(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
4章 鑑別診断
4.線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別

arrow 線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の基本的な症候は,3カ月以上持続する慢性の全身性疼痛と,不眠,疲労感,気分障害,認知障害などを特徴とするが,しびれ・ピリピリ感などの異常感覚,視力障害,平衡障害,筋力低下,筋肉の不随意運動(筋肉のピクツキやこむらがえり)など,様々な神経症状を訴える場合が多く1),時に神経内科的疾患との鑑別を必要とする。鑑別を要する代表的な神経内科的疾患として,慢性炎症性脱髄性多発神経炎,アイザックス症候群などの末梢神経疾患,多発性硬化症,重症筋無力症,筋炎などが挙げられる。臨床経過の問診と注意深い神経学的診察によって,多くの場合,鑑別が困難ではないが,これらの疾患の存在を念頭に置いて線維筋痛症患者の診療にのぞむ必要があり,以下に各疾患の特徴について簡単に紹介する。また,これらの神経内科的疾患の続発症として線維筋痛症を発症している患者も認められる点は,線維筋痛症の病態を考える上で興味深い。

1.慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)

1)概要
arrow CIDPは,四肢の筋力低下や感覚障害を主徴とする自己免疫性末梢神経障害である。1カ月以内に症状のピークを示すギラン・バレー症候群と異なり,2カ月以上にわたり慢性進行性,階段状,または再発・寛解の経過をたどる点が特徴であり,線維筋痛症の鑑別疾患として重要である。一般に運動障害優位の運動・感覚障害を示すが,稀に運動麻痺のみ,ないし感覚障害のみを呈することがあり,特に感覚障害のみを示す症例は,線維筋痛症との鑑別に注意が必要である。
arrow 治療法として,副腎皮質ステロイド療法や免疫グロブリン大量静注(IVIg)療法,血漿交換療法の有効性が確立されている。本邦では「特定疾患治療研究事業」対象疾患に認定されており,本人の申請により医療費助成を受けることができるため,適切な診断が求められる。
arrow 2008年に,線維筋痛症患者の一部に電気生理学的検査でCIDP様の所見を示し,IVIg療法で全身の疼痛が改善したとの報告がある2)。また筆者は,ギラン・バレー症候群後遺症で線維筋痛症を発症している患者を複数例経験しており,慢性的な末梢感覚神経障害の線維筋痛症病態における関連性は興味深い。

2)鑑別のポイント
arrow 一般的にCIDPは四肢腱反射の消失あるいは減弱が認められるため,そのような所見が認められる患者は,神経内科専門医に紹介することを推奨する。痛みの程度が激しい症例も認められ,痛みの程度では鑑別は困難である。診断には電気生理学的検査(神経伝導検査)が必須であり,脱髄性の伝導障害を多発性に証明する必要がある。髄液検査での蛋白細胞解離(細胞数は正常で総蛋白上昇)や,MRIでの神経根・神経叢の肥厚・造影効果の存在は,診断を支持する所見である。

 

 
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