根拠と総意に基づくカンガルーケア・ガイドライン(完全版)
トピック3:正期産児に出生直後に行う「カンガルーケア」
科学的根拠のまとめ
◆背景◆
病院出産において、出生直後から児が母より引き離されてケアされることが、生後早期の母子相互関係に悪影響を及ぼすことが示されてきています1)。
生後早期のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)とは、生まれて間もない児を、母の素肌に胸と胸を合わせるように抱かせ、その上から暖かい掛け物で覆いをすることをいいます。
◆科学的根拠の詳細◆(エビデンステーブル:付属資料参照)
生後早期の肌と肌の接触の有効性の検討
1925組の母子(健康な正期産児・後期早産児(34-37週))に対し、生後24時間以内にカンガルーケアを実施した群と従来の(母子が離れた)ケアを実施した群に分けて比較検討した研究(ランダム化比較試験)は30件ありました。これを64の指標に関して再検討した研究(システマティックレビュー)1)から、以下の結果が得られました。
実施時間の検討
健康な正期産児への出生直後のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)の開始時期・実施時間は、研究間で統一されておらず、質の高い科学的根拠は見つかりませんでした。
母乳育児支援の立場からは、正常経膣分娩の場合、生後30分以内のカンガルーケアの開始、30分以上のスキンシップと授乳援助が推奨されています2),3)。帝王切開で出産した場合でも、少なくとも半数の母親は30分以内にカンガルーケアを開始するべきとしています4)。生後1時間以内の20分間の母子分離であっても早期授乳に好ましくない影響を及ぼすとの報告があり、これを考えると、この母子の接触は可能な限り「多いほど効果がある」と提案されています。
母乳育児支援ガイドラインでは、出生後少なくとも最初の2時間、または最初の授乳が終わるまでは、カンガルーケアを続ける支援をすることを推奨しています4)。
実施対象の検討
後期早産児に関しての有用性を検討している報告は少なく、更なる研究が必要です1)。また帝王切開で出生した児に関しては、母親以外の家族によるskin to skinの抱っこの研究の報告も有ります5)が、今後さらなる研究が必要です。
安全性の検討
我が国の症例で、生後早期のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)の最中に心肺蘇生を要したという報告が最近ありました6)。また、我が国の新生児集中治療室におけるアンケート調査により、出生直後のカンガルーケアにより重大な急変が生じた例は決してまれではなく、医療訴訟係争中の例も少なくないことがわかりました7)。
生後28日目までの低出生体重児・正期産児に対してカンガルーケアを実施した群と通常のケアを行った群を比較した23の研究をまとめて検討しなおした研究(メタアナリシス)8)では、健康な正期産児においてもカンガルーケア中に酸素飽和度が低下することが報告されています。
◆科学的根拠のまとめ◆
健康な正期産児に実施する生後早期の肌と肌との接触は、その有効性に関しては比較的質の高い科学的根拠が示されていますが、研究間のばらつきがあり、対象、実施のタイミング、実施時間などに一致した見解はありません。また、安全性に警鐘を鳴らす報告もみられました。
◆科学的根拠から推奨へ◆
健康な正期産児に生後できるだけ早期に、できるだけ長く母親と肌と肌との接触をすることで、その後の母乳育児、体温保持、母子相互関係に好影響を来しうる可能性があります。しかし、実施中の呼吸、酸素飽和度モニタリングは可能な限り厳重に行い、安全性に対して最大限配慮する必要があると考えます。
病院出産において、出生直後から児が母より引き離されてケアされることが、生後早期の母子相互関係に悪影響を及ぼすことが示されてきています1)。
生後早期のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)とは、生まれて間もない児を、母の素肌に胸と胸を合わせるように抱かせ、その上から暖かい掛け物で覆いをすることをいいます。
◆科学的根拠の詳細◆(エビデンステーブル:付属資料参照)
生後早期の肌と肌の接触の有効性の検討
1925組の母子(健康な正期産児・後期早産児(34-37週))に対し、生後24時間以内にカンガルーケアを実施した群と従来の(母子が離れた)ケアを実施した群に分けて比較検討した研究(ランダム化比較試験)は30件ありました。これを64の指標に関して再検討した研究(システマティックレビュー)1)から、以下の結果が得られました。
![]() | 母乳育児生後24時間以内にカンガルーケアを実施した群は従来のケアを実施した群と比べ、初回授乳の成功率、生後1-4ヶ月の母乳育児状況、母乳育児継続期間、乳房トラブルの頻度、不安感、児の母親の母乳に対する嗅覚的認識において明らかによい効果がみられました。 |
![]() | 児の体のサイン生後24時間以内にカンガルーケアを実施した群は従来のケアを実施した群と比べ、児の体温保持、泣く回数、リラックスした手足の動き、血糖値、呼吸循環の安定化においてよい効果をもたらしました。 |
![]() | 母親の愛着行動生後24時間以内にカンガルーケアを実施した群は従来のケアを実施した群と比べ、母親の愛情行動、生後早期の母子の接触行動、一年後の赤ちゃんの愛護的な抱き方や触れ方によい効果をもたらしました。 |
実施時間の検討
健康な正期産児への出生直後のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)の開始時期・実施時間は、研究間で統一されておらず、質の高い科学的根拠は見つかりませんでした。
母乳育児支援の立場からは、正常経膣分娩の場合、生後30分以内のカンガルーケアの開始、30分以上のスキンシップと授乳援助が推奨されています2),3)。帝王切開で出産した場合でも、少なくとも半数の母親は30分以内にカンガルーケアを開始するべきとしています4)。生後1時間以内の20分間の母子分離であっても早期授乳に好ましくない影響を及ぼすとの報告があり、これを考えると、この母子の接触は可能な限り「多いほど効果がある」と提案されています。
