(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


4.サポーティブペリオドンタルセラピー
角1 角2
  CQ9:糖尿病患者においてメインテナンス期における局所化学療法は有効か?  
角3 角4

  • 推奨:糖尿病患者の歯周病メインテナンス期における局所化学療法の有効性は不明である。有効としても効果は小さい可能性がある(レベル2-)。患者の状態を考慮し,慎重な判断のもとに行うよう勧められる。(推奨度 グレードC2)


背景・目的
糖尿病は歯周疾患のリスクファクターであることから,一度治療を行った後にも歯周病を再発しやすい可能性がある。とくに深い歯周ポケットを残してSPTを行っていく場合には,再発防止にむけて一層の注意が必要かも知れない。
局所化学療法(局所薬物配送システム)は,歯周病原細菌を抑制する目的で,抗菌作用のある薬物を歯周ポケット内に投与する治療法である。徐放性の薬剤を用いれば,少ない投与量で局所の薬効濃度が長時間維持でき,耐性菌の出現,副作用,腸内細菌への影響が少ないという利点をもつ。そこで,糖尿病をもつ歯周病患者のメインテナンス期に局所化学療法が有効かどうかについて検索した。

解説
今回の文献検索では,糖尿病患者のメインテナンス期における局所化学療法の有効性についての直接的な報告は発見できなかった。
糖尿病患者の歯周治療時に,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)に併せて行う局所化学療法の効果については,ランダム化比較試験が2件抽出された。一つはスロベニアの大学病院において血糖コントロールの不良な1型糖尿病患者を対象とした研究1)で,SRPのみを行うより,SRPにミノサイクリンゲルを併用することでプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの減少に有意な差(約1mm)がみられた(レベル2-)。二つめはブラジルの大学病院において1型糖尿病患者を対象とした研究2)で,再評価後の再SRP時にドキシサイクリンゲルを併用することでプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの減少に有意な差(約1.8mm)が報告されている(レベル2-)。
一方,糖尿病に罹患していない歯周病患者における局所化学療法の効果については多くのランダム化比較試験が行われ,メタアナリシス3),4),5),6),7)が発表されている。これらによると,SRP時に局所化学療法を併用することでよりよい結果が得られるとされている(レベル2+)。しかし,統計学的に有意な効果はあるがプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの平均値で0.5mm程度と小さく,臨床的な意義に疑問を投げかけている報告もある(レベル2+)。さらに,SPT時における局所化学療法の効果を調査した5件のランダム化比較試験(2007~2008年)8),9),10),11),12)をみると,そのうち4件で効果がなかったと報告されている(レベル2-)。また,SPT時における局所化学療法単独の効果を調べた3件のランダム化比較試験(2003~2007年)13),14),15)では,SRPと同程度の効果があるとする報告と効果はないとする報告があった(レベル2-)。
以上のように,局所化学療法の効果についてはまだ不明確な部分が多い。ただ,局所化学療法による大きな問題点が報告されているわけではない。糖尿病患者では全身的な免疫機能が低下している場合があることを考慮すると,局所化学療法が奏効する可能性はある。患者の全身状態や口腔内の状態を考慮し,局所化学療法を行うかどうか慎重に決定する必要があると考えられる。

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medlineおよび医中誌を検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Periodontal Disease”[MeSH Terms] AND “Anti-infective Agents, Local”[MeSH Terms] OR “Anti-infective Agents”[MeSH Terms] AND “Drug Delivery Systems”[MeSH Terms] AND “Maintenance*”[Text terms] OR “Support*”[Text terms] AND “Diabetes”[MeSH Terms]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。医中誌については,糖尿病/TH OR 糖尿病/AL AND 歯周疾患/TH OR 歯周病/AL AND 局所薬物療法/AL OR ドラッグデリバリーシステム/TH OR ドラッグデリバリーシステム/ALの検索式で検索を行った。
主要な情報として,糖尿病患者の歯周治療時に行った局所化学療法の効果についてのメタアナリシスとランダム化比較試験研究を検索し,次いで,関連する比較研究および日本人を対象とした症例集積までを情報の収集対象とした。


seq. terms and strategy hits
#1 “Periodontal Disease”[MeSH] 52,431
#2 “Anti-infective Agenets, Local”[MeSH] OR “Drug Delivery Systems”[MeSH] AND “Anti-infective Agenets”[MeSH] 12,515
#3 Maintenance*[Text] OR Support*[Text] 5,152,258
#4 Diabetes[MeSH] 232,769
#5 #1 AND #2 AND #3 AND #4 3
#6 #1 AND #2 AND #3 274
#7 #1 AND #2 AND #3 Limits: Humans, Meta-Analysis 6
#8 #1 AND #2 AND #4 7
最終検索日2008年8月24日


