(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第3章 本ガイドラインをさらによく理解していただくために |
1. | 関節リウマチ診療ガイドライン2014作成のための患者の価値観の評価 : 質問紙調査とフォーカスグループの利用 |
名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野准教授
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授 公益社団法人日本リウマチ友の会会長 |
小嶋 雅代
中山 健夫 長谷川三枝子 |
本ガイドラインに患者の価値観を反映するためのエビデンスを創出することを目的として,RA患者を対象とした「治療に対する意識に関する調査」を行った。本研究では,患者発のエビデンスをガイドラインに収載することにより,リウマチ専門医に患者の視点を尊重する姿勢を促すとともに,将来に向けてリウマチ専門医と患者の情報共有を推進するための指標を創出することを目指した。
EULARの「Treat to Target(T2T)=目標達成に向けた治療」の推奨文1) の第1文には,「RA治療は,患者とリウマチ専門医の合意に基づいて行われるべきである」との基本的な考え方が掲げられている。これを実現するには,単に治療についての説明を一通り行うだけではなく,合意形成を図るための「話し合う」という過程が不可欠であり,RA診療の場で改善に向けて具体的な取り組みが可能な項目である。そこで,本研究では自記式質問紙を用い,わが国のRA医療の現場において,医師と患者が「どれほど治療目標について話し合っているか」,「現在の医療に満足しているか」を把握することとした。さらに現在の医療に対する要望について,自由に記載できる欄を設け,患者のニーズ,価値観の把握を試みた。
近年,患者視点を重視した臨床指標の開発などでフォーカスグループが注目を集めている2)。フォーカスグループではモデレーターが話し合いの方向性を保ちつつ,参加者が自由に自発的に意見を述べるなかで一歩踏み込んだ意見や議論が生まれ,より豊富なデータを得ることができるため3),量的な把握の難しい価値観に関する情報の収集方法として最適である。そこで本研究では自記式質問紙を用いた質問紙調査に加え,関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会(以下,ガイドライン作成分科会)で重要とされた臨床上のトピックについてフォーカスグループインタビューを行い,推奨度決定のための患者の価値観や好みに関する情報を収集した。
EULARの「Treat to Target(T2T)=目標達成に向けた治療」の推奨文1) の第1文には,「RA治療は,患者とリウマチ専門医の合意に基づいて行われるべきである」との基本的な考え方が掲げられている。これを実現するには,単に治療についての説明を一通り行うだけではなく,合意形成を図るための「話し合う」という過程が不可欠であり,RA診療の場で改善に向けて具体的な取り組みが可能な項目である。そこで,本研究では自記式質問紙を用い,わが国のRA医療の現場において,医師と患者が「どれほど治療目標について話し合っているか」,「現在の医療に満足しているか」を把握することとした。さらに現在の医療に対する要望について,自由に記載できる欄を設け,患者のニーズ,価値観の把握を試みた。
近年,患者視点を重視した臨床指標の開発などでフォーカスグループが注目を集めている2)。フォーカスグループではモデレーターが話し合いの方向性を保ちつつ,参加者が自由に自発的に意見を述べるなかで一歩踏み込んだ意見や議論が生まれ,より豊富なデータを得ることができるため3),量的な把握の難しい価値観に関する情報の収集方法として最適である。そこで本研究では自記式質問紙を用いた質問紙調査に加え,関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会(以下,ガイドライン作成分科会)で重要とされた臨床上のトピックについてフォーカスグループインタビューを行い,推奨度決定のための患者の価値観や好みに関する情報を収集した。
