(旧版)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011

 
 
第1章 疫学・自然経過

■ Clinical Question 2
腰部脊柱管狭窄症の自然経過はどのようなものか

要約

【Grade B】
腰部脊柱管狭窄症の軽度または中等度の患者のうち,1/3ないし1/2では自然経過でも良好な予後が期待できる.

【Grade C】
保存治療施行後,最低5年間の経過観察の結果,1/2の患者で症状の改善がみられた.神経根症状主体の患者や初期治療にてよく改善した患者の予後は良好であった.

【Grade I】
重度の腰部脊柱管狭窄症では手術に移行することが多く,自然経過は明らかではない.

【Grade B】
腰部脊柱管狭窄症の軽度または中等度の患者では,神経機能が急激に悪化することはまれである.


解説

一般に腰部脊柱管狭窄症の重症度は,下肢痛の強さに基づいて定義されていることが多いが,厳密な区分ではない.
Amundsenら1)は,腰部脊柱管狭窄症の手術治療に関する前向き研究で,対照群に無作為化した18例の転帰について報告した.いずれも中等度で,手術適応ありと判断されたが,薬物治療・その他保存治療が行われた.これら18例中10例(56%)では6ヵ月の時点で症状が増悪しており,9例は,10年の時点で手術治療群に移行していた.残る9例のうち1例は死亡しており,8例中6例(75%)は中等度ないし重度の疼痛,また8例中2例(25%)はごく軽度ないし軽度の疼痛を有していた.その他,無作為化の対象とならなかった軽度の患者50例に対しても10年間の経過観察が前向き形式で実施されている.これらの50例のうち,10年の時点では27例中15例(56%)が中等度ないし重度の疼痛,また27例中12例(44%)がごく軽度ないし軽度の疼痛をそれぞれ有していた.両群間ともに患者の移行(クロスオーバー)が大幅に行われていた(EV level II).
Johnssonら3)は,手術成績に関する後ろ向き比較研究の一部として,腰部脊柱管狭窄症の無処置患者19例を対象とした平均31ヵ月の経過観察後の転帰を報告した.いずれの患者にも治療は施されていなかった.16例は神経性跛行,2例は神経根症状,1例は神経性跛行と神経根症状を併発していた.経過観察終了時における歩行可能距離の改善度はごくわずかであった.疼痛レベルについては,4例(21%)は軽度,14例(74%)は中等度,1例は重度と評価した.神経性跛行の16例中6例(38%)は,経過観察終了時に臨床症状が改善していた.神経根症状のみを示す2例では臨床症状の改善は得られていたが,神経性跛行と神経根症状を併発した1例では臨床症状の改善が認められなかった.最終的に,無処置患者のうち30%の患者の症状は改善し,60%の患者の症状は不変であった(EV level IV).
Miyamotoら4)は,10分以内の間欠跛行を示し,2〜3週の入院のうえでの保存治療(ベッド上での骨盤牽引,体幹ギプスの装着,硬膜外ステロイド注射,神経根ブロックの順で効果がみられるまで行う)が効果を示した170例中120例(男性70例,女性50例)を最低5年間経過観察した.経過観察中は患者の求めに応じて,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を頓用にて投与した.その結果,19例は手術を受けた.最終経過観察時,自覚症状では52例(43.3%)が改善,20例(16.7%)が不変,48例(40.0%)が悪化していた.ADLはJOAスコアをもとに評価した.優はまったく症状のないもの,良は症状を有するが,ADL障害のないもの,可はある程度障害のあるもの,そして不可は重度の障害があるものと定義した.その結果,26例(21.7%)が優,37例(30.8%)が良,35例(29.2%)が可,22例(18.3%)が不可であった.神経根型の患者および初期治療にてよく改善した患者では,その他の患者より良好な成績であった.しかし,変性側弯がある患者では成績が不良であった(EV level IV).
すべての腰部脊柱管狭窄症患者が経時的に症状・所見の増悪を示すとはいえないことは,患者へのインフォームドコンセント,手術適応の決定のうえからも重要である.ただし,レビューの対象となった研究では手術適応とされる重度の患者が除外されており,こうした研究報告から導き出された腰部脊柱管狭窄症の自然経過は軽度または中等度の患者のみにしか当てはまらず,重度の患者の自然経過に関する結論を導き出すことはできない.
腰部脊柱管狭窄症に関する文献レビューでは,軽度または中等度の患者で神経機能が急激または突発的に悪化したとの報告は見出されなかった.エビデンスから判断する限り,その発生率はきわめて低いものと考えられる2)EV level II).日常診療において,腰部脊柱管狭窄症を疑う患者が,急激または突発的に神経機能の低下を示した際には,腰椎椎間板ヘルニアの合併,転移性脊椎腫瘍,脊髄腫瘍などの疾患の鑑別を念頭におく必要がある.


文献

1) Amundsen T, Weber H, Nordal HJ et al:Lumbar spinal stenosis:conservative or surgical management? A prospective 10-year study. Spine 2000;25(11):1424-1435:discussion 1435-1436
2) Haig AJ, Tong HC, Yamakawa KS et al:Predictors of pain and function in persons with spinal stenosis, low back pain, and no back pain. Spine 2006;31(25):2950-2957
3) Johnsson KE, Udén A, Rosén I:The effect of decompression on the natural course of spinal stenosis. A comparison of surgically treated and untreated patients. Spine 1991;16(6):615-619
4) Miyamoto H, Sumi M, Uno K et al:Clinical outcome of nonoperative treatment for lumbar spinal stenosis, and predictive factors relating to prognosis, in a 5-year minimum follow-up. J Spinal Disord Tech 2008;21(8):563-568



 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す