(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
3章 診断基準

4.米国リウマチ学会診断予備基準(2010)の提案
エビデンスIIa 推奨度B
arrow 上記問題点を背景に2010年に米国リウマチ学会が20年ぶりに線維筋痛症の臨床基準として診断予備基準(2010)を提案した。ここに至った理由を考えてみると,1990年基準は身体の広汎な慢性疼痛と圧痛点の2項目からなり,線維筋痛症が機能性身体症候群のひとつであり,機能性リウマチ性疾患であるとの病態を反映していないこと,実地臨床では実施率が低く,かつ一定の経験と技術を要する圧痛点の評価が重要な項目となっていること,線維筋痛症は本来症候群的な病態であるにもかかわらず,前記2項目で規定するといった画一的疾患と扱っていること,さらに時間経過がまったく考慮されず,圧痛点が満たさない場合の取り扱いが不明であることである。さらに,2010年基準の重要なことは分類基準(1990)でなく,診断基準であることであり,疼痛以外の線維筋痛症に特徴的臨床徴候を積極的に取り入れており,プライマリケア医をも対象として作成され,疾患重症度(symptom severity:SS:徴候重症度)を提唱し,経時的に使用できる点である。
arrow 線維筋痛症診断予備基準(2010)は以下の3項目からなる。すなわち,①定義化された慢性疼痛の広がり(widespread pain index:WPI:疼痛拡大指数)が一定以上あり,かつ臨床徴候重症度(symptom severity:SS)スコアが一定以上あること,②臨床徴候が診断時と同じレベルで3カ月間は持続すること,③慢性疼痛を説明できる他の疾患がないこと,この3項目を満たす場合に線維筋痛症と診断できるとするものである。
arrow 疼痛の部位は,左右肩甲帯部,左右上腕,左右前腕,左右臀部,左右大腿部,左右下腿部,左右顎関節部,背部,腰部,頸部,胸部,腹部の有無。
arrow 臨床症候重症度の評価は疲労・倦怠感,熟眠感の欠如,認知障害の有無であり,各項目について程度により0〜3のスコア化を行って,0〜9で点数化される。
arrow また,身体徴候には筋肉痛,過敏性腸症候群,疲労・倦怠感,問題解決や記銘力障害,筋力低下,頭痛,胃痙攣様腹痛,しびれ・耳鳴,めまい,不眠,抑うつ気分,便秘,上腹部痛,嘔気,嘔吐,神経質,胸痛,視力障害,眩しさ,下痢,発熱,口腔乾燥,眼乾燥,瘙痒,喘鳴,レイノー現象,皮疹・蕁麻疹,胸焼け,口内炎,味覚障害,失神,痙攣,呼吸苦,食欲低下,光線過敏(日光過敏),難聴,紫斑(出血傾向),脱毛,頻尿,排尿痛,膀胱痙攣があり,これらの臨床徴候の保有数によりスコア化(0〜3)する。
arrow 以上の臨床徴候の評価でWPI(疼痛拡大指標)が7以上かつSS(臨床徴候重症度)が 5以上の場合,あるいはWPIが3〜6でかつSSが9以上の場合に②,③を満たせば 線維筋痛症と診断されるものである2)図2)。

図2
図2 米国リウマチ学会の線維筋痛症診断予備基準(2010)
(西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変)

arrow 一方では,診断予備基準(2010)は分類基準(1990)にとって代わるものでないこと,この基準の有用性の検証に,対照疾患には非炎症性リウマチ性疾患を用いており,炎症性リウマチ性疾患,心療内科的疾患,精神疾患,あるいは線維筋痛症以外の機能性身体症候群などが用いられていないこと,男性症例や小児科対象年齢の症例が含まれていないこと,また基礎疾患に併発した線維筋痛症の扱いが不明であること,数量化される臨床徴候重症度の有用性の検証がなされずに,スコア0〜12で重症度を規定すること, 臨床徴候重症度と従来のfibromyalgia impact questionnaire:FIQなどの指標との比較がなされていないこと,さらに臨床徴候の評価であり,自記式問診票として用いられた場合の問題点が不明であるなどである。
arrow 2010年基準の問題点と臨床徴候の出現範囲(score 0〜3)の定義のあいまいさを解決するために,疼痛拡大度(widespread pain index:WPI)はそのままで,臨床徴候重症度(symptom severity score:SS)を一部変更して,疫学調査および臨床研究に用いる改訂診断基準4)を提案した。すなわち,WPI+SS=31になることから,WPI,SSの合計値(FM symptom scale:FS)を13にカットオフ値を設定することによって,FS≧13を線維筋痛症と診断するとした。この改訂基準は診断感度96.6%,診断特異度91.8%,精確度93.0%と高い有用性を示している。この診断基準作成時の対象疾患は関節リウマチ,変形性関節症,全身性エリテマトーデスである。この診断基準の本邦人での妥当性を検討し,幅広い分野で本邦症例における有用性を診断した結果はFS≧10以上で感度・特異度ともに90%以上の成績であった5)。この基準の日本人を対象とした有用性の予備的検討では,少数例であるが,一施設での報告があり,有用性を示している(第1章 表15)

 

 
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