(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
4章 鑑別診断
5.線維筋痛症と精神疾患の鑑別
5.線維筋痛症と精神疾患の鑑別
1.鑑別診断と合併症
1)確定診断の方法からみて | |
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2つの疾患の関係を考えるとき,病理所見のような確立された確定診断の方法があるときは鑑別や合併を考えやすい。両疾患の所見を有していれば合併であり,臨床症状はA疾患に似ているが,病理検査などでB疾患の所見が認められた場合は,B疾患の鑑別診断としてA疾患を挙げることになる。 |
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線維筋痛症は何らかの中枢神経系の異常が病因であると想定されているものの,現時点では病因不明と言うべきであるし,診断も臨床症状の特徴のみからなされる。一方,精神疾患も検査所見などの他覚所見による診断方法はない。統合失調症や躁うつ病は何らかの脳の異常に起因すると推測されているが,診断確定は現在も臨床症状からなされている。このように共に診断を決定づける異常な他覚所見が明らかでない疾患における鑑別や合併は評価や考え方自体を明確にしておかないと混乱しやすい。 |
2)精神疾患の病因と診断名が抱える問題 | |
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精神疾患診断における最近の動向として考慮すべき点がある。かつて内因性うつ病,神経症性うつ病,心気症などという診断名を用いていた時代には,原因は明らかでないとしても,背景にある何らかの原因を想定する診断名を用いていた。内因性うつ病ではまだ見つかっていない何らかの脳の異常がある可能性が大きいと考えられていたし,神経症性うつ病や心気症は性格や環境の影響が大きいとされていた。そのため診断においても,性格や症状発現前に認めた環境の変化など,病因に相当する部分が詳細に問診されていた。 |
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ところが性格や環境の変化に関する情報を診断に用いると,面接する医師ごとに評価の差が大きくなりやすい。評価者間一致度が低いことは科学性を欠くことであるという考えから,近年精神疾患の診断を表面に現れた症状のみから行う傾向が強まっている。この傾向は米国精神医学会によるDSM(Diagnostic and Statistical Manual)やWHOによるICD(International Statistical Classification of Diseases)でみられ,大うつ病エピソードや身体化障害という診断はこの流れから生まれた。非常に強い環境変化の直後に起こっても,表面に現れた症状が大うつ病エピソードの診断基準を満たせば,大うつ病エピソードなのである。病因と対応する症状の組み合わせを疾患と呼ぶと考えれば,大うつ病エピソードや身体化障害という呼称は,現時点では疾患名というよりも単なる症状の組み合わせと考えておいたほうがよい。 |
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このあたりの事情を理解して,線維筋痛症と精神疾患の鑑別や合併を判断すれば「大うつ病エピソードと診断されるからうつ病に起因する痛みであるはずだ」とか「痛みがとれればうつ状態は良くなるはずだ」などという安易な理解は避けることができよう。 |