補綴歯科診療ガイドライン
歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008

 
VII.クリニカルクエスチョン


1.インプラント治療の有効性について

CQ1-4 1歯中間欠損の治療において,インプラント治療は,ブリッジよりも,有効であるか?


【推奨プロファイル】

1歯の中間欠損に対して,5年生存率でみると,インプラントとブリッジでは差はなく,機能的にもインプラントが有効であるというエビデンスは存在していない.インプラントは,両隣在歯を切削する必要がないため,切削によって引き起こされる歯髄,歯周組織のトラブルは回避できる.しかし,症例によってはインプラント埋入が困難な場合も存在している.逆にブリッジは,いかなる症例に対しても対応できるものの,隣在歯の切削の必要性がう蝕や歯周疾患,歯髄疾患などの生物学的な合併症を引き起こす確率(リスク)が,隣在歯の切削の必要性がないインプラント処置よりも高く,その発生頻度も経時的に高くなる.
すなわち,欠損部の隣在歯が,すでに処置されているか否かが,天然歯の切削によって引き起こされるリスクに関与しているため,隣在歯の状態が本ガイドラインの作成においては重要な要素となりうる.
以上より,適応症や隣在歯の状態など,様々な条件を考慮する必要があり,現在までに報告されている範囲では,すべての条件で1歯中間欠損の治療においてインプラントがブリッジより有効であるというエビデンスは存在していない.

アウトカム エビデンスの質 評価(有効性・害等)
(1)咀嚼機能 L U
(2)発音機能 L U
(3)審美性 L U
(4)快適性(装着感) L U
(5)対応性 L N
(6)耐久性 M P
(7)負担(肉体的,時間的) M P
(8)害(誤嚥,疼痛など)    
(9)コスト VL U
(10)生活の質 L P
推奨度 全体としての判断 P〜N

【背景と目的】

1歯の中間欠損に対する処置法として,ブリッジとインプラントは確立された処置法だと考えられる.それぞれの利点,欠点を列挙し,状況に応じた治療計画の立案と説明内容を提示することを目的とする.

【概説】

1歯の中間欠損に対する治療法として,インプラントとブリッジを直接的に比較研究したRCTは存在しなかった.しかし,以下に示す論文では,本CQの解答を導くにあたり,考慮すべき事項として(1)欠損部位と(2)欠損の隣在歯の状態が挙げられていた.欠損部位に関する項目として,残存骨量や歯肉の厚みがあり,処置の難易度や審美性に大きな影響を与える.審美部位においては,これらの条件によって審美的な回復が困難な場合もある.また,欠損部の隣在歯については,すでに処置がなされている,あるいは歯内治療を行う必要性がある場合は,後述する5年生存率に差がないことや外科処置が必要ないこと,その処置の簡便性からブリッジを治療の選択肢として推奨できるが,ともに健全である場合は,健全歯の切削を避ける意味でインプラント治療を選択することが望ましいと推奨されている.
本CQに関して,双方の治療結果を比較,評価するにあたり,インプラント,ブリッジの成功,失敗の基準が異なることについて述べる必要がある.前者はインプラント埋入後の外科的(インプラントの早期の撤去など),補綴的合併症(スクリューの緩みや上部構造の破損など),あるいは生存率(インプラント体の撤去の有無)について評価しているのに対し,後者はう蝕,歯髄,歯周疾患の罹患あるいはこれらが原因での再製作で失敗としているものが多い.合併症から考慮すると,インプラントの方が発生率は高いものの,耐久性においては,5年生存率においては両者に大きな差は認められない.しかし,それより長期の観察によると,ブリッジの生物学的合併症の発生頻度が高くなるためか,インプラントの生存率が高い報告が多い.
1歯欠損の場合では積極的なディスカッションがなされてはいなかったが,近年,抜歯の原因が歯周疾患の場合,5年生存率が低くなっている報告があることから,抜歯にいたるまでの過程も考慮する必要がある.
コストにおいて,欧米の治療での短期の経過観察では,インプラントの方が望ましいと考えられるが,日本の保険診療における比較がなされていないために,結論を導くことはできなかった.
以上のことより,明らかにインプラント治療が有効であるというエビデンスは存在しない.しかしながら,条件に応じて,インプラントあるいはブリッジ,それぞれが有効な症例が存在していることは,明らかにされている.