公益社団法人日本リウマチ友の会(以下,日本リウマチ友の会)の協力を得て,20~30代(222名)の全会員と,全国都道府県別年齢層別に無作為抽出した40,50,60,70代会員各500名(計2,222名)に無記名質問紙を送付した。質問紙の表紙には調査の目的,方法のほか,調査への参加が任意であることを明記し,返信用封筒を同封した。主な調査内容は,①現在の主治医と治療目標について話し合ったことがあるか(「ある」/「説明を受けたことがある」/「どちらもない」の3択),②現在受けている医療にどのくらい満足しているか(100点満点で評価),③主治医,医療に希望すること(自由記載)の3点である。また100mmの線分の左端に「とてもよい0」,右端に「とても悪い100」と記し,「今日の全体的なRAの具合はどうですか?下線にしるしをつけてください。」と尋ね,左端からしるしの付けられた位置までの長さを定規で計り,Patient Global Assessment(PtGA)とした。
「現在受けている医療への満足度」の決定要因を探索するため,「満足度が81点以上か否か」を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い,各項目について基準となる回答に対する回答ごとのオッズ比(OR)を算出した。
「主治医,医療に希望すること」についてはすべての記載内容をコーディングし,コンセプトの抽出とカテゴリー化を行った4)。ガイドライン作成分科会で重要とされた臨床上のトピックと一致したコンセプト/カテゴリーについては,各治療の受け入れやすさ,主な要望について注意深く意見を抽出し,ばらつきの程度を大・小で評価した。
フォーカスグループは,5名の日本リウマチ友の会会員を対象に,2013年9月4日に実施した。全員に調査内容について説明し,書面による参加への同意を得た。研究分担者1名(小嶋)がファシリテーターを務め,ガイドライン作成分科会が選んだ臨床上重要なトピックについて,質問紙の分析結果が妥当かどうか,患者個人として抱く思い,期待,不安,治療を選択するうえでの判断基準など自由に語り合った後,各治療に対する評価を各自ワークシートに書き込むよう依頼し,その場で回収した。フォーカスグループの内容はICレコーダーに音声記録したものをテキスト化し,小規模データの質的分析に適した手法であるSteps for Coding and Theorization(SCAT)法5)を用いて分析した。
質問紙の自由記載欄およびフォーカスグループの内容の分析は2名の質的研究者が独立して行い,研究分担者1名(小嶋)が確認作業を行った。分析内容の不一致があった場合は3名で協議し決定した。
すべての研究計画は,名古屋市立大学大学院医学研究科倫理審査委員会の承認を得た後,実施した(受付番号850,860)。
「現在受けている医療への満足度」の決定要因を探索するため,「満足度が81点以上か否か」を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い,各項目について基準となる回答に対する回答ごとのオッズ比(OR)を算出した。
「主治医,医療に希望すること」についてはすべての記載内容をコーディングし,コンセプトの抽出とカテゴリー化を行った4)。ガイドライン作成分科会で重要とされた臨床上のトピックと一致したコンセプト/カテゴリーについては,各治療の受け入れやすさ,主な要望について注意深く意見を抽出し,ばらつきの程度を大・小で評価した。
フォーカスグループは,5名の日本リウマチ友の会会員を対象に,2013年9月4日に実施した。全員に調査内容について説明し,書面による参加への同意を得た。研究分担者1名(小嶋)がファシリテーターを務め,ガイドライン作成分科会が選んだ臨床上重要なトピックについて,質問紙の分析結果が妥当かどうか,患者個人として抱く思い,期待,不安,治療を選択するうえでの判断基準など自由に語り合った後,各治療に対する評価を各自ワークシートに書き込むよう依頼し,その場で回収した。フォーカスグループの内容はICレコーダーに音声記録したものをテキスト化し,小規模データの質的分析に適した手法であるSteps for Coding and Theorization(SCAT)法5)を用いて分析した。
質問紙の自由記載欄およびフォーカスグループの内容の分析は2名の質的研究者が独立して行い,研究分担者1名(小嶋)が確認作業を行った。分析内容の不一致があった場合は3名で協議し決定した。
すべての研究計画は,名古屋市立大学大学院医学研究科倫理審査委員会の承認を得た後,実施した(受付番号850,860)。
