(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
1章 今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か

3.病態に基づく病型分類
arrow 本症の診断にあたって「痛み」のとらえ方は最も重要である。まず,線維筋痛症の診断として代表的なものは,米国リウマチ学会(ACR)が1990年に作成した身体躯幹部位を中心とする18箇所の圧痛点が広く用いられている(図8)。筆者の自験例では典型的な線維筋痛症では大腿四頭筋の外側筋膜や膝関節の内側副靱帯付着部にも激しい疼痛があり,圧痛点として認められることが多い。

図8
図8 線維筋痛症の診断のための圧痛点(米国リウマチ学会1990)

arrow 本年,ACRから新たな線維筋痛症の診断予備基準が発表された(図9)。この新しい診断基準では従来の圧痛点は除外され,過去3カ月の広範囲疼痛指数(wide-spread pain index:WPI)の合計ポイントと重症度のレベルと一般的な身体症候のポイントを合計した症候重症度(symptoms severity:SS)のポイントが核となる。さらに,2010年の米国リウマチ学会において,WPIとSSポイントの合計13ポイントをカットオフポイントとしている(図10,11,1210)

図9
図9 米国リウマチ学会の線維筋痛症診断予備基準(2010)
(西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変)

図10
図10 線維筋痛症患者FSS≧10(日本),FSS≧13(米国) n =48のWPIとSSの比率
西岡久寿樹:2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より12)
(第3回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)


図11
図11 ACR2010予備診断基準による患者分布(米国)13)
ACR2010 Meeting Abstract,2010,アトランタ

図12
図12 ACR2010予備診断基準による患者分布(日本)(n=117)12)
2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より

arrow このWPI,SSはともに判定は患者からの自己申告に起因するところが多く,また,SSの一般的な身体症候についての判定に具体的なポイント範囲が設定されていないため診断への寄与率は低い。しかしながら,これまで随伴症状とされていた項目のほとんどが網羅されているので,診断の感度が亢進すると思われるが,本診断基準はWPIとSSポイントを加算すると疾患活動性の定量的な評価ができ,リウマチ科,内科,精神科をはじめとする各分野から本診断基準の妥当性について今後検証していく必要性があると思われる。実際にカットオフ値を9〜13として各々,本邦人94名の線維筋痛症患者を対象にその感度・特異度を関節リウマチ,変形性関節症を対象に調査したところ,カットオフ値10で感度91%,特異度91%とほぼ満足すべき結果が得られた(表1,2)。このことにより,日本人でのカットオフ値は10が妥当と考えられるが,ACRの診断基準作成グループと検証を重ねている11,12)

表1 日本人線維筋痛症患者を対象としたACR2010の予備診断基準の評価11)
表1
1) 2010ACR線維筋痛症予備診断基準:wide-spread pain index(WPI)およびSymptom severity scale
(SS)を用いて評価を行った成績
(Usui C,Hatta K,Aratani S, et al:Japanese version of the 2010 American College of
Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia symptom scale. Modern Rheum,in press)


表2 ACR2010予備診断基準のポイント11)
表2

arrow このように線維筋痛症の疼痛は出現部位やその程度が患者によって異なり,きわめて多様性に富み,全人的に患者をケアしていくことが大切であることをこの新しい診断基準は示唆しており,今後さらに新しい方向で検討したい。


 

 
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