(旧版)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011
第3章 治療
■ Clinical Question 13
腰部脊柱管狭窄症における保存治療と除圧術の意義は何か
推奨
【Grade C】
軽度から中等度の腰部脊柱管狭窄症患者において,保存治療は最大70%の患者に有効である.
【Grade A】
初期治療は保存治療が原則であるが,保存治療が無効である場合には,手術治療を推奨できる.
【Grade C】
重度の腰部脊柱管狭窄症患者において,除圧術単独は80%の患者に,保存治療単独は33%の患者に有効である.
【Grade A】
不安定性のない腰部脊柱管狭窄症に対する手術治療(除圧術)の2年成績は,保存治療よりも優れている.
【Grade C】
腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術の長期成績(8〜10年)は,薬物治療・その他の保存治療と比較して有効である.
【Grade B】
術後のQOL評価では,腰部脊柱管狭窄症に対する手術治療は,人工膝関節・人工股関節手術の成績に比較して遜色がない.
解説
Amundsenら1)およびAtlasら3, 4, 5)は,症例対照比較試験の結果から各重症度(下肢痛の強さに基づいた重症度と定義しているが厳密な区分ではない)に対する保存治療の有効率を調査し,軽度から中等度の腰部脊柱管狭窄症患者において,保存治療は最大70%の患者に有効であることを示した.症例対照比較試験であるが妥当性のある評価項目を使用していないためEV level IVとした.一方,重度の腰部脊柱管狭窄症に対しては,除圧術のほうが保存治療よりも有効である可能性が高い1, 3, 4, 5)(EV level IV).しかし経年的に術後成績が悪化しているのも事実である.再手術を要した症例が存在し,そのような症例が除圧術の成績を悪化させていること,中等度の腰部脊柱管狭窄症患者では保存治療の経過中に手術へ移行することがあることから,除圧術が保存治療より長期的にも優れているかどうかを十分には証明できない1, 3, 4, 5)(EV level IV).中等度の腰部脊柱管狭窄症に対しては,まずは保存治療を行い,改善がない場合には手術治療が選択肢となる.なお,採用された文献では保存治療の内容についての記載が不十分であった.
妥当性が実証された評価法を用いた3つの論文から,保存治療の効果が少なく手術適応と判断される患者においては,手術治療のほうが2年成績で優れている,という結論を導くことができる2, 6, 9)(EV level I〜II).
Athivirahamらは,手術を勧めたが拒否した21例,除圧術群54例,すべりがあり除圧固定術(内固定を使用しない後側方固定)を受けた42例の2年成績を非無作為化対照試験で比較した2).3ヵ月以上の保存治療で改善のない患者で,経験の深い医師の判断により手術適応とされたものが対象となっていたが保存治療の内容はさまざまである.追跡率90%でRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ) のスコアが保存治療群よりも除圧術群,除圧固定術群が優っていた.手術治療群でも症状が完全にとれるとは限らないが,この結果からは,保存治療で効果の少ない症例においては手術治療がより有効といえる(EV level II).しかし長期成績でも差が維持されるかどうかは不明である.
Weinsteinらは脊椎不安定性のない(4mm以上のすべり,10°以上の椎間可動性がいずれもみられない)腰部脊柱管狭窄症患者の2年間の追跡調査結果を報告した9).担当医が手術適応ありと判断した症例が対象である.手術治療か保存治療かに割り付けた無作為コホート298例と患者の意志を優先した観察的コホート365例をOswestry Disability Index(ODI),Short-Form 36(SF36)により調査した.クロスオーバーが多かったことが本研究の欠点ではあるが,2年成績では手術治療が優っていることを実証した研究といえる(EV level II).