2013年8月12日から9月末日までの間に1,484通が返送された(回収率66.8%)。年齢不明3名,80歳以上3名などを除外し,1,470名を解析対象とした。自由記載欄の内容分析はすべての回答を対象とした。質問紙回答者の年齢,診断時の年齢,罹病期間,現在の主治医による治療年数,PtGA,現在受けている医療への満足度の平均値,SDを表1に示す。解析対象者のうち男性は5.9%(87名)で,すべての項目において有意な男女差はみられなかった。
1. 質問紙調査の集計分析結果
PtGA(図1)および医療への満足度(表2)の分布には大きな偏りがみられた。両者には有意な負の関連があり(順位相関係数= -0.46,p<0.001),PtGAの値が小さいほど医療への満足度が高い傾向がみられた。「現在の主治医と治療目標について話し合ったことがあるか」どうかは,主治医がリウマチ専門医である場合,話し合ったことがある患者の割合が有意に多く(図2-1),また罹患年数が17年以上26年未満の群では,他群に比べて話し合ったことも説明を受けたこともない患者の割合が多かった(図2-2)。
表3の左側のカラムに,各項目の回答の人数,割合を示す。全体の42.7%が「現在の主治医と治療目標について話し合ったことがある」と回答しており,罹病期間はほぼ均等に分布していた。86.9%がリウマチ専門医の治療を受けていた。1年前と比較した現在のRAの症状は「変わらない」との回答が半数近くを占めたが,「寛解した」が5.6%,「よくなった」が29.5%で,「悪くなった」との回答も19.3%あった。ACR/EULARの2010年寛解基準6)の1つである「PtGA が10分の1以下」を満たす患者は21.6%あった。「医療への高い満足度」と大きな関連を示した項目は,「現在のRAの症状が寛解」(1年前と変わらない場合の9倍),「今日の全体的なRAの具合(PtGA)が10以下」(それ以外の5倍),「現在の主治医と治療目標について話し合ったことがある」(話し合いも説明もない場合の3.6倍),「主治医がリウマチ専門医」(それ以外の2.3倍)であった。多変量解析を行い相互の影響について調整したところ,「寛解」,「PtGA」については関連が減弱したが(4.8倍,3.3倍),「治療目標について話し合ったことがある」,「主治医がリウマチ専門医である」ことについては,ほとんど変化がなかった(3.1倍,2.0倍)。
治療目標について,「話し合いも説明もない」場合に対する「説明を受けたことがある」場合のORは1.93で有意に高かったが,「話し合ったことがある」場合よりは小さく,「話し合ったことがあるvs説明を受けたことがある」の未調整ORは1.80(95%CI 1.40~2.31),調整ORは1.47(95%CI 1.12~1.92)で,いずれも統計学的に有意であった。
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表1 質問紙回答者の年齢,罹病期間,現在のPtGA,医療への満足度 | |
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図1 PtGAの分布 | 表2 現在受けている医療への満足度 |
図2-1 リウマチ専門医資格の有無と治療に関する話し合いの状況
図2-2 罹患年数と治療に関する話し合いの状況
表3 質問紙の回答別「医療への満足度が81点以上」となる見込み(OR)
※図2-1・図2-2・表3は、別ウィンドウで画像が表示されます。
2. 質問紙自由記載欄の分析
返送された質問紙総数1,476通のなかで,「主治医,医療に希望すること」に関する自由記載がない,もしくは「特になし」との記載があった207通を除き,残りの1,269通の記載内容をコード化し,コンセプトの抽出とカテゴリー化を試みた。これらのなかにはガイドライン作成分科会により臨床上重要として挙げられたトピックが網羅されており,今回のガイドラインの治療トピックが,患者の関心の高い項目であることが確認された。
表4に示すように,寄せられた意見の件数が多かったカテゴリーは,①主治医への要望,②医療経済,③bDMARD(生物学的製剤)についてであった。
