(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
5章 治療
2.エビデンスに基づく薬物治療 (海外の事例を含む)



arrow 本章では線維筋痛症(FM)そのものに有効な薬物について言及する。線維筋痛症とは異なる疾患が合併する場合の治療に関しては,各疾患のガイドラインを参照して頂きたい。世界では慢性広範痛症(CWP,身体 5 箇所に 3 カ月以上疼痛があるが圧痛点の数が10以下)に対しては通常線維筋痛症と同じ治療が行われている1)。CWP不全型CWPに対して線維筋痛症の治療を行えば線維筋痛症以上の治療成績を得ることができる2)
arrow 線維筋痛症において,単一薬物より薬物の併用のほうが有意に効果があるという二重盲検法を用いた研究はほとんどない2)。線維筋痛症などを含まない神経障害性疼痛において1つの薬物を投与して不十分な鎮痛が得られた場合には,鎮痛機序の異なる別の薬物を追加することを国際疼痛学会は勧めている2)。この原則は線維筋痛症にも適応できると考えている。当初から複数の薬物を投与すること,上限量を使用せず無効と判断すること,無効な薬物を長期間投与することは望ましくない。
arrow ミルナシプラン,プレガバリン,デュロキセチンの線維筋痛症への使用を米国食品医薬品局は認めたが,欧州では線維筋痛症への使用申請は却下された2)。副作用の問題に加えて,短期成績があまり良好ではなく,長期成績が示されていないからである。
arrow 抗うつ薬の鎮痛効果は抗うつ効果とは独立している2)。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)や三環系抗うつ薬(TCA)より鎮痛効果が弱い2)。SSRIはTCAより副作用の頻度が少ないという説にはほとんど根拠がなく,二重盲検法によると副作用の頻度には有意差はない2)
arrow SSRIやSNRIは,抗うつ効果を発揮する投与量と鎮痛効果を発揮する投与量はほぼ同じであるが,TCAでは通常抗うつ効果を発揮する投与量より少ない投与量で鎮痛効果を発揮する。通常,抗うつ効果は1カ月以上経過しないと認められないが,抗うつ薬の鎮痛効果は数日で認められることがある。
arrow 抗痙攣薬は他の薬物より線維筋痛症の筋緊張を緩和する作用が強いという報告はない。
arrow 線維筋痛症患者は不眠を合併することが多いが、疼痛による不眠に優先的に使用すべき薬は睡眠薬ではなく鎮痛薬である。不眠に対しては線維筋痛症の疼痛に有効な薬物を優先して使用したり、抗うつ薬などの眠気の副作用を利用することが望ましい。
arrow ほとんどの抗うつ薬,抗痙攣薬,抗不安薬,抗精神病薬の添付文書には自動車を運転する者には処方禁止という趣旨の記載がある。それが実行されると日本の社会は崩壊するが,患者に説明する必要がある。

: この項の推奨度は主として欧米人を対象にしたものにより,欧米人を対象にした推奨度であって,必ずしも日本人に当てはまるものではない。


アミトリプチリン(トリプタノール®* TCA
エビデンスI 推奨度 A(本邦では推奨度 B)
arrow 系統的レビューによると25mg/日を投与すると6〜8週間は有効であるが12週間では有効性が認められず,50mg/日には有効性が認められない3)。通常は25〜50mg/日の就寝前投与が勧められている。ただし,100mgを超えて鎮痛効果を発揮する患者もいるため,上限量である150mgを投与せず無効と判断しないことが望ましい。眠気の副作用があるため50mg/日までは夕食後あるいは就寝前に投与することが望ましい。筆者は5mg/日から開始30〜50mg/日までは1週間に5mgずつ増量し,以後は1週間に10mgずつ増量している2)

ノルトリプチリン(ノリトレン®* TCA
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 二重盲検法を用いたブラジルの研究では25mgは偽薬より改善した患者の割合が多かったが有意差はなかった4)。症例報告5)があるのみである。アミトリプチリンは体内で代謝され大部分がノルトリプチリンになる2)。アミトリプチリンより副作用が少ないため,線維筋痛症などを含まない神経障害性疼痛における一般論として,国際疼痛学会はアミトリプチリンより優先して使用することを勧めている2)

