(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


1.歯周治療と糖尿病の状態
角1 角2
  CQ1:歯周病の治療をすると糖尿病の状態は改善するか?  
角3 角4

  • 推奨:歯周治療によって糖尿病の状態は有意に改善したというランダム化比較試験(レベル2)および非ランダム化比較試験(レベル3)の文献がある。しかしながら,メタ解析においては統計学的有意差をもって改善することが認められていない。従って,歯周治療による糖尿病の改善については注目されるが,今後のさらなる検討が期待される。(推奨度 グレードC1)


背景・目的
歯周病は糖尿病と同じく慢性疾患であり,歯周病と糖尿病の関係は文献的に1899年にはすでにGrunert1)によって示されている。また,糖尿病性歯肉炎や歯周病のリスクファクターとして糖尿病の存在が挙げられ,糖尿病の影響を歯周病が受けるという指摘が多かった。しかし,近年,歯周病と糖尿病は双方向性に関連することが指摘されるとともに,組織破壊は感染と最終糖化産物誘導サイトカインの両者によって相互に影響を受けている2)ことから,糖尿病に対する歯周治療の効果が注目される。

解説
糖尿病を有する歯周病患者にスケーリング・ルートプレーニング(SRP)などの歯周治療を行うと1型糖尿病においても,2型糖尿病においてもグリコヘモグロビン(HbA1c),空腹時血糖は減少しているという報告が多い3),4),5),6),7),8),9)。しかも,歯周組織の炎症の強弱によって増減するTNF-αと糖尿病の指標であるHbA1cとは強い相関がみられている7)。さらに歯肉溝滲出液,IL-1β,TNF-αは有意に減少している10)。しかし,症例数が少ないので,歯周治療が血糖コントロールに有意な効果をもたらすかどうかの決定には大規模研究が必要であるといわれている10)
歯周病治療と医科治療の併用は血糖コントロールを改善し,有意差はないが,部分的には歯周治療による効果が認められている11)。また,代謝調節を改善しても歯周病治療への有意な影響はないが,代謝を調節すると2型糖尿病と歯周炎との関係に有意な影響が出る可能性が示されている12)。また,歯周治療をすると空腹時血糖およびHbA1cに有意差はないが減少傾向を示すという報告13)や,また,空腹時血糖およびHbA1cは減少傾向にあるが,全身状態に対する歯周治療の効果に有意差は見出されないという報告がなされている。さらに空腹時血糖およびHbA1cの減少傾向はダイエットでも生じるので,ダイエットコントロール研究が必要であるとする報告もある14)
以上のように歯周治療によって糖尿病の状態は改善されるとする報告があるのに対して,否定的な意見もあり15),歯周治療に伴うHbA1cの改善について検討したメタアナリシス文献では統計的有意差がみられない16)と結論付けていることから,さらに厳格な研究が必要である17)

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとしてMedlineを検索した。Medlineに利用した検索ストラテジーは,“Periodontitis”[MeSH Terms] OR “Periodontal Disease”[All Fields] AND “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] AND “Glycemic Control”[All Fields] OR “Glucose Tolerance”[Text Words] AND “Periodontal Therapy”[All Fields]によって文献を検索し,関連文献を収集した。主要な情報として,ランダム化比較試験による研究を収集対象とした。

seq. terms and strategy hits
#1 “Periodontitis”[MeSH Terms] OR “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] 56,832
#2 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] 251,190
#3 “Glycemic Control”[All Fields] OR “Glucose Tolerance”[Text Words] 43,963
#4 “Periodontal Therapy”[All Fields] 21,637
#5 #1 AND #2 AND #3 AND #4 38
最終検索日2008年10月6日

