(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 70 担当者 伊藤 宣,小嶋俊久
カテゴリー 手術4
CQ 人工膝関節全置換術はRA治療において有用か?
推奨文 RA患者の膝関節障害に対する人工膝関節全置換術を推奨する。
推奨の強さ 強い 同意度 4.84
解説  RAの膝関節障害に対し,人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty;TKA)によって膝関節の機能が著明に改善するとする報告は非常に多い。また10~15年の生存率も81. 9~100%ときわめて良好である。さらに,膝関節に対してTKAを行うと,当該関節のみならず,RA自体の疾患活動性の低下や,全身の機能障害が改善する例をしばしばみかける。今回の調査で,文献上でもその効果が明らかとなった。強い膝関節障害を呈するRAにおいては,TKAを行えば,膝関節機能の著明な改善効果だけでなく,全身の疾患活動性を低下させ,健康状態を改善させる効果も期待できる。ただし,膝関節障害が強くても関節破壊が少ない患者において,薬物療法の強化,関節注射などの補助的治療法,滑膜切除術,TKAのいずれがよいのかについてのエビデンスはなく,現時点では年齢や機能障害の程度,関節破壊の程度などに応じて,症例ごとに検討すべきであると考えられる。また,変形性関節症や骨壊死で適応のある骨軟骨移植術,高位脛骨骨切り術,単顆型人工関節などは,RA患者には一般的には適応がないと考えられる。しかしRAに対する薬物療法の進歩により,疾患活動性および関節破壊が抑制される傾向から考えて,RAの罹病期間が短く,疾患活動性が低い症例においては,変形性関節症と同様の適応で施行することも可能と考えられるが,今後の検討課題である。また将来的な再生医療の適応にも注目が集まる。
Q RA患者の膝関節障害に対して,人工膝関節全置換術を行うと,長期的に膝関節および全身の機能は改善するか?
A 人工膝関節全置換術は長期にわたり安定した成績が期待でき,かつ健康状態を改善する。疾患活動性や治療コストを下げ,薬物療法との相乗効果も期待でき,有用である。


  エビデンスサマリー
CQに該当するコクランレビューは報告されていない。したがって,1998~2012年までのRAの膝関節障害に対するTKAの論文を渉猟し(147論文),さらに重要と思われる3論文を追加し,①疾患活動性,HAQ,全身健康状態に対する評価を行っているもの,②多施設共同研究ないしレジストリからの論文,③ RAに限ったTKAの論文あるいはRAの割合が50%を超えるTKAの論文で,かつ再置換をエンドポイントとする10年以上の生存率が述べられた論文を選択し,21論文の構造化抄録を作成した。医学中央雑誌検索では252論文を渉猟した。
 その結果,① RAに対するTKAは術後1~5年にかけて疾患活動性(DAS28)を下げ,健康状態(AIMS 2,SF-36,EQ-5D)を改善させ,治療コストを下げる一方,HAQは改善させないとする報告が多い(March LM, et al. 2008,Osnes-Ringen H, et al. 2009, Yano K, et al. 2010,Momohara S, et al. 2011, Hayashi M, et al. 2012,Benoni AC, et al. 2012),② TKAのレジストリでは,RAに対するTKAの10年生存率は95%程度である(Robertsson O, et al. 1997, Himanen AK, et al. 2005),③ RAに対するTKAにおいて,10~15年の生存率は81.6~100%である(Shiga H, et al. 1998,Schai PA, et al. 1999, Gill GS, et al.2001, Rodriguez JA, et al. 2001, van Loon CJ, et al. 2001,Meding JB, et al. 2004, Crowder AR, et al. 2005, Trieb K, et al. 2008, Miller MD, et al. 2011, Woo YK, et al. 2011), との結果を得た。
 RAに対するTKAは,その長期成績はきわめて安定しており,かつ当該関節機能だけでなく健康状態も改善し,疾患活動性,治療コストも下げることが報告されているため,多面的な改善効果があり薬物療法効果との相乗効果も期待でき,強く勧めることができる治療法といえる。一方,HAQによる全身的機能評価では,歩行能力の改善は認められるものの,総合点としては改善効果は認めないとする報告が多い。その理由として,手術が比較的高齢者に行われることが多く,経年的な全身機能,特に上肢機能の低下傾向を打ち消すほどではなかったことや,より細かい機能改善を示すことができなかったことが考えられる。
エビデンスの質
(GRADE)
moderate
該当するコクランレビュー なし
書誌情報
DOI

 
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