(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧 |
エビデンスのまとめ |
CQ ナンバー | 76 | 担当者 | 伊藤 宣 |
カテゴリー | 手術10 | ||
CQ | bDMARD(生物学的製剤)投与は,RA患者の整形外科手術において創傷治癒遅延を増やすか? | ||
推奨文 | bDMARD(生物学的製剤)投与下における整形外科手術では創傷治癒遅延に注意することを推奨する。 | 推奨の強さ | 弱い | 同意度 | 4.59 |
解説 | 創傷治癒のメカニズムの研究から,サイトカインは創傷治癒に重要であることがわかっており,bDMARD(生物学的製剤)の登場以降,bDMARD(生物学的製剤(特にサイトカイン阻害薬))の投与により,創傷治癒遅延が増加するのではないかとの危惧がある。しかし,これまでこの点について報告した論文は少ない。今回の文献渉猟により,bDMARD(生物学的製剤)投与は,RA患者の整形外科手術において,創傷治癒遅延の発生率を増加させるとのエビデンスは得られなかった。しかし,いずれの報告も手術件数自体が少ないため十分なエビデンスがあるとはいえず,また創傷治癒遅延と表層感染との区別に曖昧さがあることから,発生率の扱いには留意が必要である。また対照群のない報告で,日常診療でみられるよりも多いと考えられる創傷治癒遅延発生率を報告している論文があり,創傷治癒遅延の発生には一定の注意を払う必要があると考えられる。 | ||
Q | bDMARD(生物学的製剤)投与中のRA患者に対し手術を行うことは,bDMARD(生物学的製剤)を投与していないRA患者に対し手術を行うよりも,創傷治癒遅延が多いか? | ||
A | RA治療におけるbDMARD(生物学的製剤)の投与は,整形外科手術における創傷治癒遅延の発生率を増加させるとのエビデンスはない。しかし,十分なエビデンスがあるとはいえず,創傷治癒遅延には一定の注意を払う必要がある。 |
エビデンスサマリー
CQに該当するコクランレビューは報告されていない。したがって,1998~2012年8月までのRAの整形外科手術におけるbDMARD(生物学的製剤)投与,非投与患者のSSI発生率に関する論文を渉猟し(70論文),さらにその後2013年12月までにPubMed上に発表された重要と思われる1論文を追加し,① RAに対する整形外科手術における創傷治癒遅延の発生率について述べている論文, ② bDMARD(生物学的製剤)投与群と非投与群の比較論文を選択し,6論文の構造化抄録を作成した。医学中央雑誌検索では100論文を渉猟した。
その結果,bDMARD(生物学的製剤)を投与しているRA患者に対し,整形外科手術を行った場合,創傷治癒遅延の発生率は0~5.4%であり,非投与群の発生率0~6.8%と比較して,同等である(Bibbo C, et al. 2004, den Broeder AA, et al. 2007, Hirao M, et al. 2009, Hirano Y, et al. 2010, Kubota A, et al. 2012),との結果を得た。しかし,日本から発表された論文で,トシリズマブを投与した患者における整形外科手術161例の多施設研究で,創傷治癒遅延が12.4%に発生したとの報告がある(Momohara S, et al. 2013)。対照群のない研究であるが,通常経験する創傷治癒遅延より明らかに多いと考えられ,注目に値する。
すべて観察研究であり,前向き研究は1つ,多施設研究も1つのみである。創傷治癒遅延の定義は論文によって統一されていないことに注意が必要である。また薬剤については,多くの論文がTNFα阻害薬についての報告であり,IL-6阻害薬についてのエビデンスは少なく,T細胞機能阻害薬については皆無である。
その結果,bDMARD(生物学的製剤)を投与しているRA患者に対し,整形外科手術を行った場合,創傷治癒遅延の発生率は0~5.4%であり,非投与群の発生率0~6.8%と比較して,同等である(Bibbo C, et al. 2004, den Broeder AA, et al. 2007, Hirao M, et al. 2009, Hirano Y, et al. 2010, Kubota A, et al. 2012),との結果を得た。しかし,日本から発表された論文で,トシリズマブを投与した患者における整形外科手術161例の多施設研究で,創傷治癒遅延が12.4%に発生したとの報告がある(Momohara S, et al. 2013)。対照群のない研究であるが,通常経験する創傷治癒遅延より明らかに多いと考えられ,注目に値する。
すべて観察研究であり,前向き研究は1つ,多施設研究も1つのみである。創傷治癒遅延の定義は論文によって統一されていないことに注意が必要である。また薬剤については,多くの論文がTNFα阻害薬についての報告であり,IL-6阻害薬についてのエビデンスは少なく,T細胞機能阻害薬については皆無である。
エビデンスの質 (GRADE) |
very low |
該当するコクランレビュー | なし |
書誌情報 | |
DOI |