(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


2.歯周治療と薬剤
角1 角2
  CQ2:糖尿病患者では抗菌療法(局所および全身投与)の併用は有効か?  
角3 角4

  • 推奨:糖尿病患者に歯周基本治療を行う場合,抗菌療法(全身投与)の併用は効果が認められない(レベル2-)。(推奨度 グレードC2)
    一方,抗菌療法(局所投与)の併用は有効である(レベル4~2+)。(推奨度 グレードC1)


背景・目的
慢性歯周炎患者に歯周基本治療を行うことにより,歯肉の炎症症状は軽減し,歯周病の臨床的パラメーターの改善が認められる。また,歯周病は歯周病原細菌を含むプラーク細菌の感染症の側面を持つことから,以前より歯周基本治療の際に抗菌薬の局所投与および全身投与を併用することによって,歯周組織の臨床パラメーターの改善が期待されていた。しかし,安易な抗菌薬の使用は耐性菌の出現の機会を増し,さらにはバイオフィルム感染症の病態を有する歯周病には,抗菌薬の応用はあまり効果が認められないとする意見もある。一方,歯周基本治療で行う歯周組織検査およびスケーリング・ルートプレーニング(SRP)は,歯周組織に外傷を与え,プロービングやSRPに伴い一過性の菌血症が生じることが知られている。さらに,糖尿病により慢性の高血糖状態が長期に続くと種々の合併症を併発し,好中球機能低下,微小血管障害,コラーゲン代謝障害などにより創傷治癒不全や易感染性を生じる。糖尿病患者の歯周基本治療に抗菌療法を併用することの歯周基本治療の成否に対する効果は明確ではない。

解説
糖尿病患者は歯周病を高頻度で発症すること,また易感染性であることが知られている。また,歯周基本治療により菌血症が一過性に生じることから菌血症の予防および治療には抗菌薬の投与が有効である。一方,抗菌薬の使用による副作用,耐性菌の出現などのリスクも考えられる。そこで,糖尿病患者の歯周基本治療に抗菌療法(局所および全身投与)を併用した場合の治療効果,臨床的パラメーターの改善の有無について検索を行った。6つの参考文献のうち1~4は全身投与,5および6は局所投与に関する文献である。
全身投与に関する4つの文献では,3つの文献で抗菌療法の効果がなく,1つの論文で臨床パラメーターの改善が認められた。
2型糖尿病患者に歯周基本治療(SRP)を実施し,ドキシサイクリン(100mg/day)を14日間投薬した。3ヶ月後の臨床的パラメーターに変化はなかった1)(レベル2-)。中等度から重度の1型糖尿病の歯周炎患者を30名ずつの2グループに分け,歯周基本治療を実施し,ドキシサイクリン(100mg/day)を15日間投薬した。12週間後の6mm以上の歯周ポケットおよびプロービング時の出血がドキシサイクリン投与グループで有意に改善した2)(レベル3)。30名の2型糖尿病患者をランダムに15名ずつの2グループに分け,グループ1にはone-stage full-mouth SRP(FMSRP)とアモキシシリン875mg投与,グループ2にはFMSRPのみを行った。そして2週に1度,3ヶ月間のメインテナンスを行った結果,3ヶ月後の,臨床パラメーターに変化はなかった3)(レベル2-)。113名の2型糖尿病患者(ピマインディアン)をランダムに5群に分け,超音波スケーリングとキュレッタージに加え,1)水での局所洗浄とドキシサイクリン(100mg/day,2週間),2)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とドキシサイクリン(100mg/day,2週間),3)ポピドンヨードとドキシサイクリン(100mg/day,2週間),4)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とプラセボ,5)水とプラセボ(コントロール)の投与を行い,3,6ヶ月後に評価を行ったところ,臨床パラメーターの改善度に変化はなかった4)(レベル2-)。
局所投与に関する2つの文献では,両文献とも臨床パラメーターの改善が認められた。11人の1型糖尿病患者の5mm以上の歯周ポケットを2ヶ所ずつ(22部位)選択し,歯周基本治療終了後に同一患者の1部位に対してSRPとプラセボゲル,もう1部位にはSRPと10%ドキシサイクリンゲルのポケット内投与を行った結果,プロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベルがテストグループで12ヶ月後に有意に改善した5)(レベル3)。13名の2型糖尿病患者に,1週間に1度1ヶ月間全歯のポケット内にミノサイクリンを局所投与した結果,ポケット内細菌数が有意に低下した6)(レベル4)。
以上のことから,歯周基本治療と抗菌療法(全身投与)に関する文献では,抗菌療法の効果がない場合がほとんどであることから(レベル2-)推奨度C2とした。一方,抗菌薬の局所投与に関する論文では,2つの論文で臨床パラメーターの改善が認められたが(レベル3および4),その改善率が大きくないことから推奨度をC1とした。

