(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン
はじめに(目的,作成方法,策定組織,改訂日時などについて)
「診療ガイドライン」は,「特定の臨床状況のもとで,臨床医と患者が適切な医療について決断を行えるよう支援する目的で体系的に作成された文書」と定義されています(福井・丹後 診療ガイドラインの作成の手順 ver.4.3 2001.11.7)。近年,医療の質を向上させるうえで「EBM(根拠に基づく医療)を用いた診療ガイドライン」の有用性が注目されるようになってきました。EBMの手法による診療ガイドラインの基本構造は,「臨床上の疑問(Clinical Question:CQ)の明確化」→「エビデンスの検索・評価」→「推奨度の決定」の3段階で構築され,従来の教科書的な構造で取りまとめられたガイドラインとは,全くといってよいほどその体裁が異なる構成になっています。歯科の領域においては,残念ながらこのように構築されたガイドラインは現時点で皆無に近い状態でありますが,将来的には,「EBMを用いた診療ガイドライン」が,診療ガイドラインの中心になっていくものと推察されます。
本ガイドラインは,NPO法人日本歯周病学会が日本歯科医学会からの依頼を受け,糖尿病患者の歯周治療に関わる医療関係者を主たる対象として,作成時点(2008年度)において臨床現場で遭遇する特定の問題に対してできる限り客観的なエビデンスに基づいて,検査・診断・治療に関する一定の方向性(推奨)を示し,現場の判断を支援することを意図したものです。活動に関しては,NPO法人日本歯周病学会からのみ支援を受けました。
この領域のエビデンスが十分ではない状況もあり,現時点では臨床専門医のみで作成した(Good Old Boys Sitting Around the Table:GOBSATと通称)教科書的なガイドラインにならざるを得ないのではとの議論も行いましたが,歯周治療分野の将来の発展の礎になればとの思いから「EBMを用いた診療ガイドライン」の考え方をできるだけ取り入れたガイドラインを作成することにしました。我々にとって初めての挑戦でありましたし,取り上げたCQに対してその多くのもので,十分な証拠が存在しないこともその過程で明らかになってきました。しかしながら,このようなことは,他の多くの分野でも散見されているようで,「EBMの役割は(レベルの高い)エビデンスがほとんどないことを示したことである」との皮肉もいわれているようです。現実には高いレベルのエビデンスがなくても行わなければならないことも少なくないということも認識しなければなりません。従って,そのような場合でも臨床上の必要から何らかの推奨を示さなければならないこともあり,その際には,経験のある歯周病専門医の意見(expert opinion)を慎重に検討し,記述することとしました。
記載内容は,医師・歯科医師以外の医療関係者にも理解していただけることを目標としました。まず,糖尿病患者における歯周病の病態に関するQuestion(Q)を設定し,その各々に関するエビデンスの検索を行い,Answer(A)を作成しました(Qに関しては後で述べます推奨度は記載していません)。次に「糖尿病患者に対する歯周病診療」に関して医療現場で必要とされるであろうClinical Question(CQ)を本ガイドライン作成ワーキンググループ構成員が抽出し,これらのCQに対して,現時点で推奨される考え方を記載しています。残念ながらすべてのCQに対して科学的エビデンスとなる文献が入手できる状況ではなく,それらのいくつかのものに対しては経験に基づいた現時点でのコンセンサスが得られた考え方を記載することとしました。一方,科学的エビデンスがある程度入手できたCQに対しては,以下の基準(AHCPR:アメリカ Agency for Health Care Policy and Research, 1993)に基づき推奨度を表記しました。推奨度の決定に関しては,エビデンスのレベル,エビデンスの数と結論のバラツキ,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害に関するエビデンスを勘案して総合的に判断するとともに,歯周病専門医,基礎歯学研究者,臨床疫学者らの意見を慎重に検討し,決定することとしました。文献検索ストラテジーについては,電子検索データベースとして,Medlineあるいは医学中央雑誌(医中誌)を検索しました。論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討しました。さらに検索式,最終検索日および検索結果については,各項に記載しました。また,完成に先立ち,日本歯周病学会ホームページ上にて,本ガイドライン(案)を閲覧していただく機会を設け,ご意見を内容に反映させるよう努めました。
エビデンスレベル(各研究に付された水準)
日本糖尿病学会・糖尿病診療ガイドラインを一部改変(括弧内の例数は目安)
推奨の強さとしてのグレード
ここに記された内容は,あくまでも2008年度時点のガイドラインであり,将来的に,この分野での科学的エビデンスがさらに蓄積された適切な時期(5年後)に日本歯周病学会がガイドライン作成ワーキングを立ち上げ,本改訂版を作成したいと考えています。その際には,臨床指標となる数値があれば可能な限りそれを提示し,本ガイドラインの内容に関連する日本歯科医学会分科会の先生方にも作成委員として参加いただいて各専門分野の意見を集積するとともに,歯周病専門医以外の歯科医師が求める“臨床的疑問”をガイドラインに反映させるため,CQの抽出等の過程に一般開業医等の参加も計画したいと考えています。また,本ガイドラインに対する意見を患者様からもいただき,対象となる患者からインフォームドコンセントを得るに際して,その意志決定の参考となるような「一般向けガイドライン」が本ガイドラインを下地として作成されることを期待しています。
なお,巻末には糖尿病学を専門としない読者への情報提供を目的として「糖尿病に関する基礎知識」を付記いたしましたので参考としてください。また,本ガイドラインの完成に先立ち,日本歯科医学会の関係者の先生方に校閲をしていただきましたことをここに記します。
