(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
5章 治療
4b.薬物療法:向精神薬などの精神科的治療
4b.薬物療法:向精神薬などの精神科的治療
1.セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)
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中枢神経作動薬の臨床治験は主に米国で行われており,本邦ではいまだ行われていない。米国では主にSNRI(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor)のデュロキセチン,ミルナシプランやベンラファキシンの臨床治験が行われた。 |
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現在FDAで線維筋痛症の適応を取っているSSRIはデュロキセチンとミルナシプランである。しかし,本邦では,両薬剤とも線維筋痛症の適応は取っていない。ミルナシプラン,デュロキセチンはうつ病の適応を本邦では取っているため,うつ病の治療薬としては使用可能である。 |
ミルナシプラン* | |
エビデンスIIa 推奨度B
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ミルナシプランの米国で行われたプラセボ対照第II相二重盲検無作為化試験では,125症例の線維筋痛症を対象として行われ,プラセボ投与,1日1回投与と1日2回投与の比較試験で行われた。開始後4週間は200mg/日までに増量され,その後はミルナシプランを200mg/日に固定し8週間投与した。患者は,常に携帯用端末機を所持し,毎日の痛みの回数をチェックした。疼痛が50%以上改善した症例は,1日2回服用群では37%であったのに対してプラセボ対照群では14%であり,ミルナシプラン服用群では,不安,抑うつ状態の項目の改善より,疼痛,身体機能,倦怠感,こわばりのほうが有意に改善していた1)。よって,ミルナシプランは気分改善に伴って疼痛が軽快するのでなく,直接疼痛に作用していると考えられる。 |
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1196例を対象に3カ月行ったミルナシプランのプラセボ対照第III相二重盲検無作為化比較試験においては,ミルナシプラン投与量として,100mg/日群と200mg/日群の2用量間と対照群を比較し,疼痛が30%以上改善した割合は,プラセボ対照群が38.4%に対して,100mg/日群が52.3%,200mg/日群が54.8%と統計的に有意に改善していた2)。具体的には,一般的にはミルナシプランは12.5mg錠を1日2回の低用量から始めたほうが,副作用の出現は少ない。線維筋痛症の症例では抗うつ薬の副作用もうつ病の症例より発現しやすいと思われる。抗うつ薬は効果が出現するまでに2週間以上時間がかかるため,経過を十分観察しながら,ゆっくり増量していくほうがよいと思われる。 |
デュロキセチン* | |
エビデンスI 推奨度B
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メタ解析と3つのランダム化試験にて有効性が示されている3)。デュロキセチンのプラセボ対照二重盲検無作為試験においては,354症例の女性の線維筋痛症の患者を対象として行われ,3カ月間,プラセボ投与,60mg1日1回投与と60mg 1日2回投与の比較試験で行われた。Brief pain inventory average pain sverity scoreを用いた評価では,プラセボ対照群では-1.16の改善であったのに対して,60mg投与群では-2.39,120mg投与群では-2.40と有意にプラセボ対照群より軽快していた4)。 |
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Fibromyalgia impact questionnarire total score(FIQ)を用いた評価でも,プラセボ対照群では-8.35の改善であったのに対して,60mg投与群では-16.72,120mg投与群では-16.81と有意にプラセボ対照群より改善し,疼痛も軽快していた4)。興味ある報告に,うつ病を合併している線維筋痛症とうつ病を合併していない線維筋痛症のデュロキセチンに対する効果を検討した結果があるが,デュロキセチンによる疼痛の改善においては,うつ病の合併有無は関係ないとの結果であった5)。したがって,デュロキセチンが疼痛改善に直接作用することを示している。 |