(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


3.歯周基本治療
角1 角2
 
  • CQ5:糖尿病患者に対して歯周基本治療を行った場合,非糖尿病患者に比較して治療効果に差があるか?
 
角3 角4

  • 推奨:糖尿病罹患が歯周基本治療による歯周ポケットの減少量と付着の獲得量を低下させる可能性は低い(歯周基本治療後1年以内)(レベル3)。ただし1年を超える予後は明らかでなく,糖尿病のコントロールがとくに悪い場合は,歯周ポケット再発のリスクが高くなる可能性がある。


背景・目的
歯周基本治療は,歯周病の病原因子を排除して歯周組織の病的炎症をある程度まで改善し,その後の歯周治療の効果を高める基本的な原因除去治療であるが,その効果の程度は患者の感受性に依存していることが良く知られている。糖尿病は感染防御機構の破綻・創傷治癒不全をきたすことから患者の感受性に影響を及ぼす重要な宿主因子の1つとして挙げられ,歯周炎の有病率・重症度に影響を与える著明なリスクファクターであることが示されている1)。そのため,糖尿病を有する歯周炎患者は糖尿病を有しない歯周炎患者と比較して,歯周基本治療に対する反応性が悪くなり治療を難しくしている可能性がある。そこで,臨床的指標である歯周ポケット(プロービングポケットデプス)の減少量と付着(アタッチメントレベル)の獲得量に注目して,糖尿病が歯周基本治療の効果に与える影響を明らかにする必要がある。

解説
糖尿病が歯周基本治療の効果に影響を与えるかに関して文献検索したところ,ランダム割り付けを行っていないコントロールを伴う短期的(1年以内)なコホート研究を5件抽出した2),3),4),5),6)。そのうちの3件は,歯周基本治療に対するプロービングポケットデプスの減少またはアタッチメントレベルの獲得に関して,糖尿病を有する歯周炎患者と糖尿病を有しない歯周炎患者で比較して統計解析していた。1件目は,年齢などがマッチした糖尿病(分類不明)を有する歯周炎患者群34名と糖尿病を有しない歯周炎患者群45名に対して歯周基本治療(口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング(SRP))を行った場合の3〜4ヶ月後のプロービングポケットデプスの値別割合の変化を両群で比較して統計解析したものだが,両群間に有意差はなかった2)(レベル3)。2件目は,年齢などがマッチした1型糖尿病を有する歯周炎患者群36名と糖尿病を有しない歯周炎患者群10名に対して歯周基本治療を行った場合の1ヶ月,6ヶ月,12ヶ月後のプロービングポケットデプス≧4mmとアタッチメントレベル≧2mmの部位の割合の変化を両群で比較解析したものだが,統計学的有意差はなかった。しかし興味深いことに,糖尿病の重症度別に3群に分けて群間比較した場合,重症度が最も高い群では他の群に比較して12ヶ月後のプロービングポケットデプス≧4mmの割合が有意に高かったことより,コントロールが悪い糖尿病は歯周炎再発のリスクになる可能性が示された3)(レベル3)。3件目は,糖尿病を有する歯周炎患者群20名と糖尿病を有しない歯周炎患者群20名に対して歯周基本治療を行った場合の4ヶ月後のプロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベルの変化を両群で比較して統計解析したものだが,有意差はなかった4)(レベル3)。
以上より,文献的には糖尿病の罹患が歯周基本治療の効果に与える影響は低いものと考えられる。しかし,これらの文献は歯周基本治療後の経過を最大で1年しか追っておらず,長期的には糖尿病が影響する可能性を否定できない。加えて,糖尿病の重症度が文献によってさまざまであることも考察を難しくしている。
参考文献3より,糖尿病のコントロールがとくに悪い場合は,歯周基本治療の効果に影響を与えることが推測される。歯周治療においては,糖尿病罹患の有無だけでなく糖尿病の重症度にも注意する必要がある。

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medlineを検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] AND “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] AND “Dental Scaling”[MeSH Terms] OR “Scaling”[All Fields]で,41件該当した論文の中から関連のあるものを抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。主要な情報として,糖尿病を有する歯周炎患者と糖尿病を有しない歯周炎患者に歯周基本治療を行った場合の歯周ポケットの減少量または付着の獲得量を両群で比較解析している研究を収集対象とした。


seq. terms and strategy hits
#1 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] 225,547
#2 “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] 52,282
#3 “Dental Scaling”[MeSH Terms] OR “Scaling”[All Fields] 19,669
#4 “Initial Therapy”[All Fields] OR “Initial Preparation”[All Fields] 4,445
#5 “Subgingival Curettage”[MeSH Terms] 1,608
#6 #1 AND #2 AND #3 41
#7 #1 AND #2 AND(#3 OR #4) 42
#8 #1 AND #2 AND(#3 OR #5) 43
最終検索日2008年7月29日

