(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


5.歯周外科治療
角1 角2
  CQ14:糖尿病患者において歯周外科治療後に歯周パック(包帯)を用いることは有効か?  
角3 角4

  • 推奨:非糖尿病の歯周病患者では,歯周外科治療後に歯周パックを用いることは,術後の治癒促進の観点から有効性は認められない(レベル3)。しかしながら,糖尿病患者では,同患者が有する易感染性や創傷治癒不全傾向を考慮して,健常者と比べて歯周外科治療後の感染予防に歯周パックが有効である可能性があるかもしれないが,使用を推奨するだけの明確な根拠がない。(推奨度 グレードC1)
    ただし,糖尿病の有無に関わらず,術後の出血防止や機械的刺激による疼痛緩和が必要な場合は歯周パックを用いることを考慮する。


背景・目的
歯周外科治療における歯周パックは,1)後出血の防止,2)疼痛の緩和,3)感染の防止,を主目的として使用され,組織を保護することにより治癒を促進すると考えられてきた。しかしながら,歯周外科治療後における歯周パックの上記目的に対する有効性について健常者を対象として検討した研究では,歯周外科治療の内容に関わらず,その有用性は認められないとする報告が多い1),2),3),4)
一方,近年,細菌感染症である歯周炎と細菌に対して易感染性を示す糖尿病との関連が注目されており5),6),7),8),9),糖尿病患者では,健常者と比較してプラーク量は同じでも歯肉炎や歯周炎の徴候が増加し,血糖値のコントロールが不良なケースでその傾向が著明であることが示されている。
以上より,健常者では歯周外科治療後の歯周パック使用の有用性に疑問が生じているが,糖尿病患者では歯周外科治療後の感染防御は健常者以上に注意を払う必要があると考えられることから,糖尿病患者における歯周パック使用に関する指針が必要である。

解説
今回の文献検索では,糖尿病患者において歯周外科治療後における歯周パックの有用性について検討した研究は1件も抽出されなかった。しかしながら,糖尿病患者は細菌に対して易感染性を示し,創傷治癒不全も認められることから,健常者と比べて歯周外科治療後の感染予防に歯周パックが有効である可能性があるかもしれない。

文献検索ストラテジー
電子データベースとして,Medlineを検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes Mellitus”[All Fields] AND “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] OR “Periodontal Diseases”[All Fields] AND “Surgery”[MeSH Terms] OR “Surgery”[All Fields] OR “Operative”[All Fields] OR “Bandages”[MeSH Terms] OR “Bandages”[All Fields] OR “Dressings”[All Fields] OR “Pack”[All Fields] OR “Wound Healing”[MeSH Terms] OR “Wound Healing”[All Fields] OR “Healing”[All Fields]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。主要な情報として,歯周外科治療後に歯周パックを併用した場合に関する研究を収集対象とした。


seq. terms and strategy hits
#1 “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] OR “Periodontal Diseases”[All Fields] 53,030
#2 “Surgery”[MeSH Terms] OR “Surgery”[All Fields] OR “Operative”[All Fields] 1,790,862
#3 “Bandages”[MeSH Terms] OR “Bandages”[All Fields] OR “Dressings”[All Fields] OR “Pack”[All Fields] 23,960
#4 “Wound Healing”[MeSH Terms] OR “Wound Healing”[All Fields] OR “Healing”[All Fields] 104,272
#5 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes Mellitus”[All Fields] 249,625
#6 #1 AND #2 10,956
#7 #1 AND #2 AND #3 137
#8 #1 AND #2 AND #4 1,848
#9 #1 AND #2 AND #5 82
#10 #1 AND #2 AND #3 AND #4 48
#11 #1 AND #2 AND #3 AND #5 0
最終検索日2008年8月25日

参考文献
1) Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ. Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical procedures. J Periodontol. 2005;76(3):329-33.
2) Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Complications. 2006;20(1):59-68.
3) Ringelberg ML, Dixon DO, Francis AO, Plummer RW. Comparison of gingival health and gingival crevicular fluid flow in children with and without diabetes. J Dent Res. 1977;56(2):108-11.
4) Takahashi K, Nishimura F, Kurihara M, Iwamoto Y, Takashiba S, Miyata T, Murayama Y. Subgingival microflora and antibody responses against periodontal bacteria of young Japanese patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2001;3(4):104-11.
5) Jones TM, Cassingham RJ. Comparison of healing following periodontal surgery with and without dressings in humans. J Periodontol. 1979;50(8):387-93.
6) Allen DR, Caffesse RG. Comparison of results following modified Widman flap surgery with and without surgical dressing. J Periodontol. 1983;54(8):470-5.
7) Cianciola LJ, Park BH, Bruck E, Mosovich L, Genco RJ. Prevalence of periodontal disease in insulin-dependent diabetes mellitus (juvenile diabetes). J Am Dent Assoc. 1982;104(5):653-60.
8) WILLIAMS RC Jr, MAHAN CJ. Periodontal disease and diabetes in young adults. J Am Med Assoc. 1960;172:776-8.
9) Mealey B. Diabetes and periodontal diseases. J Periodontol. 1999;70(8):935-49.

