症している可能性もある1,26)。本態性高血圧患者358名でED合併の決定因子を調べたところ,高齢,高血圧の罹病期間,高血圧の重症度が関連していた。また,52名の血管性EDを合併した高血圧患者と34名の正常勃起機能の高血圧患者を比較した研究では,頸動脈壁肥厚と動脈壁の硬化〔脈波伝播速度(pulse wavevelocity: PWV)〕,内皮機能〔血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation: FMD)〕障害,血中炎症マーカー〔高感度CRP(C 反応性蛋白),IL-6(インターロイキン6)〕の値,内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthase: eNOS)の阻害物質ADMA(asymmetric dimethylarginine)値が,EDと相関していた27)。血管内皮機能障害,動脈硬化性変化が,高血圧とEDの発症に深く関与していると考えられる。
 この章の参考文献一覧

 


 
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