参考文献
1) Skaleric U, Schara R, Medvescek M, Hanlon A, Doherty F, Lessem J. Periodontal treatment by Arestin and its effects on glycemic control in type 1 diabetes patients. J Int Acad Periodontol. 2004;6(4 Suppl):160-5.
2) Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF. Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and periodontitis. J Clin Periodontol. 2004;31(8):648-53.
3) Cosyn J, Wyn I. A systematic review on the effects of the chlorhexidine chip when used as an adjunct to scaling and root planing in the treatment of chronic periodontitis. J Periodontol. 2006;77(2):257-64.
4) Bonito AJ, Lux L, Lohr KN. Impact of local adjuncts to scaling and root planing in periodontal disease therapy: a systematic review. J Periodontol. 2005;76(8):1227-36.
5) Pavia M, Nobile CG, Bianco A, Angelillo IF. Meta-analysis of local metronidazole in the treatment of chronic periodontitis. J Periodontol. 2004;75(6):830-8.
6) Pavia M, Nobile CG, Angelillo IF. Meta-analysis of local tetracycline in treating chronic periodontitis. J Periodontol. 2003;74(6):916-32.
7) Hanes PJ, Purvis JP. Local anti-infective therapy: pharmacological agents. A systematic review. Ann Periodontol. 2003;8(1):79-98.
8) Bogren A, Teles RP, Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS, Wennström JL. Locally delivered doxycycline during supportive periodontal therapy: a 3-year study. J Periodontol. 2008;79(5):827-35.
9) Guarnelli ME, Franceschetti G, Manfrini R, Trombelli L. Adjunctive effect of chlorhexidine in ultrasonic instrumentation of aggressive periodontitis patients: a pilot study. J Clin Periodontol. 2008;35(4):333-41. Epub 2008 Feb 20.
10) Kasaj A, Chiriachide A, Willershausen B. The adjunctive use of a controlled-release chlorhexidine chip following treatment with a new ultrasonic device in supportive periodontal therapy: a prospective, controlled clinical study. Int J Dent Hyg. 2007;5(4):225-31.
11) Bizhang M, Chun YH, Heisrath D, Purucker P, Singh P, Kersten T, Zimmer S. Microbiota of exposed root surfaces after fluoride, chlorhexidine, and periodontal maintenance therapy: a 3-year evaluation. J Periodontol. 2007;78(8):1580-9.
12) Leiknes T, Leknes KN, Böe OE, Skavland RJ, Lie T. Topical use of a metronidazole gel in the treatment of sites with symptoms of recurring chronic inflammation. J Periodontol. 2007;78(8):1538-44.
13) Rodrigues IF, Machion L, Casati MZ, Nociti FH Jr, de Toledo S, Sallum AW, Sallum EA. Clinical evaluation of the use of locally delivered chlorhexidine in periodontal maintenance therapy. J Periodontol. 2007;78(4):624-8.
14) McColl E, Patel K, Dahlen G, Tonetti M, Graziani F, Suvan J, Laurell L. Supportive periodontal therapy using mechanical instrumentation or 2% minocycline gel: a 12 month randomized, controlled, single masked pilot study. J Clin Periodontol. 2006;33(2):141-50.
15) Jansson H, Bratthall G, Söderholm G. Clinical outcome observed in subjects with recurrent periodontal disease following local treatment with 25% metronidazole gel. J Periodontol. 2003;74(3):372-7.


関係論文の構造化抄録
1)Skaleric U, Schara R, Medvescek M, Hanlon A, Doherty F, Lessem J.
Periodontal treatment by Arestin and its effects on glycemic control in type 1 diabetes patients.
J Int Acad Periodontol. 2004;6(4 Suppl):160-5.
歯周治療(SRP)時のミノサイクリン局所投与が血糖コントロールと歯周組織の治癒に及ぼす影響を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。
スロベニア共和国のリュブリャナ大学病院。
血糖コントロールの不良な1型糖尿病(HbA1c 9%)20名。
2群(SRPのみ,SRP+ミノサイクリンゲル局所投与)。
主要評価項目 HbA1c,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プラーク指数,歯肉炎指数。
HbA1c,プラーク指数,歯肉炎指数に差は認められなかった。プロービングポケットデプスは投与群でより減少し,より大きなアタッチメントゲインが得られた(約1mm)。
ミノサイクリン局所投与は血糖コントロールには影響しなかったが,歯周組織の改善に効果があった。
(レベル2-)

