(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
4章 鑑別診断
2.線維筋痛症と整形外科的疾患の鑑別
2.線維筋痛症と整形外科的疾患の鑑別
4.他覚所見に乏しいリウマチ性疾患の随伴
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血清リウマトイド因子陰性脊椎関節症(SNSP)については前述したが,これら疾患は典型的なものでも他覚的所見に乏しい場合があるがさらにこの範中には分類不能リウマチ性脊椎関節症という概念の疾患群が存在し,きわめて他覚的(客観的)所見に乏しく慎重な診察による診断が必要となる。これら疾患は線維筋痛症発症のトリガーとなり,またそれ自体で線維筋痛症様の症状を呈する場合がある。まとめると(表2)のごとくとなる。 |
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表2 ![]() ![]() |
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1) | 発症早期の線維筋痛症ではRA,SLE等の初発症状の可能性がある。 | |
2) | ① | 甲状腺機能低下症は線維筋痛症類似の症状を呈するため線維筋痛症の診断の際には甲状腺機能をチェックする。 |
② | 線維筋痛症は乾燥症状を呈しやすく,またシェーグレン症候群を合併している場合がある。 | |
③ | 反応性関節炎や中年期以降においては強直性脊椎骨増殖症,高齢者においてはCPPD(ピロリン酸カルシウム)結晶沈着症にも考慮が必要である。 | |
④ | SNSPや分類不能リウマチ性脊椎関節症はそれ自体多発性の付着部痛を有し線維筋痛症症状を呈するのみならず,これに線維筋痛症が合併し病態を複雑にしている場合がある。また我々は多発性付着部炎,胸助鎖骨異常骨化症,99mTc骨シンチグラフィー(99mTc)にて主として胸肋鎖骨部への異常集積を伴う線維筋痛症の存在を提唱している。これらを正確に診断するためにはやはり関節,付着部のごくわずかな腫脹を見逃さないことと,X線写真(X-P)にて仙腸関節の変化や胸肋鎖骨部の骨化の有無,付着部の変化を詳細に検討する必要がある。 これらを診断するために我々は99mTcを撮影することを提唱しているが,仙腸関節の変化はCT・MRIで,付着部の変化はMRI,超音波が有効であるとの報告もある。 |
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⑤ | 多発性付着部炎 七川らによって提唱された疾患概念で,多発性に付着部の慢性炎症を呈するが,多くはCRPなどの炎症反応を欠如し,HLA-B27は陰性で付着部炎以外の所見に乏しい。99mTcで付着部に異常集積を認め,同部のbiopsyで慢性炎症所見を認める。この疾患はそれ自体で線維筋痛症類似症状を呈し,また多発性付着部炎に線維筋痛症が合併する場合がある。 |
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⑥ | 胸肋鎖骨異常骨化症,99mTc骨シンチグラフィーにて主として胸肋鎖骨部の異常集積を伴う線維筋痛症 我々は胸肋鎖骨異常骨化症が線維筋痛症症状を呈することを報告している。本疾患は掌蹠膿疱症を合併することで有名であるが,皮疹を欠き,血沈,CRPが正常な症例も存在する。また我々は99mTcにて胸肋鎖骨部への異常集積を認め,同部のbiopsyで慢性炎症所見を確認し,しかしながら10年間の経過観察にて胸肋鎖骨部の骨化を認めなかった症例を報告しているが,99mTcで胸肋鎖骨部に異常集積を認めるも骨化を呈しない症例があり,これが線維筋痛症の新しい疾患概念に なるのではないかと考えている。 加えて胸肋鎖骨異常骨化症や強直性脊椎骨増殖症の早期で,まだX-Pで骨化の明確でない時期には診断は困難であり,やはり99mTc骨シンチグラフィー等が診断に有効なものと思われる。 |
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⑦ | 潰瘍性大腸炎やクローン病等の大腸病変でもSNSPが出現し関節炎や線維筋痛症症状を呈する場合がある。 |