(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
5章 治療
4a.薬物療法:神経因性疼痛改善薬と副症状,合併症に対する治療
4a.薬物療法:神経因性疼痛改善薬と副症状,合併症に対する治療
1.神経因性疼痛に対する治療薬
ノイロトロピン | |
エビデンスIV 推奨度B
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ノイロトロピンは,家兎にワクシニアウイルスを接種した皮膚炎症組織から抽出した抗炎症作用・抗アレルギー作用を持つ薬剤である。マウス,ラットの系で下向性疼痛抑制経路の活性化作用を認め, 線維筋痛症の病態からみて有効性が説明できる。慢性疼痛症の一病態である帯状疱疹後神経痛にて二重盲検比較試験にて効果が実証されている1)が,線維筋痛症では対照試験(RCT)がない。経験的に静注または点滴静注,局所麻酔薬と混合させた局注(トリガーポイント注射)が有効である。内服治療の効果は,意見の分かれるところであるが,通常投与量の1回2錠でなく,4錠から5錠の内服で有効な症例もあり,今後の用量の再検討が必要である。稀に過敏症や胃部不快感を生じる。 |
抗痙攣薬 | |
①ガバペンチン(ガバペン®)* | |
エビデンスIIa 推奨度B
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ガバペンチンは,電位依存性のカルシウムチャネルのサブユニットであるα2-δ蛋白に結合して前シナプスでカルシウムの流入を抑制し,興奮性神経伝達物質の遊離を抑制すると考えられている。米国の二重盲検比較試験にて,線維筋痛症の痛みと睡眠障害などの諸症状に有効性が確認されている2)。本邦ではRCTがないが,非盲検試験では,70〜80%の有効性を示している2)。傾眠,浮動性のめまいの頻度が高いため,初期は低用量(200mg/日)より開始し,600〜1800mg/日で維持量とする場合が多い3)。高齢者や腎機能障害者では副作用が出現しやすく注意を要する。 |
②プレガバリン(リリカ® )* | |
エビデンスI 推奨度B
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プレガバリンは,海外において神経障害性疼痛,てんかん,全般性不安障害および線維筋痛症の治療に対して承認されている。本邦においても帯状疱疹後神経痛4)や糖尿病性神経障害に伴う疼痛の治験結果より,末梢性神経障害性疼痛の適応が2010年9月に追加された。特に帯状疱疹後神経痛の治療では,52週の非盲検の長期観察にて,有効性と安全性が確認されている5)。線維筋痛症に対しては,本邦で現在治験(第III相)が行われている。プレガバリンは,ガバペンチンと同様の作用機序により,鎮痛作用を発揮すると考えられている。しかし,プレガバリンの電位依存性カルシウムチャネルの補助サブユニットであるα2-δ蛋白への結合親和性は,ガバペンチンに比べて高く,臨床用量もガバペンチンの1/4程度となっている。本剤は,米国および欧州の二重盲検比較試験にて,線維筋痛症の痛みと睡眠障害等に有効性が確認されている6〜8)。副作用としては浮動性めまい,傾眠,体重増加,末梢性浮腫等がある。経験的には,ガバペンチンと同程度の効果が期待できる。米国における初期量は75mg/日とし,300〜450mg/日の維持量とする場合が多い。 |
③カルバマゼピン(テグレトール®)* | |
エビデンスIV 推奨度C
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抗痙攣作用,鎮静,静穏作用以外に慢性疼痛に対する効果を認め,三叉神経痛に対して保険適応となっている。カルバマゼピンの線維筋痛症に対するRCTはない。またカルバマゼピンは,肝のシトクロムP450 3A4代謝酵素を誘導するため,様々な薬剤との相互作用を生じ,特に抗真菌薬のボリコナゾールとの併用は禁忌である。また,心臓に対する徐脈や房室ブロックなどにも注意が必要である。初期投与量100mg/日から開始し,600mg/日程度まで増量が可能である。他の抗痙攣薬と同様に副作用として眠気,浮動性のめまい,ふらつきの頻度が高い。稀に重症の皮膚粘膜障害を呈する。 |
④クロナゼパム(リボトリール®)* | |
エビデンスIV 推奨度C
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クロナゼパムは,抗痙攣作用のほか,GABAニューロン作用を特異的に増強させる特徴を持っており,てんかんに対して保険適応となっている。線維筋痛症に対しては国内外で経験的に使用されている9)が,RCTの記載はない。ベンゾジアゼピン系の薬剤であるため,鎮静や線維筋痛症にみられる筋緊張にも有効である。初期投与量として0.5mg/日より開始し,1.5〜2.0mg/日程度で維持用量とする。副作用として眠気,ふらつき,喘鳴等がある。抗痙攣薬全体として車の運転は控えるように指導する。 |
オピオイド系鎮痛薬 | |
エビデンスIIa 推奨度B(トラマドール*のみ)
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オピオイド系鎮痛薬には,麻薬性(モルヒネ*,フェンタニール*)と非麻薬性(ペンタゾシン*,トラマドール)の2群がある。一般的に線維筋痛症の治療は長期に及ぶことから,薬物依存の出やすい麻薬性鎮痛薬の使用は好ましくない。非麻薬性でもペンタゾシン(ペンタジン®*,ソセゴン®*)などは,依存性が問題である。経験的には,依存性,精神作用が弱く,セロトニン,ノルアドレナリンの活性化作用も持っているトラマドール塩酸塩(トラマール®*)を痛みの激しいときに筋注剤の頓用として使用している。また本邦には,内服薬の適応がないが,米国にて本剤とアセトアミノフェンとの内服合剤の線維筋痛症に対するRCTの記載もあり,本年度に発売予定である10)。 |
NMDA受容体拮抗薬(デキストロメトロファン塩:メジコン®)* | |
エビデンスIIa 推奨度B
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NMDA(N-Methyl-D-Asparartate)は,興奮性アミノ酸の一種で,疼痛メカニズムに関与している。NMDA受容体拮抗薬であるデキストロメトロファン塩:メジコン®は,経験的に慢性疼痛の治療に用いられている。トラマドールとの併用療法にて,プラセボ対照の比較試験の報告があるが今後の検討が必要である11)。 |
ラロキシフェン(エビスタ®)* | |
エビデンスIIa 推奨度B
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ラロキシフェンは,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)といって,骨・脂質代謝にはアゴニストとして,子宮内膜・乳房組織にはアンタゴニストとして作用する骨粗鬆治療薬である。閉経後の線維筋痛症患者に限って,プラセボ対照二重盲検比較試験が行われており,線維筋痛症の痛み,倦怠感,睡眠障害,全般的な健康評価に有効であった。しかし,深部静脈血栓症もラロキシフェン群で発症しており,体動の少ない線維筋痛症患者では注意を要する12)。 |