(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
6章 小児の線維筋痛症の診療と治療
1.若年性線維筋痛症の概略
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若年性線維筋痛症は,発症年齢が10歳前後(小学校4〜5年生)に集中している。男女比は1:4〜8と女児に多い。特異な「全身の疼痛性疾患」で,軽いタッチで激しい疼痛を訴えるallodyniaを特徴とし,原因不明の筋・骨格系の疼痛(筋痛,関節痛)や持続的な頭痛を訴える。慢性疲労感,睡眠障害(なかなか寝付かれない例,夜中繰り返し目が覚めてしまう例),低体温を訴える例が多く,経過が進むにつれ異常な発汗,末梢冷感,チアノーゼ,四肢の浮腫など自律神経症状が加わる(図1)。80%以上の例が登校障害(不登校)に至る。時に摂食障害(食思不振症,過食症)に陥る例もある。 | |
![]() 図1 ![]() |
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疼痛の原因の多くは炎症性病態による。しかし,本症では炎症を示唆する所見を認めないことから,「中枢性疼痛」が考えられている。すなわち,身体局所の炎症による疼痛ではなく,疼痛を感知する脳の疼痛受容部位の異常である。 | |
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特有の性格傾向が認められ,いわゆる“良い子”で,完璧主義,潔癖主義,妥協を許さないなど柔軟性の欠如があり,コミュニケーション障害,他人への過剰な気遣いなどが特徴的である(図2)。ただし,発症前は明るく,社交的で,クラスの人気者であったという例もあるが,コミュニケーション障害の表現としてあえて“ピエロ役”を任じていた可能性がある。 |
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![]() 図2 ![]() |
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個々の例に発症の契機と考えられる事態があり,両親の離婚,外傷・罹病の経験,転居などが挙げられる。女児が多いこともあり,母親との葛藤が多くの例で認められる。すなわち,小児にとって強力な“心的ストレス”が発症の契機となっていると思われる。 | |
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医学的評価としては圧痛点を検出することができ,いわゆる“心因性反応による疾患”ではなく,児童精神科で使われる「身体表現性障害」の概念とも異なる。なお,圧痛点は本症に特有の理学的所見であるが,若年性特発性関節炎や全身性エリテマトーデスなどの慢性疾患児の長期経過例には,全身性疼痛は認められないものの,20%前後の例で圧痛点を認める。 | |
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血液検査所見では,炎症所見はなく,甲状腺機能は正常で,抗核抗体や抗dsDNA抗体,抗SS-A抗体などの自己抗体は原則として陰性である。しばしばコレステロールのエステル化不全を認め,遊離脂肪酸の増加とケトン体の低下からミトコンドリア機能不全が認められる例がある。 |