(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
6章 小児の線維筋痛症の診療と治療
3.若年性線維筋痛症の臨床所見
診断の手順 | |
1)医療面接 | |
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医療面接においては,問う姿勢ではなく病児の訴えに耳を傾け,病児の語る言葉や内容の展開に注意を向けることが本症の診断には重要である。柔軟性の欠如,コミュニケーション障害を有しながらも年齢に不相応な成人のような話し方,背伸びした言葉遣い,抽象的用語の頻用などの特徴がある。当初は,一緒に来院した母親とともに面接を行うが,その後は別々の面接を行うことも必要である。 |
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診断や評価に必要な項目を,以下に示す。誘因や発症背景なども,現病歴の聴き方により判明率が大きく変わってくるが,調査表を用いることで,効率的な情報収集の助けになる。 |
医療面接のポイント
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2)理学的所見 | |
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全身の関節,筋の診察が重要である。線維筋痛症の診断に欠かせない圧痛点の診察も,同時進行的に行う。関節,筋の理学的診察は,慢性関節炎や若年性皮膚筋炎の診察の際に行う方法を用いる。また,圧痛点の検出は,圧痛点のポイントからわずかにずれても圧痛を感じないことから,そのポイントの検出には十分な研修を受けることが求められる。頭痛や腰痛を訴える例も多い。僧帽筋,頸部筋や腰部の筋について筋緊張の有無を診察する。なお,本症では関節痛の訴えは高率であるが,自験例から考えると上腕肘部の外側上顆の疼痛を“関節痛”ととらえ,膝の腱付着部位の疼痛を“関節痛”と表現している例が多く,臨床的に“関節炎”とは異なることが診察上重要と思われる。また線維筋痛症の診断の中核となる圧痛点のいくつかは,膝・肘・胸肋関節などの関節部位の近傍に位置するため,関節炎による疼痛と線維筋痛症の圧痛点ポイントの疼痛との鑑別を行うことが重要である。 |
理学的診察のポイント
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3)血液検査 | |
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血液検査では,スクリーニングとして炎症マーカー,甲状腺機能,自己抗体の検討を行う。特に,著しい倦怠感を訴える自己免疫疾患としてシェーグレン症候群がある。抗SS -A抗体のチェックを行う。なお,罹病体験のある小児例が線維筋痛症であるにもかかわらず原病の再燃と考えられ,若年性特発性関節炎,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎などとしてステロイドや免疫抑制剤を使用される例が少なからずあることに注意する。 |
血液検査のポイント
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なお,最近コレステロールのエステル化不全,遊離脂肪酸値上昇とケトン体減少,酸化型コエンザイムQ10の上昇と還元型コエンザイムQ10の減少などの所見を呈する例があり,脂肪代謝やミトコンドリア機能異常についての検討が進められている。
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4)鑑別診断 | |
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若年性線維筋痛症は,全身性の慢性疼痛性疾患である。疼痛の多くは炎症性病態により生じるものなので,理学的診察,血液検査で炎症を否定する。鑑別すべき疾患として,若年性特発性関節炎,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎,シェーグレン症候群,血管炎症候群(特に高安病)など(リウマチ・膠原病では,病児の多くは倦怠感・易疲労感を訴える),脳脊髄液減少症(慢性頭痛が主徴),慢性疲労症候群(線維筋痛症の類縁疾患)などが挙げられる。 |