関係論文の構造化抄録
1)Powell CA, Mealey BL, Deas DE, McDonnell HT, Moritz AJ.
Post-surgical infections: prevalence associated with various periodontal surgical procedures.
J Periodontol. 2005;76(3):329-33.
歯周外科治療後の感染に関連する因子を検索する。
ザイン 非ランダム化比較試験。
アメリカの病院歯科。
395人患者,1,053症例手術。
歯周外科治療(骨切除外科,FOP,DW,歯肉切除,歯根切除,GTR,インプラント,FGG,CTG,歯冠側移動術,上顎洞挙上術,歯槽提増大術)。
主要評価項目 Bone graft,membrane,soft tissue graft,術後のクロルヘキシジンの使用,抗菌薬の全身投与,歯周包帯の有無で術後の感染の比較。*感染の定義:化膿を伴った腫脹の増加
全体の感染は22/1,053caseで2.09%。抗菌薬(術前後)投与群:8/281=2.85%,非投与群:14/772=1.81%。
術後にクロルヘキシジン洗口剤使用群(17/900,1.89%)では,非使用群に比較し,有意に感染が低かった(5/153,3.27%)。歯周包帯群では非包帯群に比較し,感染率は少々高かった(2.67% vs.1.86%)。
今回の結果より,歯周外科治療後の感染自体が少ないという過去の報告を確証するものとなった。歯周術後の抗菌薬投与は術後感染予防にはあまり効果はなさそうである。
(レベル3)

5)Jones TM, Cassingham RJ.
Comparison of healing following periodontal surgery with and without dressings in humans.
J Periodontol. 1979;50(8):387-93.
歯周外科治療後の歯周包帯の適応の有無による臨床的および組織学的な結果を比較する。また患者の術後の快・不快を評価する。
ザイン 非ランダム化比較試験。
アメリカ。
7人の患者,20部位。
口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング,咬合調整などの歯周基本治療後に手術施行。
主要評価項目 炎症状態(GI,PPD,快適度)。
歯周外科治療後に歯周パックを適応してもしなくても,根尖側移動術においては有意差はないことが示唆された。また術後に歯周パックを適応した場合にはより術後の疼痛・不快感を感じることが示唆された。
おそらく根尖側移動術による歯周外科治療後に歯周パックを用いる必要はない。しかし,術後に機械的清掃ができなくなる期間および外傷のことなどを考慮して歯周パックを用いても良いのかもしれない。
(レベル3)

6)Allen DR, Caffesse RG.
Comparison of results following modified Widman flap surgery with and without surgical dressing.
J Periodontol. 1983;54(8):470-5.
modified Widman flap(MWF)による歯周外科治療後,歯周包帯の臨床的効果を調べる。
ザイン 非ランダム化比較試験。
アメリカのミシガン大学。
13人の患者,30部位。
歯肉溝滲出液および歯肉の炎症状態を外科処置前,外科処置後2週間,1,2ヶ月で診査。
アタッチメントレベルを外科処置前,外科処置後1,2ヶ月で測定,快適度を質問。
歯周包帯の有無によるアタッチメントレベル,プロービングポケットデプス,歯肉の炎症状態における有意差は認められなかった。質問表の結果では,1/3の患者は歯周パックがない方が不快感が少ないと回答した。残りの1/3はどちらも同程度と回答。歯周パックの有無を希望するかという質問に対しては,60%の患者がしない方を希望した。歯周包帯の省略は著しい不快事項にはならなかった。
おそらくMWFによる歯周外科治療後に歯周パックを用いる必要性はないと考えられる。しかし一方で臨床的に差がなかったということを考えると,術後に機械的清掃が不可能な時期および外傷のことなどを考慮して歯周パックを用いることは良いのかもしれない。
(レベル3)


 
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