(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧 |
エビデンスのまとめ |
CQ ナンバー | 86 | 担当者 | 遠藤平仁 |
カテゴリー | 合併症・妊娠・授乳1 | ||
CQ | 自己免疫疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | ||
推奨文 | 合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する。 | 推奨の強さ | 強い | 同意度 | 4.72 |
解説 | RAには他の膠原病が重複する症例や抗核抗体などの自己抗体陽性例が存在する。このような症例にcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)を適応することの有用性と安全性を考慮したランダム化比較試験による介入試験はない。一方,TNF阻害薬により全身性エリテマトーデスや血管炎を誘発する報告もある。しかし,TNF阻害薬以外のbDMARD(生物学的製剤)により他の自己抗体や自己免疫疾患を誘発した報告はなく,有用性や副作用に関する報告もない。多くのbDMARD(生物学的製剤)やcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)の臨床治験の際に膠原病との重複症例は除外されており,リスクに関するエビデンスは評価できない。csDMARD(従来型抗リウマチ薬)についても自己免疫疾患誘発についての症例報告は存在するが,関連性を評価できる報告はない。また多くは欧米からの報告であり,わが国からのエビデンスはない。新たな知見からリスクについての評価基準と適応すべき治療の選択根拠について検討した報告が待たれる。現時点では十分なエビデンスはないために,膠原病の要素を認めるRA患者に対しては定期的に自己抗体,身体所見をモニタリングし治療適応を決定すべきである。 | ||
Q | 自己免疫疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | ||
A | 自己免疫疾患あるいは合併を示唆する自己抗体を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)投与の有効性や安全性は確立していないため,投与する必要がある場合は慎重にリスクとベネフィットを考慮して行うべきである。 |
エビデンスサマリー
エビデンスとして引用可能なコクランレビューはない。
1980〜2012年の間でPubMed,医学中央雑誌の検索を行い,検索式から得られたタイトルとアブストラクトから採用した論文数,構造化抄録を作成した論文数は,それぞれPubMedの検索数123件,構造化抄録数2件,医学中央雑誌の検索数21件,構造化抄録数0件である。
自己免疫疾患を有するRA患者に対してTNF阻害薬(インフリキシマブ(INF)あるいはエタネルセプト(ETN))が有効かつ安全かを検討した報告がある。RAのコホート322症例のうち抗Ro/SSA抗体を有する17症例と陰性305症例にINFあるいはETNを投与し,36ヵ月まで経過観察するTNF阻害療法を行った。DAS28は2群間で有意差がなかった。しかし抗DNA抗体陽性率は抗Ro/SSA抗体陽性群で高率であり,lupus様症状の出現率は高い(p=0.012)(Cavazzana I, et al. Clin Exp Rheumatol.2007;25:676-683,エビデンスレベル:very low)。同様にTNF阻害療法(INF,ETN)で自己抗体の誘導が有意に増加したと報告された(Fusconi M, et al. Rheumatol Int. 2007;28:47-49)。しかし長期観察やランダム化割り付け試験はなく,また多くの臨床試験は自己免疫疾患合併RA症例は除外されており,エビデンスは確認できない。他のbDMARD(生物学的製剤)における同様の有効性,安全性を確認したエビデンスはない。DMARDのなかでサラゾスルファピリジンはlupus様症状が誘発された症例報告が認められる。200症例のRAをオーラノフィン群とサラゾスルファピリジン群にランダムに2群に分け5年以上の前向き調査を行ったが,抗核抗体誘導とlupus様症状において差がなかった(Gordon MM, et al. Ann Rheum Dis. 1999;58:288-290,エビデンスレベル:very low)。RAにおいて抗核抗体など自己抗体陽性例が存在し,またDMARD治療中に抗体価上昇や新たに出現する症例があるが,lupus様症状出現とは並行しておらず,lupus様症状誘発の危険予測や治療中断基準ではない(Gordon MM, et al. Ann Rheum Dis. 1999;58:288-290,エビデンスレベル:very low)。現在までエビデンスの高い研究はなくDMARDによる新たな自己免疫疾患誘発の危険予測をする方法はない。
自己抗体を伴うRA患者に対するbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性は確認できていないため慎重に投与すべきである。特に抗SSA抗体などの自己抗体陽性例へのbDMARD(生物学的製剤),TNF阻害薬投与は全身性エリテマトーデス様症状の誘発に注意する。投与を考える場合,リスクとベネフィットを考慮して行うべきである。
1980〜2012年の間でPubMed,医学中央雑誌の検索を行い,検索式から得られたタイトルとアブストラクトから採用した論文数,構造化抄録を作成した論文数は,それぞれPubMedの検索数123件,構造化抄録数2件,医学中央雑誌の検索数21件,構造化抄録数0件である。
自己免疫疾患を有するRA患者に対してTNF阻害薬(インフリキシマブ(INF)あるいはエタネルセプト(ETN))が有効かつ安全かを検討した報告がある。RAのコホート322症例のうち抗Ro/SSA抗体を有する17症例と陰性305症例にINFあるいはETNを投与し,36ヵ月まで経過観察するTNF阻害療法を行った。DAS28は2群間で有意差がなかった。しかし抗DNA抗体陽性率は抗Ro/SSA抗体陽性群で高率であり,lupus様症状の出現率は高い(p=0.012)(Cavazzana I, et al. Clin Exp Rheumatol.2007;25:676-683,エビデンスレベル:very low)。同様にTNF阻害療法(INF,ETN)で自己抗体の誘導が有意に増加したと報告された(Fusconi M, et al. Rheumatol Int. 2007;28:47-49)。しかし長期観察やランダム化割り付け試験はなく,また多くの臨床試験は自己免疫疾患合併RA症例は除外されており,エビデンスは確認できない。他のbDMARD(生物学的製剤)における同様の有効性,安全性を確認したエビデンスはない。DMARDのなかでサラゾスルファピリジンはlupus様症状が誘発された症例報告が認められる。200症例のRAをオーラノフィン群とサラゾスルファピリジン群にランダムに2群に分け5年以上の前向き調査を行ったが,抗核抗体誘導とlupus様症状において差がなかった(Gordon MM, et al. Ann Rheum Dis. 1999;58:288-290,エビデンスレベル:very low)。RAにおいて抗核抗体など自己抗体陽性例が存在し,またDMARD治療中に抗体価上昇や新たに出現する症例があるが,lupus様症状出現とは並行しておらず,lupus様症状誘発の危険予測や治療中断基準ではない(Gordon MM, et al. Ann Rheum Dis. 1999;58:288-290,エビデンスレベル:very low)。現在までエビデンスの高い研究はなくDMARDによる新たな自己免疫疾患誘発の危険予測をする方法はない。
自己抗体を伴うRA患者に対するbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性は確認できていないため慎重に投与すべきである。特に抗SSA抗体などの自己抗体陽性例へのbDMARD(生物学的製剤),TNF阻害薬投与は全身性エリテマトーデス様症状の誘発に注意する。投与を考える場合,リスクとベネフィットを考慮して行うべきである。
エビデンスの質 (GRADE) |
very low |
該当するコクランレビュー | なし |
書誌情報 | |
DOI |