ドスレピン,ドチエピン(プロチアデン®* TCA
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow ACRの分類基準が報告される前の診断基準で線維筋痛症と診断された患者に二重盲検法により75mgを夜間に8週間投与すると圧痛点の数と自覚的な疼痛は有意に軽減したが,対照群との比較は報告されなかった2)。患者と医師の総合評価では対照群より有意に有効と判定された2)

イミプラミン(トフラニール®* TCA
エビデンスIV 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 20人のfibrositisの患者に50〜75mg/日を投与すると2人のみが有効であり,そのうち1人は副作用のため中止したという対照群のないイスラエルの研究がある6)

クロミプラミン(アナフラニール®* TCA
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow Fibrositis患者において,クロミプラミン,マプロチリン,偽薬を各々3週ずつ投薬するとイタリアの二重盲検法により75mg/日は有意に圧痛点の数を減らした7)。最も優れた薬物と患者が選んだ薬物がマプロチリンであった割合は60.9%であり,クロミプラミンであった患者は26.1%であった7)。12.5mg/日を3日間,25mg/日を4〜10日間夕食後に2時間かけて点滴するとVASと圧痛点の数が有意に低下したという対照群のない日本の研究がある8)

マプロチリン(ルジオミール®* 四環系抗うつ薬
エビデンスII a 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow Fibrositis患者において,クロミプラミン,マプロチリン,偽薬を各々3週ずつ投薬するとイタリアの二重盲検法により75mg/日は有意に抑うつを改善した7)。最も優れた薬物と患者が選んだ薬物がマプロチリンであった割合は60.9%であり,クロミプラミンであった患者は26.1%であった7)

ミルナシプラン(トレドミン®* SNRI
エビデンスI 推奨度 A(本邦では推奨度 B)
arrow 二重盲検法を用いた多くの報告で100〜200mg/日の有効性(疼痛,生活の質)が示され,メタ解析により疼痛や生活の質などが改善することが示されている9)。先発品に限定しても,新しい抗うつ薬,ガバペンチン,プレガバリンの中で最も安価である。後発品がある。半減期が6〜8時間であるため,1日2回投与が望ましい。

デュロキセチン(サインバルタ®* SNRI
エビデンスI 推奨度 A(本邦では推奨度 B)
arrow 二重盲検法を用いた多くの報告で60〜120mg/日の有効性(疼痛,生活の質)が示され,メタ解析により疼痛や生活の質などが改善することが示されている9)。添付文書通りの1日1回朝食後ではなく,夕食後や1日2回投与でもかまわない。

パロキセチン(パキシル®* SNRI
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 二重盲検法を用いた米国の報告では12.5mg/日から62.5mg/日まで1週間ごとに12.5mgずつ増量し平均39mg/日を投与すると生活の質が改善した10)。12.5〜62.5mg/日を12週の米国の二重盲検で112人の線維筋痛症患者に投与すると治療効果があった11)。筆者の経験では鎮痛効果は強くない。

セルトラリン(ジェイゾロフト®* SNRI
エビデンスII b 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 対照群のないトルコの研究で100mg/日の鎮痛効果が示された2)。50mg/日は25mg/日のアミトリプチリンと同程度に疼痛や睡眠障害などに有効であるという二重盲験法ではないが比較を行ったトルコの研究2)がある。

フルボキサミン(ルボックス®,デプロメール®* SNRI
エビデンスII b 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 二重盲検法ではない日本の研究では,線維筋痛症患者をアミトリプチリン20mg/日投与群とフルボキサミン25mg/日投与群に分けて1カ月間投薬すると,患者の自覚的な疼痛が50%未満になった割合はアミトリプチリン投与群では50%,フルボキサミン投与群では41%であり,両群には統計学的有意差はなかった2)

ミルタザピン(レメロン®,リフレックス®* 抗うつ薬
エビデンスII b 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 対照群のないポーランドの6週間の研究では15〜30mg/日を29人の線維筋痛症患者に投与すると14人(54%)で自覚的な疼痛が40%以上改善し,19人(73%)で自覚的な睡眠障害が40%以上改善した2)。眠気が強いことが短所でもあり,長所でもある。

トラゾドン(デジレル®,レスリン®* 抗うつ薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 対照群のないイタリアの研究では3カ月150mg/日に鎮痛効果があった2)。対照群のないスペインの研究で50〜300mg/日の可変量を,66人の線維筋痛症患者に12週投与すると睡眠の質やFIQ,不安が有意に改善した12)。ペニスやクリトリスの持続勃起が起こることがある。