参考文献
1) Grunert OG. Über Krankheitserscheinungen in der Mundhöhle beim Diabetes: Therapeutischge Winke für Diabetiker, Berlin, Berlinische Verlagsanst, 1899;8.
2) Grossi SG, Genco RJ. Periodontal disease and diabetes mellitus: a two-way relationship. Ann Periodontol. 1998;3(1):51-61.
3) Miller LS, Manwell MA, Newbold D, Reding ME, Rasheed A, Blodgett J, Kornman KS. The relationship between reduction in periodontal inflammation and diabetes control: a report of 9 cases. J Periodontol. 1992;63(10):843-8.
4) Stewart JE, Wager KA, Friedlander AH, Zadeh HH. The effect of periodontal treatment on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus. J Clin Periodontol. 2001;28(4):306-10.
5) Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF. Effect of non-surgical periodontal therapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus. J Periodontol. 2003;74(9):1361-7.
6) Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco RJ. Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin. J Periodontol. 1997;68(8):713-9.
7) Iwamoto Y, Nishimura F, Nakagawa M, Sugimoto H, Shikata K, Makino H, Fukuda T, Tsuji T, Iwamoto M, Murayama Y. The effect of antimicrobial periodontal treatment on circulating tumor necrosis factor-alpha and glycated hemoglobin level in patients with type 2 diabetes. J Periodontol. 2001;72(6):774-8.
8) Kiran M, Arpak N, Ünsal E, Erdoğan MF. The effect of improved periodontal health on metabolic control in type 2 diabetes mellitus. J Clin Periodontol. 2005;32(3):266-72.
9) Faria-Almeida R, Navarro A, Bascones A. Clinical and metabolic changes after conventional treatment of type 2 diabetic patients with chronic periodontitis. J Periodontol. 2006;77(4):591-8.
10) Navarro-Sanchez AB, Faria-Almeida R, Bascones-Martinez A. Effect of non-surgical periodontal therapy on clinical and immunological response and glycaemic control in type 2 diabetic patients with moderate periodontitis. J Clin Periodontol. 2007;34(10):835-43.
11) Jones JA, Miller DR, Wehler CJ, Rich SE, Krall-Kaye EA, McCoy LC, Christiansen CL, Rothendler JA, Garcia RI. Does periodontal care improve glycemic control? The Department of Veterans Affairs Dental Diabetes Study. J Clin Periodontol. 2007;34(1):46-52. Epub 2006 Nov 24.
12) Aldridge JP, Lester V, Watts TL, Collins A, Viberti G, Wilson RF. Single-blind studies of the effects of improved periodontal health on metabolic control in type 1 diabetes mellitus. J Clin Periodontol. 1995;22(4):271-5.
13) Promsudthi A, Pimapansri S, Deerochanawong C, Kanchanavasita W. The effect of periodontal therapy on uncontrolled type 2 diabetes mellitus in older subjects. Oral Dis. 2005;11(5):293-8.
14) O'Connell PA, Taba M, Nomizo A, Foss Freitas MC, Suaid FA, Uyemura SA, Trevisan GL, Novaes AB, Souza SL, Palioto DB, Grisi MF. Effects of periodontal therapy on glycemic control and inflammatory markers. J Periodontol. 2008;79(5):774-83.
15) Christgau M, Palitzsch KD, Schmalz G, Kreiner U, Frenzel S. Healing response to non-surgical periodontal therapy in patients with diabetes mellitus: clinical, microbiological, and immunologic results. J Clin Periodontol. 1998;25(2):112-24.
16) Janket SJ, Wightman A, Baird AE, Van Dyke TE, Jones JA. Does periodontal treatment improve glycemic control in diabetic patients? A meta-analysis of intervention studies. J Dent Res. 2005;84(12):1154-9.
17) Taylor GW, Borgnakke WS. Periodontal disease: associations with diabetes, glycemic control and complications. Oral Dis. 2008;14(3):191-203.

関係論文の構造化抄録
5)Rodrigues DC, Taba MJ, Novaes AB, Souza SL, Grisi MF.
Effect of non-surgical periodontal therapy on glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus.
J Periodontol. 2003;74(9):1361-7.
2型糖尿病患者における歯周病の非観血処置は糖尿病の状態を改善するかを検討する。
ザイン ランダム化比較試験。
ブラジルの大学病院。
2型糖尿病を有する歯周病患者30名。
full mouth SRP+アモキシシリン(Group 1:G1),full mouth SRP(Group2:G2)。
主要評価項目 プロービングポケットデプス,HbA1c
プロービングポケットデプスはG1では0.8±0.6mm(p<0.05),G2では0.9±0.4mm(p<0.05)減少した。アタッチメントレベルは有意差なし。HbA1cは両グループで3ヶ月後に減少したが,G1に有意差なし,G2に有意差あり。空腹時血糖の変化には有意差がなかった。
歯周治療によって2型糖尿病患者の血糖コントロールは改善されたが,有意差はなかった。
(レベル2-)