2)Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF.
Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and periodontitis.
J Clin Periodontol. 2004;31(8):648-53.
糖尿病患者においてドキシサイクリン局所投与の効果を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。(split mouth design,double blind)
ブラジルのキャンピナス大学病院。
1型糖尿病患者で歯周基本治療後に2ヶ所以上5mm以上のポケットがある患者11人。
2群(再SRP+ドキシサイクリンゲル局所投与,再SRP+プラセボゲル局所投与。
主要評価項目 歯肉退縮,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。
ドキシサイクリン投与群でより大きなプロービングポケットデプス,アタッチメントゲインの改善がみられた(約1.8mm)。
1型糖尿病患者の治療においてドキシサイクリン局所投与は歯周組織の改善に効果があった。
(レベル2-)

4)Bonito AJ, Lux L, Lohr KN.
Impact of local adjuncts to scaling and root planing in periodontal disease therapy: a systematic review.
J Periodontol. 2005;76(8):1227-36.
SRPに局所化学療法を併用するとよりよい治療結果が得られるか調べる。
Medline,Embase。
成人の慢性歯周炎,SRPと局所化学療法の併用,一定期間後のアウトカム評価。
データ抽出と質の評価 定性的評価と一定期間後のプロービングポケットデプスとアタッチメントレベルについてのメタ分析。
有効とする結果は,テトラサイクリン,ミノサイクリン,メトロニダゾール,クロルヘキシジンでみられる。局所化学療法の併用はプロービングポケットデプスを減らす。SRP単独と比べたプロービングポケットデプスの改善の程度は0.2~0.5mmである。アタッチメントレベルの改善は小さく,統計的優位になった報告は少ない。局所化学療法によるプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの減少はSRPによる減少より少ない。
局所化学療法の効果は,統計的に有意でも臨床的に意味があるかどうか疑問である。
(レベル2+)

8)Bogren A, Teles RP, Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS, Wennström JL.
Locally delivered doxycycline during supportive periodontal therapy: a 3-year study.
J Periodontol. 2008;79(5):827-35.
メインテナンス期の患者においてドキシサイクリンゲル局所投与の効果を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。
スウェーデンの開業医(歯周病専門医)2ヶ所とアメリカのフォーサイス研究所。
慢性歯周炎メインテナンス期の患者128人。
2群(SRP+ドキシサイクリンゲル局所投与,SRPのみ)。
主要評価項目 プロービング時の出血,プロービングポケットデプス,相対的アタッチメントレベル,細菌検査。
両群でプロービング時の出血,プロービングポケットデプス,相対的アタッチメントレベルの改善がみられたが,両群の差は唯一3ヶ月後にみられただけで,その後は差がなかった。細菌の種類に大きな差はなかった。
メインテナンス期のSRP時に局所化学療法を併用しても効果はない。
(レベル2-)

12)Leiknes T, Leknes KN, Böe OE, Skavland RJ, Lie T.
Topical use of a metronidazole gel in the treatment of sites with symptoms of recurring chronic inflammation.
J Periodontol. 2007;78(8):1538-44.
SPTにおけるメトロニダゾールゲルの効果を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。
ノルウェーの大学病院。
歯周炎メインテナンス期の患者21人(スプリットマウスデザイン)。
2群(SRP+メトロニダゾールゲル局所投与,SRPのみ)。
主要評価項目 プロービングポケットデプス,プロービング時の出血,アタッチメントレベル。
2群間に差はなかった。
メインテナンス期のSRP時に局所化学療法を併用しても効果はない。
(レベル2-)

14)McColl E, Patel K, Dahlen G, Tonetti M, Graziani F, Suvan J, Laurell L.
Supportive periodontal therapy using mechanical instrumentation or 2% minocycline gel: a 12 month randomized, controlled, single masked pilot study.
J Clin Periodontol. 2006;33(2):141-50.
SPTにおけるミノサイクリンゲルの効果を機械的清掃の効果と比べる。
ザイン ランダム化比較試験。
イギリスの大学病院。
歯周炎メインテナンス期の患者40人。
2群(ミノサイクリンゲルのみ,SRPのみ)。
主要評価項目 プロービングポケットデプス,プロービング時の出血,細菌検査。
どちらの治療法も同程度の効果があり,2群間に差はなかった。
メインテナンス期に行うSRPと局所化学療法は,どちらも効果的で差はない。
(レベル2-)


 
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