【構造化アブストラクト】

1
   [タイトル] Prosthetic treatment planning on the basis of scientific evidence.
科学的根拠に基づいた補綴治療計画の立案
   [著者名] Pjetursson BE. Lang NP
   [雑誌名.巻:頁] J Oral Rehabili. 2008;35 Suppl.1:72-79.
   [Level] A
   [目的] 種々の固定性補綴装置の生存率,失敗率の結果をまとめ,考察する.
   [研究デザイン] システマティックレビュー,メタアナリシス
  [研究施設]  
   [データベース] MEDLINE (PubMED)による論文検索.RCTが存在しないため,prospective,retrospective cohort研究を検索
(1) 最低5年の追跡調査
(2) 臨床的な診査事項の評価(質問票やインタビューによるものは除外)
(3) 上部構造について詳細な記載がある論文
  [介入]  
   [主要な評価項目]  生存率,成功率,生物学的,技術的合併症について評価
   [統計] ポアソン回帰
   [結果]
5年生存率では,conventional FDP 93.8%,cantilever FDP 91.4%,implant-supported FDPl 95.2%,combined tooth-implant-supported FDPl 95.5%,implant-supported single crown 94.5%,resin-bonded bridges 87.7%となった.
implant-supported FDPlでは38.7%に認められ,他の治療法に比べると高くなっていた.
conventional FDPは生物学的合併症(う蝕,歯髄壊死など)が多いのに対して,implantの治療群は前装の破損やスクリューの緩みなどの技術的合併症が多く認められた.resin-bonded bridgesでは,接着部分が外れるという合併症が最も多かった.
   [結論] 補綴治療計画を立案する場合,conventional FDP,implant-supported FDPl,implant-supported single crownを第一選択とすべきである.
2
  [タイトル] A systematic review of the 5-year survival and complication rates of implant-supported single crowns.
インプラント支持の単冠の5年生存率と合併症に関するシステマティックレビュー
  [著者名] Jung RE. Pjetursson BE. Glauser R. Zembic A. Zwahlen M. Lang NP
  [雑誌名.巻:頁] Clin Oral Implants Res. 2008;19:119-30.
  [Level] A
  [目的] インプラント支持の単独冠の5年生存率と生物学的,技術的合併症について評価する.
  [研究デザイン] システマティックレビュー,メタアナリシス
  [研究施設]  
   [データベース] MEDLINE (PubMED)による論文検索.インプラント支持単独冠に関するprospective,retrospective cohort研究で最低5年の追跡調査を行っている研究.失敗率,合併症の発生率を分析.
  [介入]  
  [主要な評価項目]  失敗率,合併症の発生率について評価
  [統計] ポアソン回帰モデル
  [結果]
3,601本の論文から26本の論文が抽出.
インプラントの5年生存率は96.8%,単独冠の5年生存率は94.5%であった.
メタルボンドクラウンが95.4%であり,オールセラミックの91.2%に比較して有意に高かった.
5年間の観察期間にインプラント周囲炎が9.7%,2mm以上の骨吸収が6.3%,インプラントの破折が0.14%,スクリューの緩みが12.7%,スクリューの破折が0.35%,前装の破損が4.5%に認められた.
  [結論] インプラント支持の単独冠においては5年の追跡調査では,高い生存率が認められたものの,生物学的合併症,また技術的合併症が頻繁に起こることが示された.
3
  [タイトル] Outcomes of root canal treatment and restoration, implant-supported single crowns, fixed partial dentures, and extraction without replacement: a systematic review.
歯内治療後の修復処置,インプラント支持の単独冠,ブリッジ,抜歯後無処置の結果:システマティックレビュー
  [著者名] Torabinejad M. Anderson P. Bader J. Brown LJ. Chen LH. Goodacre CJ. Kattadiyil MT. Kutsenko D. Lozada J. Patel R. Petersen F. Puterman I. White SN
  [雑誌名.巻:頁] J Prosthet Dent. 2007;98:285-311.
  [Level] A