ガバペンチン(ガバペン®* 抗痙攣薬
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 米国の二重盲検法では,1200〜2400mg/日が有意に疼痛や生活の質を改善した2)。他の抗痙攣薬を併用処方する必要がある。筆者は100〜400mg/日までは1週間に100mgずつ増量し,以後は1週間に200mgずつ増量している。

プレガバリン(リリカ®* 抗痙攣薬
エビデンスI 推奨度 A(本邦では推奨度 B)
arrow 多くの二重盲検法では300,450,600mg/日が疼痛,睡眠,生活の質を改善する。 メタ解析では疼痛,睡眠,生活の質が改善する13)

デキストロメトルファン(メジコン®*
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬,つまりケタミンの類似薬である。米国の二重盲検法では,90mg/日が熱刺激や機械的刺激により中枢神経が感作されることを有意に防ぐ2)。副作用が少ない。鎮咳薬として薬価収載されている。副作用が少ない割に疼痛が軽減する患者が多い。

トロピセトロン(ナボバン®*,オンダンセトロン(ゾフラン®*
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow ドイツとスイスの二重盲検法により有効性が示されているが2),抗悪性腫瘍薬(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)が適応症であることや,薬価が高いため実用性がない。

ラロキシフェン(エビスタ®* 骨粗鬆症の薬
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 閉経後の女性線維筋痛症患者に対する16週の二重盲検法(イラン)により60mg/日は痛み,疲労,圧痛点の数,睡眠障害,生活の質を有意に改善したが,不安や抑うつ症状を改善しなかった2)

ノイロトロピン® *
エビデンスIV 推奨度B(本邦では推奨度B)
arrow 副作用が少ないことが長所である。疼痛を改善したという対照群のない日本の研究が2つある2)。アミトリプチリンを40人にノイロトロピン®を44人に投与(39人は両薬物投与)するとノイロトロピンのほうが有効であった患者が有意に多いという日本の報告14)もある。1日4錠より8錠のほうが鎮痛効果が強い2)。筆者の経験では内服より点滴のほうが有効な患者がいる。

ラフチジン(プロテカジン®* H2ブロッカー
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 胃粘膜保護作用はカプサイシン感受性知覚神経を介する。対照群のない日本の研究で20mg/日により26人中8人で疼痛が改善した15)

ゾピクロン(アモバン®* 睡眠薬
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow Yunus基準の女性線維筋痛症患者において,二重盲検法により7.5mgは疼痛や睡眠の質は改善しないが,日中の疲労感や睡眠時の覚醒回数を有意に改善した16)。また,Yunus基準の線維筋痛症患者において,フィンランドの二重盲検法により7.5mgの8週内服は疼痛や不快感を改善しなかった17)。主観的な睡眠の質を14人中11人(79%)で改善し,偽薬群では14人中9人(64%)で改善し,有意差はなかった17)

ゾルピデム(マイスリー®* 睡眠薬
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow カナダの二重盲検法では5,10,15mgは睡眠の質や疼痛を改善しないが,睡眠時間や日中の活力を有意に改善した18)。睡眠には10mgが最適である18)。ゾピクロンもゾルピデムも非ベンゾジアゼピン系睡眠薬である。

プラミペキソール(ビ・シフロール®* ドパミン作動薬
エビデンスII a 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 米国の二重盲検法では4.5mgまで漸増した就寝前投与が疼痛,疲労,身体機能に有効である2)。添付文書の指示通りに漸増すべきである。PhaseIIの臨床試験は理由を提示することなく中止となった19)。抗うつ薬の眠気は徐々に起こるが,突然の意識消失が起こることがあるので自動車を運転する者には処方厳禁である。約15%の患者で幻覚が起こる(添付文書)。

ロピニロール(レキップ®* ドパミン作動薬
エビデンスIV 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 対照群のない米国の研究で19人中6人で疼痛が軽減し20),米国の二重盲検法ではロピニロールを就寝前0.25mgから8mgまで漸増した後8mgを14週間経口投与すると偽薬と比べて疼痛,生活の質などが改善したが,有意差はなかった21)。プラミペキソールと同様,自動車を運転する者には処方厳禁である。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)*
エビデンスIV 推奨度 C(本邦では推奨度C)
arrow 単独では無効である。長期使用により消化管潰瘍がしばしば起こる。米国では年間少なくとも1万6500人がNSAIDs潰瘍で死亡していると推測されている22)ので長期使用は望ましくない。安全性と費用の観点からアセトアミノフェンをまず使用したほうがよい2)

