(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
4章 鑑別診断
6.その他(慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症)
6.その他(慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症)
1.慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome : CFS)
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線維筋痛症(FM)と鑑別すべき疾患の中で,相互に合併しやすい病態として慢性疲労症候群(CFS)がある。両者とも機能性身体症候群(functional somatic syn-drome : FSS)に含まれる病態である。本邦線維筋痛症の30〜40%にCFSを合併するとの報告1)もあるが,多施設症例での検討が必要である。しかし,線維筋痛症患者の疲労感はCFSに匹敵するほどの激しい疲労感であることから,線維筋痛症で激しい疲労・倦怠感を訴える場合はCFSの合併を考慮する必要がある。CFSの有病率2)は本邦では約0.2〜0.3%と推計されており,決して稀な病態ではないことから線維筋痛症の診断にあたって重要な鑑別診断の対象疾患となる。 |
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両疾患の鑑別には倦怠感と身体の筋・骨格系の疼痛の性状の理解が重要である。すなわち,CFSでは急性ないし亜急性の発症であり,比較的急速に疲労・倦怠感で出現し,しばしば急性感染症状,特に感冒症状の前駆症状を伴うことが多く,線維筋痛症の疲労・倦怠感は時にCFSに相当する場合もあるが,一般的にはCFSより軽度のことが多いとされている。 |
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一方,疼痛に関しては,線維筋痛症では局所性疼痛から始まり経過ともに疼痛が身体の広汎な部位に拡大し,日内,日差変動を示しながら激しい疼痛が出没し,経過とともに疲労・倦怠感を含めた多彩な身体症状,精神・神経症状を随伴しながら経過する。CFSの疼痛は決して線維筋痛症のような激しいものでなく,疼痛の部位も関節,骨格筋に限局し,線維筋痛症ほど部位の多彩さはない。CFSは激しい疲労・倦怠感で急速に発症し,線維筋痛症は慢性疼痛が主体で徐々に拡大しながら病態が完成することが多い。さらに,線維筋痛症では微熱,手の腫脹,リベド症状,レイノー現象などの理学的身体所見以外は認めないのに比して,慢性疲労症候群では微熱,咽頭の非滲出性炎症所見,表在性,特に頸部リンパ節腫大(多くは有痛性)を伴うことが多いのも特徴的である。 |
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CFSの診断にあたっては,日本疲労学会(2007)からCFSの新しい基準(診断指針)3)が提案されている(表1)2)。この基準も臨床徴候の組み合わせによるものであり,その項目の多くは線維筋痛症患者にも出現するものであることが理解できよう。両疾患が機能性身体症候群(functional somatic syndrome : FSS)としてまとめられる病態であるからにほかならず,両疾患の合併のしやすさもこのことによる。すなわち,同じFSSの病態の中で,線維筋痛症は多彩な症状のうち身体の広汎な部位の激しい慢性疼痛が前面に出たもので,CFSは比較的急性に激しい疲労・倦怠感が前面に出たものとの理解が両疾患の鑑別に有用である。 |
表1 ![]() ![]() ![]() |