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとしてMedlineを検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes Mellitus”[All Fields] AND “Periodontal”[All Fields] AND “Therapy”[Subheading] OR “Therapy”[All Fields] OR “Treatment”[All Fields] OR “Therapeutics”[MeSH Terms] OR “Therapeutics”[All Fields] AND “Anti-bacterial Agents”[MeSH Terms] OR “Anti-bacterial”[All Fields] AND “Agents”[All Fields] OR “Anti-bacterial agents”[All Fields] OR “Antibacterial”[All Fields] AND “Agents”[All Fields] OR “Antibacterial Agents”[All Fields] OR “Anti-bacterial Agents”[Pharmacological Action]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討した。主要な情報として,歯周基本治療と抗菌療法(局所と全身)を併用した場合の臨床的パラメーターの変化に関する研究を収集対象とした。


seq. terms and strategy hits
#1 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes mellitus”[All Fields] 249,612
#2 “Periodontal”[All Fields] AND “Therapy”[Subheading] OR “Therapy”[All Fields] OR “Treatment”[All Fields] OR “Therapeutics”[MeSH Terms] OR “Therapeutics”[All Fields] 24,085
#3 “Anti-bacterial Agents”[MeSH Terms] OR “Anti-bacterial”[All Fields] AND “Agents”[All Fields] OR “Anti-bacterial agents”[All Fields] OR “Antibacterial”[All Fields] AND “Agents”[All Fields] OR “Antibacterial Agents”[All Fields] OR “Anti-bacterial Agents”[Pharmacological Action] 433,103
#4 #1 and #2 and #3 42
最終検索日2008年8月27日

参考文献
1) O'Connell PA, Taba M, Nomizo A, Foss Freitas MC, Suaid FA, Uyemura SA, Trevisan GL, Novaes AB, Souza SL, Palioto DB, Grisi MF. Effects of periodontal therapy on glycemic control and inflammatory markers. J Periodontol. 2008;79(5):774-83.
2) Llambés F, Silvestre FJ, Hernández-Mijares A, Guiha R, Caffesse R. Effect of non-surgical periodontal treatment with or without doxycycline on the periodontium of type 1 diabetic patients. J Clin Periodontol. 2005;32(8):915-20.
3) Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF. Effect of non-surgical periodontal therapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus. J Periodontol. 2003;74(9):1361-7.
4) Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco RJ. Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin. J Periodontol. 1997;68(8):713-9.
5) Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF. Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and periodontitis. J Clin Periodontol. 2004;31(8):648-53.
6) Iwamoto Y, Nishimura F, Nakagawa M, Sugimoto H, Shikata K, Makino H, Fukuda T, Tsuji T, Iwamoto M, Murayama Y. The effect of antimicrobial periodontal treatment on circulating tumor necrosis factor-alpha and glycated hemoglobin level in patients with type 2 diabetes. J Periodontol. 2001;72(6):774-8.