ピリドスチグミン(メスチノン®* 重症筋無力症の治療薬
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 1日30mgから投与し,1日ごとに30mgずつ180mgまで増やし,それを11日間投与すると疼痛や生活の質を改善しなかったが,不安や不眠を改善したという二重盲検法を用いた米国の研究がある2)

ピンドロール(カルビスケン®*,イスハート®*など) 降圧薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 7.5mg/日で開始し,最高15mg/日(合計90日)が圧痛点の数,Tender Point Score,生活の質に有効であることが対照群のない米国の研究で示されている2)

クエチアピン(セロクエル®* 非定型抗精神病薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 対照群のないスペインの研究では25〜100mg/日(12週)は疼痛を改善しないがFIQを有意に改善した2)

オランザピン(ジプレキサ®* 非定型抗精神病薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 5〜20mg/日は有意に疼痛,活動レベル,睡眠を改善するという対照群のない米国の研究がある2)

クロルプロマジン(ウインタミン®,コントミン®* 定型抗精神病薬
エビデンスII b 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 100mg/日は睡眠,疼痛,気分に有効であるという対照群のあるカナダの研究がある2)

レボメプロマジン(レボトミン®, ヒルナミン®* 定型抗精神病薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 対照群のないスペインの研究において12.5〜100mg/日を12週投与すると疼痛と生活の質は変化しないが,睡眠の質とthe Clinical Global Impression(CGI)-severity scoreは有意に改善23)した。

チザニジン(テルネリン®など)* 筋弛緩薬
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 対照群のない米国の研究では4〜24mg/日を8週投与すると睡眠状態・疼痛・生活の質が改善した2)。対照群のない米国の研究で4〜12mg/日,平均6.5mg/日の投与は7週後の時点で疼痛・睡眠・疲労・FIQを改善したが,14週後の時点では疲労と圧痛点の数のみを改善した2)

マイヤーズ・カクテル(Myers' Cocktail)* 点滴療法
推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 8週の二重盲検法を行うと偽薬群と有意差がなかった24)

漢方薬*
エビデンスV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 適切な診断基準を用いた研究に限定すると,十全大補湯(10人中2人で有効)2)とアコニンサン以外は症例報告があるのみである。食前あるいは食間に投薬すべきという説にはエビデンスがないため,食後に投与しても問題はない2)

アコニンサン*
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 加圧加熱処理をして附子の毒性を減じた加工附子末である。対照群のない日本の研究で9錠/日を3カ月以上投与すると23人中11人(47.8%)で患者の自己評価が改善した25)

成長ホルモン*
推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 二重盲検法では9カ月毎日注射するとFIQ,圧痛点の数が有意に改善したが,中止後には症状が悪化した26)。副作用を考えると実用性はない。

ステロイド*
推奨度 D(本邦では推奨度 C)
arrow Fibrositis患者にプレドニゾンを使用すると,有意差はないものの偽薬のほうが治療成績が良いという米国の二重盲験法がある2)。効果がないのみならず,副作用を引き起こすからである。炎症が合併しなければステロイドを使用すべきではないと米国疼痛学会は結論している2)

サラゾスルファピリジン(アザルフィジン EN®錠)*
推奨度 C(本邦ではエビデンスV 推奨度 B)
arrow 有効性を示すエビデンスはない。

ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®),セビメリン(サリグレン®,エボザック®*
推奨度 C(本邦ではエビデンスIII 推奨度 B)
arrow 有効性を示すエビデンスはない。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬*
推奨度 D(本邦では推奨度 C)
arrow 有効性を示す証拠はないのみならず,長期使用により,転倒や骨折の増加,運動機能・情報処理能力・理解力・認知機能の低下,抑うつ頻度の増加や抑うつ症状の悪化,女性での死亡率増加などを引き起こす2)。そのため,線維筋痛症の疼痛や不眠に使用することは望ましくない。
arrow 不安障害の治療の際SSRIと併用されることがあるが,SSRIの抗不安効果が生じる約2カ月以降は中止すべきである。常用量依存に陥ると中止不能になることがあるため3〜4カ月を越える使用は望ましくない。力価が強いほど,作用時間が短い抗不安薬ほど長期使用になりやすいので注意が必要である。

