(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 85 担当者 遠藤平仁
カテゴリー 合併症・妊娠・授乳1
CQ 内分泌代謝疾患,特に糖尿病を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か?
推奨文 合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する。
推奨の強さ 強い 同意度 4.72
解説  RA患者に合併する内分泌代謝疾患のなかで糖尿病が最も多く関係が論じられており,他の内分泌疾患に関する報告は僅少である。糖尿病は冠動脈疾患や脳血管障害の主要なリスク因子である。したがって糖尿病合併RA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)による治療介入は糖尿病の病態の悪化を伴うことなく,関節炎を改善することが重要である。当然,ステロイド療法は糖尿病悪化の誘因になるが,ステロイドの短期一時投与では大量投与でも耐糖能異常の誘発はないと報告されている。しかし糖尿病のあるRA患者には糖尿病治療を行ったうえでRAを治療すべきである。bDMARD(生物学的製剤),csDMARD(従来型抗リウマチ薬)のなかでタクロリムスは添付文書上,糖尿病および糖尿病の悪化(0.1〜5%未満),高血糖(15%以上)を生じることがあると記載されているが,市販後調査では3,172名中1.5%,欧米では0.1%と頻度は少ない。しかし,投与開始時に糖尿病の疑いのある患者は除外されているためバイアスがあることが考えられ,耐糖能異常のあるRA患者にタクロリムスを投与する場合は注意する必要がある。糖尿病は冠動脈疾患や感染症の危険因子であり,治療薬選択の際に必要な検査を行い,もし糖尿病があれば糖尿病専門医と連携のうえ治療すべきである。
Q 内分泌代謝疾患,特に糖尿病を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か?
A 糖尿病を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)の投与は,タクロリムスには耐糖能異常惹起の副作用があるが,他のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)は耐糖能異常を誘発することはない。しかし,糖尿病は動脈硬化性疾患,易感染のリスク因子であり,RA治療に際し全身的な管理を怠らないようにすべきである。


  エビデンスサマリー
エビデンスとして引用可能なコクランレビューはない。
 1980〜2012年までのPubMed,医学中央雑誌の検索結果は,検索式から得られた論文数はPubMed108件,医学中央雑誌118件中タイトルとアブストラクトから採用した論文数はPubMed 5件,医学中央雑誌2件であり,構造化抄録はPubMed 3件,医学中央雑誌1件について作成した。
 糖尿病合併RAに対してbDMARD(生物学的製剤)を投与しRA疾患活動性とともに糖尿病や予後を検討したランダム化割り付け試験はない。糖尿病は多くの臨床治験において組み入れ基準になっており除外され評価されていないことが多い。症例対照試験において,TNF阻害薬投与群では非投与群と比較し糖尿病リスクが51%減少する(Antohe JL, et al. Arthritis Care Res(Hoboken). 2012;64:215-221,エビデンスレベル:very low)。DMARD投与例とTNF阻害薬投与例の比較ではTNF阻害療法が糖尿病リスクを低下させることが報告されている(Solomon DH, et al. JAMA. 2011;305:2525-2531,エビデンスレベル;very low)。TNF阻害薬がインスリン抵抗性を改善する報告がある一方,否定する報告もある(Ferraz-Amaro I,et al. Horm Metab Res. 2011;43:801-808,Rosenvinge A, et al. Scand J Rheumatol. 2007;36:91-96,エビデンスレベル:very low)。少なくともbDMARD(生物学的製剤)が糖尿病の増悪因子になることはない。しかしランダム化割り付け試験にて糖尿病について介入した試験はない。ステロイド治療はRAにおける糖尿病誘発の主なる原因であるが(今村秀基,他.臨と研.2008;85:1181-1183,エビデンスレベル:very low),ステロイド一時投与による耐糖能への影響はなく,抗炎症効果がある(den Uyl D,et al. Arthritis Rheum. 2012;64:639-646,エビデンスレベル:very low)。ブシラミンについて,重症糖尿病への影響と治療効果を確認した報告があるが2症例の症例報告である(尾崎承一,他.臨リウマチ.1992; 3:309-315,エビデンスレベル:very low)。他の内分泌疾患を合併したRAに対する治療については検討された報告がない。欧米からはRAにおける糖尿病の頻度,肥満の合併,RA疾患活動性との関連についての報告があるが,日本からの報告はない。COMORA研究でRAと糖尿病との合併率は17ヵ国3,522名中3.7%であった(Dougados M, et al. Ann Rheum Dis. 2014;73:62-68)。日本のRAと糖尿病との合併率は不明である。csDMARD(従来型抗リウマチ薬)についてはタクロリムスにおいて耐糖能異常,糖尿病との関連が記載されているが,頻度,糖尿病誘発率は明確に解明されてはいない。日本の市販後調査ではタクロリムス投与3,172例中糖尿病1.5%であったが,事前に耐糖能異常患者は投与を回避されていると考えられ実際の合併率は不明である。他の内分泌疾患を合併したRAに対する治療について検討されたエビデンスはない。
 以上より,糖尿病治療におけるTNF阻害療法は糖尿病の悪化の誘因にはならない。RA治療における耐糖能異常を惹起するステロイド,タクロリムス使用には注意する必要がある。糖尿病は易感染性,動脈硬化性疾患など多くの全身性疾患の増悪因子である。定期的な糖尿病についての検査を行い,糖尿病専門医と連携し治療にあたる必要がある。
エビデンスの質
(GRADE)
very low
該当するコクランレビュー なし
書誌情報
DOI

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す