(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
6章 小児の線維筋痛症の診療と治療

3.若年性線維筋痛症の臨床所見
診断の手順
1)医療面接
arrow 医療面接においては,問う姿勢ではなく病児の訴えに耳を傾け,病児の語る言葉や内容の展開に注意を向けることが本症の診断には重要である。柔軟性の欠如,コミュニケーション障害を有しながらも年齢に不相応な成人のような話し方,背伸びした言葉遣い,抽象的用語の頻用などの特徴がある。当初は,一緒に来院した母親とともに面接を行うが,その後は別々の面接を行うことも必要である。
arrow 診断や評価に必要な項目を,以下に示す。誘因や発症背景なども,現病歴の聴き方により判明率が大きく変わってくるが,調査表を用いることで,効率的な情報収集の助けになる。

医療面接のポイント
  • どんな症状が,いつから始まったか?
  • 疼痛の部位と性質,allodynia,関節痛,筋痛,頭痛の有無など。
  • 症状が始まる前に,本人の問題(病気に罹患,怪我・外傷など),家族・家庭の 問題(家族構成,引越し,離婚,父母間の問題,祖父祖母の死,兄弟間の確執 など),学校の問題(担任,級友,部活と人間関係など),その他,本人に強い 影響を与える出来事はなかったか?
  • 発症時期に前後して,疼痛に関連するきっかけや背景はないか?
  • 睡眠障害(入眠に時間がかかる,夜中しばしば覚醒する)と低体温(平熱が36℃以下)は認められるか?
  • 手掌や足底の発汗過多,過敏性胃腸炎様症状,倦怠感・疲労感,抑うつ症状。
  • 食事の摂取状況,体重減少。
  • 車酔い,朝の目覚めが悪い,手足の冷感,生理不順。
  • これまでの受診歴で器質的疾患の検索(炎症所見)が行われているか,その結果は?
  • 治療薬・治療歴とその効果は?
  • 日常生活への影響はどうか,登校はできているか?
  • 性格傾向:完璧主義,まじめ,責任感が強い,固執傾向,凝り性,根に持つ,几帳面,空想家,神経質,他人への気配り過多,明朗,年齢より大人びているなど。
  • 本人と母親との関係の観察・推察。
  • 本人は何を求めているか?

2)理学的所見
arrow 全身の関節,筋の診察が重要である。線維筋痛症の診断に欠かせない圧痛点の診察も,同時進行的に行う。関節,筋の理学的診察は,慢性関節炎や若年性皮膚筋炎の診察の際に行う方法を用いる。また,圧痛点の検出は,圧痛点のポイントからわずかにずれても圧痛を感じないことから,そのポイントの検出には十分な研修を受けることが求められる。頭痛や腰痛を訴える例も多い。僧帽筋,頸部筋や腰部の筋について筋緊張の有無を診察する。なお,本症では関節痛の訴えは高率であるが,自験例から考えると上腕肘部の外側上顆の疼痛を“関節痛”ととらえ,膝の腱付着部位の疼痛を“関節痛”と表現している例が多く,臨床的に“関節炎”とは異なることが診察上重要と思われる。また線維筋痛症の診断の中核となる圧痛点のいくつかは,膝・肘・胸肋関節などの関節部位の近傍に位置するため,関節炎による疼痛と線維筋痛症の圧痛点ポイントの疼痛との鑑別を行うことが重要である。

理学的診察のポイント
  • 関節・筋の診察
  • 18圧痛点の診察
  • allodyniaの有無
  • “関節痛”は本当に関節痛なのか:圧痛点との鑑別

3)血液検査
arrow 血液検査では,スクリーニングとして炎症マーカー,甲状腺機能,自己抗体の検討を行う。特に,著しい倦怠感を訴える自己免疫疾患としてシェーグレン症候群がある。抗SS -A抗体のチェックを行う。なお,罹病体験のある小児例が線維筋痛症であるにもかかわらず原病の再燃と考えられ,若年性特発性関節炎,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎などとしてステロイドや免疫抑制剤を使用される例が少なからずあることに注意する。

血液検査のポイント
  • 炎症マーカー(白血球数,CRP,赤沈値)のチェック。
  • 抗核抗体(抗体価,染色型),抗SS -A抗体,抗dsDNA抗体
  • 甲状腺機能(free T3/free T4/TSH)

arrow なお,最近コレステロールのエステル化不全,遊離脂肪酸値上昇とケトン体減少,酸化型コエンザイムQ10の上昇と還元型コエンザイムQ10の減少などの所見を呈する例があり,脂肪代謝やミトコンドリア機能異常についての検討が進められている。

4)鑑別診断
arrow 若年性線維筋痛症は,全身性の慢性疼痛性疾患である。疼痛の多くは炎症性病態により生じるものなので,理学的診察,血液検査で炎症を否定する。鑑別すべき疾患として,若年性特発性関節炎,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎,シェーグレン症候群,血管炎症候群(特に高安病)など(リウマチ・膠原病では,病児の多くは倦怠感・易疲労感を訴える),脳脊髄液減少症(慢性頭痛が主徴),慢性疲労症候群(線維筋痛症の類縁疾患)などが挙げられる。

 

 
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