  [目的] 歯内治療後の修復処置の結果,利点,害を抜歯後,インプラント支持の単独冠(ISC),ブリッジ(FPD),抜歯後無処置の治療法で比較する.
  [研究デザイン] システマティックレビュー,メタアナリシス
  [研究施設]  
   [データベース] MEDLINE ,Cochrane,EMBASEデータベースによる論文検索.論文の質と包含基準によってエビデンステーブルを作成した.
(1) 最低2年間の観察期間
(2) 25以上の被験数
  [介入]  
  [主要な評価項目]  成功率,生存率について評価
  [統計]  
  [結果]
包含基準より143本の論文が抽出された.
治療の相違で直接的に比較している研究はほとんど存在しなかった.
ISCの成功率は歯内治療,FPDそれぞれに比較して高かった.しかし,成功基準がそれぞれの治療群で異なるため,直接的な比較は困難である.
  [結論] ISCと歯内治療はFPDと比較すると生存率が良好であった.抜歯後無処置はデータは少ないものの,他の治療と比較して社会心理的に劣っていた.
4
  [タイトル] Comparison of survival and complication rates of tooth-supported fixed dental prostheses (FDPs) and implant-supported FDPs and single crowns (SCs).
天然歯支持ブリッジ(FDPs)とインプラント支持ブリッジと単冠(SCs)の生存率と合併症率の比較
  [著者名] Pjetursson BE. Bragger U. Lang NP. Zwahlen M
  [雑誌名.巻:頁] Clin Oral Implants Res. 2007;18 Suppl 3:97-113.
  [Level] A
  [目的] 天然歯支持ブリッジ(FDPs)とインプラント支持ブリッジと単独冠(SCs)の5,10年後の生存率と生物学的,技術的合併症を比較する.
  [研究デザイン] システマティックレビュー,メタアナリシス
  [研究施設]  
   [データベース] MEDLINE (PubMED)による論文検索.インプラント支持単独冠に関するprospective,retrospective cohort研究で5,10年の追跡調査を行っている研究.失敗率,合併症の発生率を分析.
  [介入]  
  [主要な評価項目]  失敗率,合併症の発生率について評価
  [統計] ポアソン回帰モデル
  [結果]
85本の論文が対象となった.
5年生存率では,conventional FDP 93.8%,cantilever FDP91.4%,implant-supported FDPl 95.2%,combined tooth-implant-supported FDPl95.5%,implant-supported single crown 94.5%であり,10年生存率はconventional FDP89.2%,cantilever FDP 80.3%,implant-supported FDPl 86.7%,combined tooth-implant-supportedFDPl 77.8%,implant-supported single crown 89.4%であった.
  [結論] 本レビューにより,補綴治療計画を立案する場合,conventional FDP,implant-supported FDPl,implant-supported single crownを第一選択とすべきである.
5
  [タイトル] In patients requiring single-tooth replacement,what are the outcomes of implant- as compared to tooth-supported restorations?
1本の歯の処置が必要な患者において,インプラント支持と天然歯支持の修復処置の結果はどうなるか?
  [著者名] Salinas TJ. Eckert SE
  [雑誌名.巻:頁] IntJ Oral Maxillofac Implants. 2007;22 Suppl:71-95.
  [Level] A
  [目的] インプラント単独冠とブリッジの長期間の生存しているものの特徴を検討する.
  [研究デザイン] システマティックレビュー,メタアナリシス
  [研究施設]  
   [データベース] MEDLINE,Cochrane,EMBASEデータベースによる論文検索.最低2年間の追跡調査と最低12装置,インプラントと補綴装置について比較.
  [介入]  
  [主要な評価項目]  失敗率,合併症の発生率について評価
  [統計] ウィルソンスコア
  [結果]
54本の論文が対象となった.
2つの治療法において直接的に比較している研究は存在しなかった.
5年生存率では,インプラント支持の単独冠では95.1%,ブリッジでは84.0%(接着性ブリッジも含む)であった.
  [結論] 本レビューではインプラント支持の単独冠とブリッジで臨床的な点において直接的な比較をしているものはなく,評価することはできなかった.
 
【執筆者名】

九州大学 咀嚼機能再建学分野
荻野洋一郎,古谷野 潔(有床義歯,インプラント系)

 

 
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