(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
4章 鑑別診断
5.線維筋痛症と精神疾患の鑑別

2.線維筋痛症患者のうつ状態
arrow 線維筋痛症患者がうつ状態を呈した場合,第一に最も考えやすいのは痛みが強いことを苦痛に感じて憂鬱感を強めている場合である。病因を考慮して精神疾患の診断をつければ,反応性うつ病や抑うつ気分を伴う適応障害となる。この病名を用いる場合,痛みがとれればうつ状態は軽快するという考えが背景になければならない。このときのうつ状態が一定の症状特徴と重症度をもっていれば大うつ病エピソードと診断されることもある。
arrow 第二にうつ状態では様々な身体症状を認めることが多い。線維筋痛症の診断基準を満たす,あるいは満たす可能性がある痛みが,うつ状態に伴う身体症状であると考えられることがある。この場合,うつ状態が軽快すれば痛みは軽減するはずであるという考えが背景にある。
arrow 第一と第二の場合の鑑別に最も重要なのは痛みと憂鬱感の時間的関係である。前者では憂鬱感は痛みの発現後にみられる。後者ではうつ病症状が先行することが多いが,痛みがしばらく続いた後,うつ病症状が発現することもある。うつ状態の重症度は鑑別の指標にならないと考えたほうがよいし,大うつ病エピソードの診断基準を満たすから第二に当たると考えるのは誤りであることも知っておく必要がある。
arrow 痛みと憂鬱感が交代性に出現することがある。ひとつの精神症状が軽快するとともに他の精神症状が強まることを症候移動と呼ぶ。性格や環境が主な原因となる痛みやうつ状態で認めることが多い。身体医は「痛みが弱まると憂鬱感が強まることから,このうつ状態は痛みと関係ない」と考えがちであるが,精神科医は同一の病因が時期によって痛みと憂鬱感を出現させていると考えて,治療に当たることが多い。
arrow 原因不明の痛みに加えて,様々な精神症状を認めたとき,身体医は「精神症状を合併する痛みの患者」とか「対応の難しい痛みの患者」などと,痛みと他の精神症状を別にとらえる傾向がある。一方,精神医学では通常,「何らかの病因が痛みを含む多彩な精神症状を生んでいる患者」と考える。
arrow うつ病の概念自体が今日のように広まり,種々の診断基準がその意義を明確にしないまま使われている現状で,うつ病と線維筋痛症の関係に関する議論は慎重になされる必要がある。頻用される操作的診断基準である DSM を用いて,うつ状態を呈する線維筋痛症患者を診断するとすれば,精神面は第 1 軸で精神疾患の診断をつけ,第 3 軸(一般身体疾患)に線維筋痛症と記載するしかない。これは臨床統計や施設間比較には生かせるが,治療にはあまり役立たない。

 

 
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