また表5に示すように,件数が多かったサブカテゴリーは,①医療費が高い/安くしてほしい,② bDMARD(生物学的製剤)が高い/安くしてほしい,③主治医に(検査値,薬の効果,副作用など)もっと説明してもらいたい,④内科,整形外科,リハビリテーション科,その他の科や病院と診療所など,医師間の連携をとってもらいたい,⑤薬の副作用が辛い,不安,⑥主治医にもっと話を聞いてほしい,⑦待ち時間が長い/診療時間が短い,などであった。
各治療の受け入れやすさと要望については,bDMARD(生物学的製剤)については「著効」を訴える人が「無効」を上回り,また経済的理由や合併症・副作用などのため使用できないが,条件が整えば積極的に使いたいと思っている人が多数を占める状況が確認された。一方,現在使用できるbDMARD(生物学的製剤)は注射薬であるため,針を刺すのが嫌だ,錠剤にならないかという意見もあり,bDMARD(生物学的製剤)が全面的に受け入れられているわけではなかった。種類が多いので選択が難しい,遺伝子解析などを利用し確実に自分に合った薬剤を選びたい,という意見もあった。
MTX,ステロイドに関する記載はbDMARD(生物学的製剤)に比べると圧倒的に少なく,有用性に関する情報は得られなかった。
薬物療法全般について,患者間の価値観のばらつきは小さく,いずれも患者の多くは「できるだけ薬を使いたくない」という考えをもっており,長期服用による弊害を恐れ,効果と害に対する十分な説明を主治医に求めていた。しかしながら,薬剤の変更に関しては,「患者に選択肢をもたせてほしい」という意見に対し,「治療上の判断は医師主導がよい」という意見もあり,また「最新の治療を取り入れてほしい」という意見に対し,「現状維持希望/強い薬は不要」と回答する患者もいるなど,価値観のばらつきがみられた。
手術治療に関しては,侵襲性があり抵抗感も強いが,経験した患者は確かな効果を実感していた。「変形を治したい/変形が辛い」との訴えが全体で39件あり,整形外科治療のニーズは高いことが確認された。
リハビリ治療に関する要望は全体のサブカテゴリーのなかでも件数が多く,患者のニーズに対し十分対応できていない現状がうかがわれた。特に,内科・整形外科が連携し,発症後早期から術前・術後を含めた継続的なリハビリ治療を求める声が多く聞かれた。
診断と治療について,触診してほしい,患者の価値観,生活に合った治療を希望,長期的視野に立った治療方針が知りたいといった要望が多くみられた。
合併症および妊娠・出産についてはRA治療との両立が課題であり,よりきめ細やかな情報の提供,他科との連携を求める声が聞かれた。
医療経済面について,治療費に関する訴えは群を抜いて多く,特に高額なbDMARD(生物学的製剤)に対する公的補助の要望が多かった。
その他,生活面について,仕事との両立,患者間の情報交換の場の充実や生きがいを求めた社会参加への支援を求める声もあった。
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表4 | 質問紙の自由記載欄から抽出されたカテゴリー |
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表5 | 質問紙の自由記載欄から抽出されたサブカテゴリー |
3. フォーカスグループ
治療トピックごとに話し合ったところ,すべてのトピックについて,質問紙調査の分析結果は妥当であることが確認された。bDMARD(生物学的製剤)の登場は,csDMARD(従来型抗リウマチ薬)と違い,効果が実感できる画期的な薬剤として好意的に受け止められている一方,高額である,感染症および癌を誘発する可能性があるなど,長期使用に伴う不安は大きく,どういう状態になったら休薬できるのか,寛解基準を明確にしてほしいとの要望が出された。MTX,ステロイド,その他の薬物療法については,質問紙調査では抽出できなかった有用性が確認された。MTXについてはそれ以外のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)に比べ,絶対的な抗炎症効果が実感でき,ステロイドは他の薬剤が使用できない場合の抗炎症薬として不可欠であり,それぞれの薬剤について,患者が有用性を正しく理解できるよう,期待される効果,使用方法,副作用について十分説明する必要があることが指摘された。