関係論文の構造化抄録
2)Llambés F, Silvestre FJ, Hernández-Mijares A, Guiha R, Caffesse R.
Effect of non-surgical periodontal treatment with or without doxycycline on the periodontium of type 1 diabetic patients.
J Clin Periodontol. 2005;32(8):915-20.
1型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンによる抗菌療法の効果を調べる。
ザイン 準ランダム化比較試験。
スペインの大学病院。
1型糖尿病患者60名(ドキシサイクリン投与群30名,非投与群30名)。
口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング,1日2回のクロルヘキシジンによる含嗽,ドキシサイクリン(100mg/日)15日間投薬。
主要評価項目 プラーク指数,プロービング時の出血,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。
12週間後の臨床的パラメーターを比較した結果,6mm以上の歯周ポケットおよびプロービング時の出血がドキシサイクリン投与群で有意に改善した。
1型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンによる抗菌療法の併用は臨床的パラメーターの改善に有効である。
(レベル3)

3)Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF.
Effect of non-surgical periodontal therapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus.
J Periodontol. 2003;74(9):1361-7.
2型糖尿病患者に対するone-stage full-mouth SRP(FMSRP)とアモキシシリン投与の効果を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。
ブラジルの大学病院。
6ヶ月以内に治療を受けていない歯周病患者30名で,過去5年以内のインスリン使用,喫煙,妊娠,糖尿病診断の既往のない者。
テスト群には,one-stage full-mouth SRP(FMSRP)とアモキシシリン875mg投与を行い,コントロール群にはFMSRPのみを行い,その後2週に1度,3ヶ月間のメインテナンスを行った。
主要評価項目 プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プロービング時の出血,HbA1c
3ヶ月後の臨床的パラメーターは,両群で変化なかった。
2型糖尿病患者に対するone-stage full-mouth SRP(FMSRP)とアモキシシリンの併用は抗菌薬を使用しない場合と比べ,効果は同程度である。
(レベル2-)

4)Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco RJ.
Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin.
J Periodontol. 1997;68(8):713-9.
2型糖尿病患者に対する歯周基本治療と,ドキシサイクリンの全身投与の効果を調べる。
ザイン ランダム化比較試験。
アメリカのギラ・リバー・インディアン・コミュニティー。
2型糖尿病患者113名(ピマインディアン ; 女性81名,男性32名)。
113名の2型糖尿病患者をランダムに5群に分け,超音波スケーリングとキュレッタージに加え,
1)水での局所洗浄とドキシサイクリン(100mg/day,2週間)
2)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とドキシサイクリン(100mg/day,2週間)
3)ポピドンヨードとドキシサイクリン(100mg/day,2週間)
4)0.12%クロルヘキシジン(CHX)とプラセボ
5)水とプラセボ(コントロール)
主要評価項目 術前,術後3および6ヶ月におけるプロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,ポケット内Porphyromonas gingivalis数,HbA1c
ドキシサイクリンを投与した群は,コントロール群に比べ,プロービング値,アタッチメントレベルの改善が大きい傾向にあったが,有意差はなかった。
2型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリン(100mg/day,2週間)の投薬の併用は,臨床パラメーターの改善については差がなかった。
(レベル2-)

5)Martorelli de Lima AF, Cury CC, Palioto DB, Duro AM, da Silva RC, Wolff LF.
Therapy with adjunctive doxycycline local delivery in patients with type 1 diabetes mellitus and periodontitis.
J Clin Periodontol. 2004;31(8):648-53.
1型糖尿病患者に対する歯周基本治療と歯周ポケット内へのドキシサイクリン局所投与による抗菌療法の効果を調べる。
ザイン 準ランダム化比較試験。
ブラジルのキャンピナス大学の大学病院。
1型糖尿病患者で基本治療後に2ヶ所以上5mm以上のポケットがある患者11名。
歯周基本治療終了後に同一患者の1部位に対してSRPとプラセボゲルのポケット内投与,もう1部位にはSRPおよび10%ドキシサイクリンゲルのポケット内投与。
主要評価項目 アタッチメントレベル,プロービングポケットデプス,gingival margin level(GML)。
プロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベルがテストグループで12ヶ月後に有意に改善。
1型糖尿病患者に対する歯周基本治療とドキシサイクリンのポケット内局所投与の併用は臨床的パラメーターの改善に有効である。
(レベル3)


 
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