参考文献
1) Rose LF, Genco RJ, Cohen DW, Mealey BL(宮田隆 監訳).ペリオドンタルメディスン.医歯薬出版. 2001.
2) Tervonen T, Knuuttila M, Pohjamo L, Nurkkala H. Immediate response to nonsurgical periodontal treatment in subjects with diabetes mellitus. J Clin Periodontol. 1991;18(1):65-8.
3) Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997;24(7):505-10.
4) Christgau M, Palitzsch KD, Schmalz G, Kreiner U, Frenzel S. Healing response to non-surgical periodontal therapy in patients with diabetes mellitus: clinical, microbiological, and immunologic results. J Clin Periodontol. 1998;25(2):112-24.
5) Faria-Almeida R, Navarro A, Bascones A. Clinical and metabolic changes after conventional treatment of type 2 diabetic patients with chronic periodontitis. J Periodontol. 2006;77(4):591-8.
6) Navarro-Sanchez AB, Faria-Almeida R, Bascones-Martinez A. Effect of non-surgical periodontal therapy on clinical and immunological response and glycaemic control in type 2 diabetic patients with moderate periodontitis. J Clin Periodontol. 2007;34(10):835-43.

関係論文の構造化抄録
2)Tervonen T, Knuuttila M, Pohjamo L, Nurkkala H.
Immediate response to nonsurgical periodontal treatment in subjects with diabetes mellitus.
J Clin Periodontol. 1991;18(1):65-8.
糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
ザイン コントロールを伴うコホート研究。
フィンランドの病院。
年齢,性別がマッチした糖尿病を有する歯周炎患者34名と糖尿病を有しない歯周炎患者45名。
口腔衛生指導,SRP。
主要評価項目 治療前および治療後(3〜4ヶ月)のプロービングポケットデプス。
両群間で治療によるプロービングポケットデプスの値別割合の変化に有意差はなかった。
糖尿病は歯周基本治療によるプロービングポケットデプスの減少に有意には影響しない。
(レベル3)

3)Tervonen T, Karjalainen K.
Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to periodontal therapy in type 1 diabetes.
J Clin Periodontol. 1997;24(7):505-10.
1型糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
ザイン コントロールを伴うコホート研究。
フィンランドの大学病院。
1型糖尿病患者を有する歯周炎患者36名と糖尿病を有しない歯周炎患者10名。糖尿病群はその重症度によって3群に分けられた。
  • D1群(13名):糖尿病の合併症がなく,HbA1cが8.5%以下にコントロールされている群。
  • D2群(15名):糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとなし群。
  • D3群(8名):コントロール不良群で合併症あり群。
口腔衛生指導,SRP。
主要評価項目 治療前および治療後(1ヶ月,6ヶ月,12ヶ月)のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。
各評価時において両群間でプロービングポケットデプス≧4mm,アタッチメントレベル≧2mmの部位の割合に有意差はなかった。糖尿病の重症度の違いで比較した場合,D3群ではD1群およびD2群に比較して12ヶ月後のプロービングポケットデプス≧4mmの割合が有意に高かった。
1型糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポケットデプスとアタッチメントレベルの変化に有意には影響を与えない。しかし糖尿病の重症度が高い場合においてのみ,治療12ヶ月後のプロービングポケットデプスが増加する。
(レベル3)

4)Christgau M, Palitzsch KD, Schmalz G, Kreiner U, Frenzel S.
Healing response to non-surgical periodontal therapy in patients with diabetes mellitus: clinical, microbiological, and immunologic results.
J Clin Periodontol. 1998;25(2):112-24.
糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを調べる。
ザイン コントロールを伴うコホート研究。
ドイツの大学病院。
糖尿病を有する歯周炎患者20名(中央値54.5歳:インスリン依存性(1型)7名,インスリン非依存性(2型)13名)と糖尿病を有しない歯周炎患者20名(中央値50.5歳)。
第一期:口腔衛生指導,縁上スケーリング。
第二期:SRP,ポケット内洗浄(クロルヘキシジン)。
主要評価項目 治療前,第一期治療の2週間後,第二期治療の4ヶ月後のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。
治療前の両群間のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルに有意差はなかった。また両群間で治療によるプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルの変化に有意差はなかった。
コントロールされた糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポケットデプスとアタッチメントレベルの変化に有意には影響しない。
(レベル3)


 
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