(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版
9
持続勃起症
4
虚血性持続勃起症(ischemic priapism)
完全勃起状態で疼痛を伴う。陰茎海綿体内が虚血になるため,診断確定後すみやかに脱血・洗浄を行う。長期化すると海綿体組織に線維化を生じ,EDを発症する。
1)病態
陰茎海綿体からの流出が障害され,そのため組織が低酸素,アシドーシスに陥った状態である。コンパートメント症候群に近い状態である。時間経過とともに組織障害が進行するので,すみやかな処置が必要である。経過が数日にわたる場合,勃起機能が失われる可能性が高くなる4)。2)疫学
海外では鎌状赤血球症によるものが多い。わが国では,抗精神病薬5),α遮断薬6),過量のPDE5阻害薬の内服7),パパベリン塩酸塩,PGE1の海綿体注射8),白血病,悪性リンパ腫,悪性腫瘍の海綿体転移9),特発性などが報告されている。薬剤性のものは海綿体洞の拡張の遷延,悪性腫瘍によるものは血液の粘稠度の上昇や流出静脈への直接浸潤によると思われる。
3)診断
① | 完全勃起の状態であり,時間経過とともに増強する疼痛を伴う(図10)。 |
② | 陰茎海綿体内血液ガス分析では,酸素分圧の低下(30 mmHg 未満),二酸化炭素分圧の上昇(60 mmHg 以上),pH の低下(7.25未満)を示す。非虚血性持続勃起症との鑑別のために推奨される。 |
③ | 病因としての血液学的異常の確認や,もし観血的な治療が必要になったときのために血液検査を行っておく。 |
④ | カラードプラエコーでは,陰茎海綿体内の圧が亢進しているために,海綿体動脈の拍動は消失しており,海綿体の血流が認められない。また,非虚血性持続勃起症にみられるような血流の乱流も認められない。 |
4)治療
虚血性持続勃起症の診断がついたら,すみやかな処置が必要である。まず侵襲の少ない方法から開始する。① | 海綿体を穿刺,脱血して減圧する1,4)。これで改善しなければ冷たい生理食塩水を注入して,灌流,洗浄を行う10)(図11)。 | ||||||
② | それでも消退しなければ,血管収縮薬の海綿体投与を行う。フェニレフリンなどβ受容体刺激作用のないα刺激薬が心拍出量に影響を与えにくいので,使いやすい。このような薬剤は脈拍や血圧をモニタリングしながら少量ずつ投与しなければならない。翼状針を海綿体に留置するとよい。フェニレフリンの場合,200μg/mL(1 mg を生理食塩水に溶解し全体を5 mL とする)を0.5〜1 mL,合計1 mg を超えないように5〜10分おきに投与する。持続勃起が6時間を超えるとアシドーシスが著明となり,これらの血管収縮薬が作用しにくい状態となる4)。 | ||||||
③ | 時間が経過すると海綿体内の血液が凝固し,上記の方法では困難となる。停滞した海綿体血流をシャントによって回復させる。 | ||||||
|
※ 図10・図11 はこちらから別ウィンドウで開きます
![]() |
付)海綿体注射の合併症としての虚血性持続勃起症
EDの診断や治療としてPGE1の海綿体注射を行うが,この合併症として虚血性持続勃起症は重要である。初回の注射は専門医が行い,勃起が消退するまで帰宅させないなどの考慮が必要である。早期に対処すれば線維化などの不可逆的な組織障害を防ぐことができる19)。