トラマドール(トラマール®*
エビデンスII a 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 弱オピオイドであり,麻薬に指定されていない。経口薬の力価はモルヒネの1/5である。米国の二重盲検法では50〜400mg/日の経口薬は有意に疼痛を改善した。米国の二重盲検法では37.5mgのトラマドールと325mgのアセトアミノフェンの合剤4錠または8錠は有意に疼痛と生活の質を改善した2)。適応は癌性疼痛である。

ブプレノルフィン(レペタン®坐薬,筋注,静注)*
ペンタゾシン(ペンタジン®,ソセゴン®筋注,静注,皮下注,錠剤)*
エビデンスV 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 麻薬に指定されていない。線維筋痛症に有効であるエビデンスはない。依存が起こりやすいため,非癌性慢性痛にこれらの薬物を使用することは望ましくない。これらの薬物をモルヒネと併用すべきではない。ブプレノルフィンの作用時間は約8時間とモルヒネより長いが,天井効果がある。

モルヒネ*
推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 麻薬に指定されている。激しい疼痛が適応のひとつである。散剤は錠剤の2割以下の薬価であるが,1回投与量が10mgでは散剤の投与は困難である。線維筋痛症にオピオイドは無効と記載されることがあるが,その記載にはエビデンスはほとんどなく,実際に使用するとモルヒネが有効な患者が少なくない。自殺をほのめかすほど強い疼痛を訴えるか,線維筋痛症に有効な多数の薬物が無効な場合に限って使用すべきである。疼痛のある患者に使用する限り,依存はほとんど起こらない。便秘は必発であり,約半数で吐き気が生じるため,副作用対策が必須である。

フェンタニル経皮吸収型製剤(デュロテップ®MTパッチ)*
推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 麻薬に指定されている。中等度から高度の慢性疼痛が適応のひとつである。他のオピオイドが無効な場合に限り使用可能である。他のオピオイドとは実質的にはモルヒネを意味する。

ケタミン*
エビデンスII a 推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 麻薬に指定されている。二重盲検crossover法により1回の静注により20〜80分の時点でVASが有意に低下し,ケタミンに反応した8人中6人では2日から7日間疼痛が軽減した27)。17人の痛覚過敏を伴った線維筋痛症患者にケタミンを皮下注すると11人はVASによる評価で50%以上の改善が得られたが,6人では反応がなかったと報告されている28)

禁煙
エビデンスIII 推奨度 B(本邦では推奨度 B)
arrow 禁煙が治療として有効という報告はないが,喫煙は線維筋痛症の危険因子であり29),線維筋痛症患者の中で喫煙者は非喫煙者より症状が強い2)。そのため受動喫煙の回避や禁煙は有効な治療と推測される。配偶者からの間接受動喫煙を避けるため配偶者は禁煙,同居する家族は屋外喫煙が望ましい。

減量
エビデンスIV 推奨度 B(本邦では推奨度 C)
arrow 女性ではbody mass index(BMI)が高いと有病率が高くなり30),BMIが25以上の女性患者が20週で平均4.2kg(4.4%)減量すると症状が軽減した31)。線維筋痛症に有効な薬物はしばしば体重増加をもたらすので定期的な体重測定が必要である。有酸素運動は線維筋痛症そのものに有効であるのみならず,減量にも有効である。

交感神経ブロック,星状神経節ブロック
推奨度 C(本邦では推奨度 C)
arrow 有効性を示すエビデンスはない上に,半永久的に就労不能になるほどの重篤な合併症が稀ではあるが起こるため,治療として勧められない。スーパーライザーから照射される直線偏光近赤外線による星状神経節近傍照射には有効性を示すエビデンスはないが,重篤な副作用が起こらないため,試す価値はある。

圧痛点へのブロック,トリガーポイントブロック
推奨度 C
arrow 有効性を示すエビデンスはない。2010年に両側の外傷性気胸による死亡事故が日本であった。

アスパルテーム
arrow カロリーが0で砂糖の約200倍の甘さを持つ人工甘味料である。ガム,飴,カロリーの少ない清涼飲料水,酎ハイ,砂糖の代用の液体甘味料などに含まれている。アスパルテーム摂取により線維筋痛症が発症した患者が報告された32)


 

 
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