Malmivaaraらは,無作為化対照試験により手術群に割り付けられた50例(術式は椎弓切除術.すべりのある10例で内固定使用の固定術併用.なお50例のうち5例は手術を受けなかったために対象から除外された)と保存治療群44例(4例は途中で手術に移行)の2年までの成績をOswestry Disability Index (ODI),numerical rating scale (NRS),歩行距離で比較した6).保存治療の内容は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),患者教育用パンフレット,理学療法であるが詳細は不明である.両群とも改善はあったが,1年でODI,下肢痛,背部痛のNRSとも手術群がよかったが2年では差が少なくなった.歩行距離には差がなかった.中等度の腰部脊柱管狭窄症に対し2年までの成績では手術が優れていた(EV level I).
開窓術,顕微鏡下や内視鏡下除圧術など古典的椎弓切除術以外の術式の意義については,今後の課題である8).
関節全置換手術と比較した腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術の意義について,6ヵ月以上の保存治療を受けて手術適応と判断された99例中90例の2年成績(後方除圧と後方除圧固定両者を含む)は,Short-Form 36(SF36)によるQOL評価でみると年齢などをマッチさせた人工膝関節全置換術,人工股関節全置換術群の成績に比して遜色のない結果であった.人工関節全置換術の意義は広く認知されているが腰部脊柱管狭窄症に対する手術においても,同等の恩恵を受けることができる7)(EV level III).
妥当性が実証された評価法を用いた3つの論文から,保存治療の効果が少なく手術適応と判断される患者においては,手術治療のほうが2年成績で優れている,という結論を導くことができる2, 6, 9)(EV level I〜II).
Athivirahamらは,手術を勧めたが拒否した21例,除圧術群54例,すべりがあり除圧固定術(内固定を使用しない後側方固定)を受けた42例の2年成績を非無作為化対照試験で比較した2).3ヵ月以上の保存治療で改善のない患者で,経験の深い医師の判断により手術適応とされたものが対象となっていたが保存治療の内容はさまざまである.追跡率90%でRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ) のスコアが保存治療群よりも除圧術群,除圧固定術群が優っていた.手術治療群でも症状が完全にとれるとは限らないが,この結果からは,保存治療で効果の少ない症例においては手術治療がより有効といえる(EV level II).しかし長期成績でも差が維持されるかどうかは不明である.
Weinsteinらは脊椎不安定性のない(4mm以上のすべり,10°以上の椎間可動性がいずれもみられない)腰部脊柱管狭窄症患者の2年間の追跡調査結果を報告した9).担当医が手術適応ありと判断した症例が対象である.手術治療か保存治療かに割り付けた無作為コホート298例と患者の意志を優先した観察的コホート365例をOswestry Disability Index(ODI),Short-Form 36(SF36)により調査した.クロスオーバーが多かったことが本研究の欠点ではあるが,2年成績では手術治療が優っていることを実証した研究といえる(EV level II).
Malmivaaraらは,無作為化対照試験により手術群に割り付けられた50例(術式は椎弓切除術.すべりのある10例で内固定使用の固定術併用.なお50例のうち5例は手術を受けなかったために対象から除外された)と保存治療群44例(4例は途中で手術に移行)の2年までの成績をOswestry Disability Index (ODI),numerical rating scale (NRS),歩行距離で比較した6).保存治療の内容は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),患者教育用パンフレット,理学療法であるが詳細は不明である.両群とも改善はあったが,1年でODI,下肢痛,背部痛のNRSとも手術群がよかったが2年では差が少なくなった.歩行距離には差がなかった.中等度の腰部脊柱管狭窄症に対し2年までの成績では手術が優れていた(EV level I).
開窓術,顕微鏡下や内視鏡下除圧術など古典的椎弓切除術以外の術式の意義については,今後の課題である8).
関節全置換手術と比較した腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術の意義について,6ヵ月以上の保存治療を受けて手術適応と判断された99例中90例の2年成績(後方除圧と後方除圧固定両者を含む)は,Short-Form 36(SF36)によるQOL評価でみると年齢などをマッチさせた人工膝関節全置換術,人工股関節全置換術群の成績に比して遜色のない結果であった.人工関節全置換術の意義は広く認知されているが腰部脊柱管狭窄症に対する手術においても,同等の恩恵を受けることができる7)(EV level III).
文献