本ガイドラインは,NPO法人日本歯周病学会が日本歯科医学会からの依頼を受け,糖尿病患者の歯周治療に関わる医療関係者を主たる対象として,作成時点(2008年度)において臨床現場で遭遇する特定の問題に対してできる限り客観的なエビデンスに基づいて,検査・診断・治療に関する一定の方向性(推奨)を示し,現場の判断を支援することを意図したものです。活動に関しては,NPO法人日本歯周病学会からのみ支援を受けました。
この領域のエビデンスが十分ではない状況もあり,現時点では臨床専門医のみで作成した(Good Old Boys Sitting Around the Table:GOBSATと通称)教科書的なガイドラインにならざるを得ないのではとの議論も行いましたが,歯周治療分野の将来の発展の礎になればとの思いから「EBMを用いた診療ガイドライン」の考え方をできるだけ取り入れたガイドラインを作成することにしました。我々にとって初めての挑戦でありましたし,取り上げたCQに対してその多くのもので,十分な証拠が存在しないこともその過程で明らかになってきました。しかしながら,このようなことは,他の多くの分野でも散見されているようで,「EBMの役割は(レベルの高い)エビデンスがほとんどないことを示したことである」との皮肉もいわれているようです。現実には高いレベルのエビデンスがなくても行わなければならないことも少なくないということも認識しなければなりません。従って,そのような場合でも臨床上の必要から何らかの推奨を示さなければならないこともあり,その際には,経験のある歯周病専門医の意見(expert opinion)を慎重に検討し,記述することとしました。
記載内容は,医師・歯科医師以外の医療関係者にも理解していただけることを目標としました。まず,糖尿病患者における歯周病の病態に関するQuestion(Q)を設定し,その各々に関するエビデンスの検索を行い,Answer(A)を作成しました(Qに関しては後で述べます推奨度は記載していません)。次に「糖尿病患者に対する歯周病診療」に関して医療現場で必要とされるであろうClinical Question(CQ)を本ガイドライン作成ワーキンググループ構成員が抽出し,これらのCQに対して,現時点で推奨される考え方を記載しています。残念ながらすべてのCQに対して科学的エビデンスとなる文献が入手できる状況ではなく,それらのいくつかのものに対しては経験に基づいた現時点でのコンセンサスが得られた考え方を記載することとしました。一方,科学的エビデンスがある程度入手できたCQに対しては,以下の基準(AHCPR:アメリカ Agency for Health Care Policy and Research, 1993)に基づき推奨度を表記しました。推奨度の決定に関しては,エビデンスのレベル,エビデンスの数と結論のバラツキ,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害に関するエビデンスを勘案して総合的に判断するとともに,歯周病専門医,基礎歯学研究者,臨床疫学者らの意見を慎重に検討し,決定することとしました。文献検索ストラテジーについては,電子検索データベースとして,Medlineあるいは医学中央雑誌(医中誌)を検索しました。論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討しました。さらに検索式,最終検索日および検索結果については,各項に記載しました。また,完成に先立ち,日本歯周病学会ホームページ上にて,本ガイドライン(案)を閲覧していただく機会を設け,ご意見を内容に反映させるよう努めました。
エビデンスレベル(各研究に付された水準)
日本糖尿病学会・糖尿病診療ガイドラインを一部改変(括弧内の例数は目安)
レベル | それに該当する臨床研究デザインの種類 |
1+ | 水準1の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタアナリシス |
1 | 十分な症例数(全体で400例以上)のランダム化比較試験 |
2+ | 水準2の規模を含むランダム化比較試験のシステマティックレビューまたはメタアナリシス |
2 | 小規模(全体で400例未満)のランダム化比較試験 |
2- | さらに小規模(全体で50例未満)のランダム化比較試験,クロスオーバー試験(ランダム化を伴う),オープンラベル試験(ランダム化を伴う) |
3 | 非ランダム化比較試験,コントロールを伴うコホート研究 |
4 | 前後比較試験,コントロールを伴わないコホート研究,症例対照研究 非実験的記述研究 |
5 | コントロールを伴わない症例集積(10~50例程度) |
6 | 10例未満の症例報告 |
推奨の強さとしてのグレード
グレード | 説明 |
グレードA | 行うように強く勧められる。 |
グレードB | 行うように勧められる。 |
グレードC1 | 行うように勧めるだけの根拠が明確でないが,行うように勧められるコンセンサスがある。 |
グレードC2 | 行うように勧めるだけの根拠が明確でなく,行うように勧められるコンセンサスも得られていない。 |
グレードD | 行わないように勧められる。 |
ここに記された内容は,あくまでも2008年度時点のガイドラインであり,将来的に,この分野での科学的エビデンスがさらに蓄積された適切な時期(5年後)に日本歯周病学会がガイドライン作成ワーキングを立ち上げ,本改訂版を作成したいと考えています。その際には,臨床指標となる数値があれば可能な限りそれを提示し,本ガイドラインの内容に関連する日本歯科医学会分科会の先生方にも作成委員として参加いただいて各専門分野の意見を集積するとともに,歯周病専門医以外の歯科医師が求める“臨床的疑問”をガイドラインに反映させるため,CQの抽出等の過程に一般開業医等の参加も計画したいと考えています。また,本ガイドラインに対する意見を患者様からもいただき,対象となる患者からインフォームドコンセントを得るに際して,その意志決定の参考となるような「一般向けガイドライン」が本ガイドラインを下地として作成されることを期待しています。
なお,巻末には糖尿病学を専門としない読者への情報提供を目的として「糖尿病に関する基礎知識」を付記いたしましたので参考としてください。また,本ガイドラインの完成に先立ち,日本歯科医学会の関係者の先生方に校閲をしていただきましたことをここに記します。