(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
4章 鑑別診断
1.線維筋痛症とリウマチ性疾患の鑑別
1.線維筋痛症とリウマチ性疾患の鑑別
3.脊椎関節炎
概念と有病率 | |
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強直性脊椎炎が代表的疾患であり,乾癬性関節炎,掌蹠膿疱症骨関節炎,腸炎性関節炎,ぶどう膜炎由来の関節炎,反応性関節炎,未分化型脊椎関節炎などが含まれる。有病率は諸外国で異なり,0.5%から1%前後の報告が多い。本邦では和歌山県上富田町の調査で,関節リウマチとほぼ同等であり,0.2%の有病率であったと報告されている9)。線維筋痛症の有病率の8分の1程度と考えられる。 |
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性差については男性優位の疾患と考えられており,2〜3対1と男性のほうが多い。発症年齢は青年時代から45歳までに大部分が発病すると言われている。 |
臨床像 | |
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脊椎関節炎で初期に炎症を起こす部位は,腱や靱帯の付着部である。発病当時は潜行性と言われ,軽度の背部痛,腰痛などから始まる。末梢関節炎型は四肢の関節炎症状をきたす。欧米に比してわが国ではX線所見でbamboo spine(竹様脊椎)をきたす症例は非常に少ない。 |
臨床経過と予後 | |
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症状は項部痛,背部痛,腰殿部痛,胸肋鎖骨部痛,股関節痛,膝関節痛,足関節痛,踵部痛など四肢・体幹に疼痛をきたす。また,軽度の発熱,体重減少,疲労感などもよくみられる。画像所見で初期には仙腸関節炎が認められる。顕著な仙腸関節炎を有する症例は強直性脊椎炎と診断される。機能的予後は,脊柱の強直などにより,脊柱の運動障害が起こる。また,四肢・体幹の付着部炎により,肩関節,手指関節,股関節,膝関節,足関節などに拘縮が出現する症例がある。 |
診断基準 | |
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診断には2つの診断基準が利用されている。ヨーロッパ分類基準(表4)10),アモー ル診断基準である。また,強直性脊椎炎には改正ニューヨーク診断基準が使われる。 |
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最近,上記の診断基準に仙腸関節のMRI所見を加味して,軸性脊椎関節炎の診断がされるようになってきた11)。 |
表4 ![]() ![]() |
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(文献10より引用)
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鑑別診断の要点 | |
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病歴聴取が最も重要である。特に青少年あるいは40代以前からの項部痛,背部痛,腰痛の既往は重要である。また,安静時,夜間あるいは早朝の腰背部痛,あるいは腰背部のこわばり感を聴取することが重要である。手指の腫脹は関節リウマチのように紡錘形ではなく,ソーセージ様であることが多い。また,理学所見ではアキレス腱,あるいは膝蓋腱などの付着部の腫脹・圧痛を確認することが重要である。X 線写真で脊椎の靱帯棘(syndesmophyte),あるいは椎間関節の癒合,仙腸関節の不整,硬化,癒合などを確認する。しかし,これらが通常のX線所見では確認できないことがあり,MRIによる脂肪抑制法を利用して,腱,靱帯付着部の骨髄浮腫を確認する。特に両側仙腸関節のSTIRで骨髄浮腫が確認された場合は軸性脊椎関節炎と診断される11)。 |
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欧米では,強直性脊椎炎の患者においてHLA-B27との関連が深いとされている。線維筋痛症では関連のみられるHLAはない。しかし,本邦では東日本において一般人口でもHLA-B27の比率は低く,脊椎関節炎でも陽性率はきわめて低い12)。強直性脊椎炎の女性症例で約半数が線維筋痛症の基準を満たしていたという報告もある13)。 |
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2010年に線維筋痛症の新診断基準が発表された。19箇所の疼痛領域の評価,重症度の評価,そして除外診断から診断するというもので,現在,日本人に対する応用に関して西岡らの検証が進んでいる14)。線維筋痛症のクラスター分類による付着部炎型と脊椎関節炎の異同については,今後より研究が進むことが予想される。 |