(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
5章 治療
5a.非薬物療法:統合医療

arrow 一般に西洋先進諸国で医学とは西洋医学をさす。西洋医学は特に急性期医療に効果的で人類の健康に多大な貢献をしてきた。しかし,疾患の構成が変化し急性期疾患から慢性疾患主体へと変化してくると西洋医学にはその効果が不十分なことがみられ,各国にある伝統医学や様々な考えに基づく代替的な医療を活用しようとする動きが出てきた。海外では代替医療あるいは補完代替医療と呼ばれていたが,西洋医学とこれらを統合し治療の幅を広げようとする機運が大きくなり,現在では統合医療と呼ばれている。
arrow 線維筋痛症に対する治療効果は治療者が報告するのは当然であるが,疼痛という主観的なものの治療効果を対象とする場合には,患者自身が効果的であったと考える治療法を検討することも重要である。一般的には薬物療法を受けている患者が経過とともに減少し,非薬物治療を受ける方が増加していく。3年以上経過観察した患者が受けているすべての治療法を検討した報告では,非薬物治療では針治療,運動療法,マッサージ,カイロプラクティックなどの医師による治療法ではない治療法を選択する患者が増えていく1)エビデンスIV)。患者は当初こそ西洋医学的な治療法を選択するが,試行錯誤を繰り返しながら完全ではないものの,疼痛が軽減する治療手段にたどり着くと考えられる。線維筋痛症治療の現実を反映する報告と考えられるが,統合医療のもつ可能性を示唆しているとも考えられる。

1.針治療
エビデンスIIa 推奨度B
arrow 紀元前からの歴史がある治療法であり,例外的な死亡例の報告はみられるものの,針あるいは灸治療による有害事象の頻度は著しく低く,かつ重篤なものはほとんどなく2)エビデンスIIa),安全な治療法である。一般に統合医療で取り扱う治療法は強力なものは少なく,安全性が高い快適な治療法が多い。
arrow 針治療の論文によっては刺激しているツボがどこか特定できない,あるいは針の長さ,太さが不明であるものも多くみられ,治療を再現できない論文もあり,問題のある部分である。松本の論文3)はこれらの問題のない例外的な論文である。針治療は疼痛に効果があるだけではなく,線維筋痛症に頻度の高い症状である頭痛・睡眠および便通の改善効果などが報告3)されている。本邦線維筋痛症患者では非薬物治療を受けているものは25.6%に及び,針灸治療は有効率も60%と高い3)エビデンスIV)。本邦では針治療は医師あるいは国家資格を有する針灸師が行うものであるから,患者に紹介しやすい特徴もある。
arrow 1997年にNIHが針治療の効果に関する会議を開き,手術後の吐き気や嘔吐,抜歯後の疼痛とならび線維筋痛症に対する針治療の科学的根拠は不十分ではあるが有効である4)エビデンスV)とした。その後,線維筋痛症に対する針治療のrandomized controlled trial(RCT)が多く行われ,sham群と差がないとする報告がある5,6)エビデンスIIa)ものの,疼痛が完全に消失するほどの効果はないが,疼痛軽減効果があるとするもの7,8)エビデンスIIa)もある。針を刺すだけではなく,通電刺激をすると疼痛軽減により効果的8)エビデンスIIa)であり,刺激方法が効果を左右すると考えられる。メタ解析では針治療を否定する意見が有力である9)エビデンスI )。
arrow 針治療家はsham針と針治療の効果の差が少ないのに悩み,針治療の回数を変えて,全体的な治療効果で針治療の有用性を確認する試みもなされている10)。これまでの論調では皮膚を貫くか否か,あるいはいわゆるツボとツボ以外の部位の刺激で治療効果に差がないことで針治療を無効としているが,針を使用せず,特定のツボを指圧刺激しても不眠が改善11)エビデンスIIa)することもあり,どのツボを選択するかという問題はあるが,患者自身が保健的にツボ刺激をして症状の軽減効果を得る可能性を示唆するとも考えられる。
arrow また,皮膚に接触する刺激でもC線維を介して島領域などに影響を及ぼす12),手首にある内関というツボに対する針刺激と単純な皮膚刺激とのfunctional MRIを用いた比較では,ともに大脳皮質の活性化あるいは不活性化される部位が生じ,しかもその領域が異なる13)ことが判明している。つまりこれまで用いられていたsham針が生理活性を有しており,真の意味ではsham針治療ではないことが判明してきた。sham針治療群と針治療群で疼痛改善効果に差がないことを理由に針治療を否定することを疑問視する記載14)もある。メタ分析15)では針治療は通常の薬物治療などと比較すると,圧痛点の数や疼痛スコアを有意に減少させるが,sham針群との比較では有意差はない15)とされており針治療の効果を判定する場合にはコントロールのとり方が重要である。
arrow 針治療開始後ある程度の時間が経過すると慣れの現象が生じるためか,同じパターンの治療ではその効果が減少してくる欠点がある。RCTでは同じパターンの治療を続けるが,適応がなくなった治療を行っている可能性も考えられ,このような方法は真の治療になっていない可能性は高い。肩関節痛に対する効果では針治療はステロイドの局注と同等の効果16)をもたらし,薬物治療や運動療法など通常の治療に針治療を加えると,治療後2年目では有意差はなくなるものの治療後3カ月までは疼痛とQOL改善に有用であったとする報告17)がある。薬物治療を好まない線維筋痛症患者に対しても針治療は有力な治療法のひとつと考えられ,今後様々な治療上の工夫で有効性が高まることが望まれる。

 

 
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