6)Grossi SG, Skrepcinski FB, DeCaro T, Robertson DC, Ho AW, Dunford RG, Genco RJ.
Treatment of periodontal disease in diabetics reduces glycated hemoglobin.
J Periodontol. 1997;68(8):713-9.
糖尿病患者の代謝調節レベルにおける歯周病処置の影響を検討する。
ザイン ランダム化比較試験。
アメリカのギラ・リバー・インディアン・コミュニティー。
25~65歳の2型糖尿病を有する重度歯周病患者(女性81名,男性32名)。
歯周治療と以下の5つの抗菌薬との併用。
1)水と100mgドキシサイクリンを2週間
2)0.12%クロルヘキシジン(CHX)と100mgドキシサイクリンを2週間
3)ポビドンヨードと100mgドキシサイクリンを2週間
4)0.12%CHXとプラセボ
5)水とプラセボ
主要評価項目 術前,術後3および6ヶ月におけるプロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プラーク中のPorphyromonas gingivalisの検出,血糖値およびHbA1c
歯周病感染処置および歯周炎の消退はHbA1cレベルの減少に関連する。
歯周炎のコントロールは糖尿病患者のマネージメントに重要である。
(レベル2)

8)Kiran M, Arpak N, Ünsal E, Erdoğan MF.
The effect of improved periodontal health on metabolic control in type 2 diabetes mellitus.
J Clin Periodontol. 2005;32(3):266-72.
2型糖尿病患者の代謝調節における歯周治療の影響を検討する。
ザイン ランダム化比較試験。
トルコのアンカラ大学病院。
2型糖尿病患者44名。
スケーリング・ルートプレーニング。
主要評価項目 初診時のプラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,歯肉退縮,プロービング時の出血,1および3ヶ月後血糖値,2時間後の糖負荷試験,HbA1c,総コレステロール,トリグリセロール,HDL,LDL,マイクロアルブミン尿素。
プラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,歯肉退縮,プロービング時の出血は治療により改善し,HbA1cも減少したが,コントロール群では,これらの値はわずかに上昇した。
非観血的歯周治療は2型糖尿病患者の血糖状態改善に関連する。
(レベル2-)

11)Jones JA, Miller DR, Wehler CJ, Rich SE, Krall-Kaye EA, McCoy LC, Christiansen CL, Rothendler JA, Garcia RI.
Does periodontal care improve glycemic control? The Department of Veterans Affairs Dental Diabetes Study.
J Clin Periodontol. 2007;34(1):46-52. Epub 2006 Nov 24.
歯周病治療によって糖尿病状態が改善するかを検討する。
ザイン ランダム化比較試験。
アメリカのボストンの病院。
2型糖尿病患者165名。
スケーリング・ルートプレーニング,ドキシサイクリン投与(14日間),1日2回クロルヘキシジン洗浄(4ヶ月間)。
通常の歯周治療。
主要評価項目 HbA1c
歯周病治療と医科治療の併用は血糖コントロールを改善。
歯周治療による有意な効果はないが,部分的には効果がある。
(レベル2)

14)O'Connell PA, Taba M, Nomizo A, Foss Freitas MC, Suaid FA, Uyemura SA, Trevisan GL, Novaes AB, Souza SL, Palioto DB, Grisi MF.
Effects of periodontal therapy on glycemic control and inflammatory markers.
J Periodontol. 2008;79(5):774-83.
糖尿病を有する歯周病患者のHbA1cおよび炎症のバイオマーカーに対するSRPの効果を検討する。
ザイン 非ランダム化比較試験。
ブラジルのサンパウロ大学病院。
2型糖尿病患者30名。
SRPとドキシサイクリン服用(15名),SRPのみ(15名)。
主要評価項目 アタッチメントレベル,プロービングポケットデプス,プロービング時の出血,プラーク指数,排膿,HbA1c,空腹時血糖,IL-6,IFN-γ誘導タンパク,バイオフィルムの存在。
2型糖尿病患者に対して歯周治療を行った結果,空腹時血糖およびHbA1cは減少傾向にあるが,全身状態に対する歯周治療の効果に有意差は見出されていない。
空腹時血糖およびHbA1cの減少傾向はダイエットでも生じるので,大規模研究およびダイエットコントロール研究が必要である。
(レベル3)


 
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