(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
5章 治療
5a.非薬物療法:統合医療
5a.非薬物療法:統合医療
5.その他の治療法
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横田が言及するように,小児の線維筋痛症では低体温と冷えの問題は重大であるが成人でも状況は同じである。単純な漢方治療では線維筋痛症には多少の疼痛軽減効果の症例報告が散見されるが,冷えの改善に留意した漢方治療では疼痛が完全に消失した症例報告26)がある。生薬単独投与では附子剤であるアコニンサン*は一般的には,疼痛緩和効果とともに冷えの改善にも効果があり,線維筋痛症のVASで判定した疼痛緩和に有効27)であった。 |
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伝統医学の中では灸治療は冷えおよび疼痛の改善には効果的である。注射の針を用いて皮膚を刺激する治療は伝統医学では刺絡,現代医学的には自律神経免疫治療と呼ばれる。この治療法で改善傾向にあった症例の疼痛増悪時に,灸痕が残らない綿花を利用した灸治療を追加し,疼痛が完全に消失した症例報告28)がある。通常の針治療では,刺激の範囲が狭いため十分な効果があがっていない可能性が考えられるが, この綿花を利用した灸治療では刺激の範囲が広くなり今後の成果が期待される。線維筋痛症に高頻度で合併する慢性疲労症候群にも踵の中央部に直接すえる灸はperformance statusの改善に有効28)(エビデンスIV)である。施灸法さえ習得すれば治療に要する経費も安価に押さえられ,治療の頻度が高くなり,ある程度の効果も期待できるため今後有望と考えられる。 |
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RCTのような大規模な検討をしている治療法は統合医療の領域では少なく,線維筋痛症に対する効果はepisode的な症例報告が中心となっている。また,RCTでは効果判定がふさわしくない,あるいは灸治療のようにRCTが不可能と考えられる治療法も多く,日本統合医療学会でもこの領域の治療効果判定法の検討が始まっている。針治療で言及したように,研究時点ではshamと考えたものがshamになっていないことが後に判明するなど,困難だが克服しなければならない問題がある。さらに,この領域は治療者の数が少なく,実際に各種治療を受けるのが容易ではない,治療者の技術レベルが一定ではないという欠点がある。 |
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線維筋痛症患者に効果的と考えられる治療法は統合医療の領域でも,確たるものは現在のところないのが現状である。個々の患者でもその適応となる治療法が異なる可能性,また線維筋痛症の病期や患者の体調によっても適応となる治療法が変化する可能性もあり,様々な治療手段を試み,その経験を集積しこれらの疑問を解決し,治療効果をあげる必要がある。本稿で取り上げなかった治療手段も多数あり,統合医療による今後の線維筋痛症研究の成果を待ちたい。 |