母乳育児支援ガイドラインでは、出生後少なくとも最初の2時間、または最初の授乳が終わるまでは、カンガルーケアを続ける支援をすることを推奨しています4)。
実施対象の検討
後期早産児に関しての有用性を検討している報告は少なく、更なる研究が必要です1)。また帝王切開で出生した児に関しては、母親以外の家族によるskin to skinの抱っこの研究の報告も有ります5)が、今後さらなる研究が必要です。
安全性の検討
我が国の症例で、生後早期のカンガルーケア(skin to skinの抱っこ)の最中に心肺蘇生を要したという報告が最近ありました6)。また、我が国の新生児集中治療室におけるアンケート調査により、出生直後のカンガルーケアにより重大な急変が生じた例は決してまれではなく、医療訴訟係争中の例も少なくないことがわかりました7)。
生後28日目までの低出生体重児・正期産児に対してカンガルーケアを実施した群と通常のケアを行った群を比較した23の研究をまとめて検討しなおした研究(メタアナリシス)8)では、健康な正期産児においてもカンガルーケア中に酸素飽和度が低下することが報告されています。
◆科学的根拠のまとめ◆
健康な正期産児に実施する生後早期の肌と肌との接触は、その有効性に関しては比較的質の高い科学的根拠が示されていますが、研究間のばらつきがあり、対象、実施のタイミング、実施時間などに一致した見解はありません。また、安全性に警鐘を鳴らす報告もみられました。
◆科学的根拠から推奨へ◆
健康な正期産児に生後できるだけ早期に、できるだけ長く母親と肌と肌との接触をすることで、その後の母乳育児、体温保持、母子相互関係に好影響を来しうる可能性があります。しかし、実施中の呼吸、酸素飽和度モニタリングは可能な限り厳重に行い、安全性に対して最大限配慮する必要があると考えます。
引用文献
1) | Moore ER, Anderson GC, Bergman N. Early skin-to-skin contact for mothers and their healthy newborninfants. Cochrane Database Syst Rev. 2007;(3):CD003519. |
2) | World Health Organization (WHO). Evidence for the ten steps to successful breast feeding, Geneva: WHO; 1998. http://www.who.int/child_adolescent_health/documents/9241591544/en/index.html (邦訳:日本母乳の会編集委員会.母乳育児成功のための10カ条のエビデンス.日本母乳の会.2006) |
3) | World Health Organization (WHO), UNICEF. Baby-Friendly Hospital Initiative, Geneva: WHO; 2009. http://www.who.int/nutrition/publications/infantfeeding/9789241594950/en/index.html (邦訳:BFHI 2009 翻訳編集委員会.UNICEF/WHO赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース.医学書院.2009) |
4) | International Lactation Consultant Association (ILCA). Clinical guideline for the establishment of exclusive breastfeeding. Raleigh (NC): International Lactation Consultant Association (ILCA); 2005. http://www.ilca.org/files/resources/ClinicalGuidelines2005.pdf (邦訳:国際ラクテーション・コンサルタント協会.母乳だけで育てるための臨床ガイドライン.日本ラクテーション・コンサルタント協会.2008. http://www.jalc-net.jp/) |
5) | Erlandsson K, Dsilna A, Fagerberg I, Christensson K. Skin-to-skin care with the father after cesarean birth and its effect on newborn crying and prefeeding behavior. Birth. 2007;34(2):105-14. |
6) | Nakamura T, Sano Y. Two cases of infants who needed cardiopulmonary resuscitation during early skin-to-skin contact with mother. J Obstet Gynaecol Res. 2008;34(4 Pt 2):603-4. |
7) | 渡部,他.Personal communication.(第11回カンガルーケアミーティング ワークショップ追加コメント「生後早期のカンガルーケアの問題点」.2008) |
8) | Mori R, Khanna R, Pledge D, Nakayama T. A meta-analysis of physiological effects by skin-to-skin contact for newborns and mothers. Pediatr Int. 2009. [Epub ahead of print] DOI:10.1111/j.1442-200X.2009.02909.x |