フォーカスグループのなかで,「治療法に対する好み(preference)」という表現への抵抗感が示された。RAにおいては,リハビリテーションを除くすべての治療法において強い副作用もしくは侵襲性があり,「好む」ものではない。納得,共感,賛同といった表現が適切ではないか,との提案があった。これに従い本調査では,治療法に対する「好み」ではなく,「賛同の程度」を5段階で評価することとした。5名の参加者の各治療法の評価の平均は2.0前後であったが,リハビリテーションについては全員が一致して「賛同する1.0」と評価した。
表6に,質問紙調査とフォーカスグループより得られた各治療の受け入れやすさと価値観のばらつきをまとめて示す。
表6 質問紙調査の自由記載欄とフォーカスグループから得られた各治療の受け入れやすさと
患者の価値観のばらつき
※別ウィンドウで画像が表示されます。
本調査により,ガイドライン作成分科会で取り上げられた治療トピックはいずれも患者の関心が高く,患者間の価値観のばらつきは小さいことが確認された。また,RA患者が抱く医療への満足度は,現在の症状が1年前よりも改善されていること,全体的なRAの具合がよいこと,リウマチ専門医による治療を受けていること,そして主治医と治療目標について話し合っていることが,それぞれ独立して関連していた。
診療ガイドラインの策定に患者の価値観を反映させることは,現在国際的にも必須となっており7),ACR,EULARにおいても,複数の患者代表がガイドライン作成委員会に参加している8)9)。患者の価値観に関する情報の集約方法として確立されたものはないが,今回のように大規模な質問紙調査を行い,医療への要望に関する自由記載内容から患者のニーズ,価値観を汲み取ろうとする試みは従来にない新しいかたちといえる。トピックを限定せず開放型質問を用いて広く意見を求める方法は,患者のニーズ,関心をありのままに捉えることができる反面,リウマチ専門医が重要と考える治療上の問題に対して患者の関心が高くない場合,必要な情報を十分把握できない恐れがある。実際に本質問紙調査では,MTXとステロイドに関する記述がほとんど得られず,トピックを指定したフォーカスグループによる補完が不可欠であった。2010年刊行の「リウマチ白書」によれば,MTXは日本リウマチ友の会会員の80.4%が,ステロイドも57.5%が処方を受けていると報告されており10),2012年発表の東京女子医科大学のデータにおいても,MTXは受診患者の75%が,ステロイドも4割弱が使用していた11)。あまりに身近な薬剤であるために患者の関心が低く,質問紙調査では話題に上がらなかったと考えられる。今回は質問紙調査を先に行い,自由記載欄の分析結果について,フォーカスグループで確認するという方法をとったが,フォーカスグループを先行させ,各治療トピックに関するインタビューの分析結果をもとに選択肢を設け,価値観のばらつきを質問紙調査で量的に評価するという方法も考えられる。あらかじめ検証すべきトピックに対する反応に大きなばらつきが想定されるような場合には,フォーカスグループの後に質問紙調査で確認する方法が適するであろう。
質問紙調査,フォーカスグループを通して改めて明らかになった点として,患者にとって治療とは手放しで受け入れられるものではなく,メリットとデメリットのトレードオフの結果,選択されるものであるということである。治療の最終的な決定権を患者がもつべきか,主治医がもつべきかについては価値観のばらつきがみられたが,長期的視点に立ってどのような治療法が考えられるのか,どのような効果が期待されるのか,心配される副作用にはどのようなものがあるのか,またどのような対処方法が考えられるのかなど,医師から十分な説明を受け,納得し合意のうえで決めたいとの願いは,多くの患者に共通のものであった。
今回の調査において,「主治医と治療目標について話し合ったことがある」と回答した患者は,単に説明を聞いたことがある患者に比べ,医療への満足度が有意に高いことが明らかになった。この背景として,わが国の医療文化においては,患者が医師から「説明を受けること」と「話し合うこと」の間にギャップがあり,その差が患者間の医療への満足度の違いを生じさせる要因の1つとなっている可能性がある。今回の調査において,主治医と治療目標について話し合ったことがある患者は全体の42.7%であったが,本ガイドラインがRA診療の場に浸透することにより,すべてのリウマチ専門医が担当患者と治療目標について話し合い,両者の合意のもとにT2T12)が実践されるようになることを強く願う。
References