(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
はじめに
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2010年,本邦で初めての線維筋痛症診療ガイドラインとして『線維筋痛症診療ガイドライン2009』を発刊し,多くの分野から本症の診療に際して一定の方向性が示されたと好評を頂いた。 |
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反面,本書では,日本人を対象とした診断および治療上のエビデンスがきわめて少ないため,多数の患者を本邦で治療している執筆者の経験例に基づく部分がかなりあり,さらに,本邦においては線維筋痛症の診療に関する明確な保険診療が整備されていないため,各医療機関は本症に伴う多彩な副症状に対しての診断や治療に対して保険での診療報酬が認められているものを主として収載した。本ガイドラインの作成委員会の検討会では,エビデンス,推奨度を欧米の治療をもとに明確に記載するべきとの声も出たが,基本的には主として本症に伴う副症状の改善により,全般的に改善することをもって推奨度を決めざるをえない現状に基づいた。厚生労働省の見解も加味して本症の副症状などを分類化し,保険診療が可能になる日本人でのエビデンスがそろうまでの暫定的な治療方針として記述していることをご考慮頂きたい。 |
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また,エビデンスレベルについては,執筆者が診断や治療の問題点についてコンセンサスカンファランスを開催し,その合意のもとに確認作業を行った。また全員の一致が得られなかったものについては,委員会の決議に基づき,松本委員長の判断に一任した。 |
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一方, 今回の改訂版は米国リウマチ学会で20年ぶりに提唱された予備診断基準(ACR2010),現在治験中の薬剤などについては米国のデータをもとにエビデンス,推奨度レベルについてもこれらを暫定的に判定し解説をしている。もちろん,エビデンスおよび推奨度については,執筆者の間でも見解の相違があり,これらについて本書ではコンセンサスカンファランスの決定に基づいた。 |
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このように本書は日本の線維筋痛症に関わる各診療科のエキスパートの総力を挙げたものであり,さらに厚生労働省健康局の指導を仰ぎ作成した画期的なものである。線維筋痛症は最近注目を集めている疾患のひとつでありその病因・病態の解明はじめにや治療方法の確立は現在多くの症例をもとにいわば模索的に進んでいる状況である。本邦では2003年に筆者が班長を務めていた厚生労働省リウマチ研究班の分科会として立ち上がり,2008年よりようやく線維筋痛症の班として発足し,基礎および臨床面で診断,治療,患者ケアなどに対する一定の方向性が見出されてきたことは大きな収穫である。また,2009年に発足した日本線維筋痛症学会で整備を進めている診療ネットワークの登録施設も増加をしており,ようやく本格的な治療や病因への研究が始まると考える。 |
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このような臨床研究によりその病態に基づく治療方法が徐々に確立しているものの,その一方で依然として疾患に対する医療者の認識の低さに加えて,病像の複雑さから診断や症状の把握,さらに治療に著しい困難をまねいている症例が増加しているのも事実である。このような症例にそれぞれ層別化したエビデンスの確立が重要となるが,そのためにはかなりの時間がかかるため,現在のところ本稿では,多数例を観察している医師の臨床経験に依存した部分もある。 |
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また診療体制についても,各診療科に患者の訴えの臨床像があるためリウマチ科,整形外科,精神科,心療内科,ペインクリニックなど多岐にわたり,多くのクリニックや病院を転々とする患者が多く,保険診療への対応やQOL低下の著しい患者への医療費の支援など行政面からの早急な対応も急がれている。 |
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この現状に基づき,とりあえず目の前に線維筋痛症を疑う患者が現れたときの診療の指針としてその病態を把握し,試行錯誤的な段階であるが可能な限り患者さんの側にそった全人的な治療を進めていく上でお役に立てれば幸いである。 |
平成23年7月
東京医科大学医学総合研究所 所長・日本線維筋痛症学会 理事長
西岡久寿樹
西岡久寿樹