(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 59-65 担当者 岸本暢将
カテゴリー bDMARD(生物学的製剤) 7
CQ アバタセプトはRA治療において有効かつ安全か?
推奨文 疾患活動性を有するRA患者に対してアバタセプト投与を推奨する。ただし個々の患者のリスクとベ ネフィットを勘案して適応を決めるべきである。
推奨の強さ 強い 同意度 4.94
解説  アバタセプトは従来のサイトカインをターゲットにした薬剤とは作用機序が異なり,抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを阻害することでT細胞の活性化を調節し,下流の炎症性サイトカインやメディエーターの産生を抑制する薬剤(T細胞副刺激モジュレーター(T-cell co-stimulation modulator)と呼ばれる)として,米国では2005年に認可され,わが国では5番目のbDMARD(生物学的製剤)として2010年に認可され使用できるようになった。
 また,bDMARD(生物学的製剤)のなかでの製剤選択および症例選択はいまだ検討中の課題であり,また安全性に関するエビデンスレベルは有効性に関するエビデンスと比べいまだ十分とはいえず,個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を慎重に決定するべきであることを強調したい。
Q ①アバタセプトはRAの疾患活動性制御に有効か?
②アバタセプトはRAの関節破壊制御に有効か?
③アバタセプトはRAの機能障害制御に有効か?
④アバタセプトはRA患者に使用した際,有害事象による薬剤中止を増加させるか?
⑤アバタセプトはRA患者に使用した際,重篤な有害事象を増加させるか?
⑥アバタセプトはRA患者に使用した際,感染症を増加させるか?
⑦アバタセプトはRA患者に使用した際,死亡を増加させるか?
A ①有効である。
②有効である。
③有効である。
④増加させるとはいえない。
⑤増加させるとはいえない。
⑥増加させるとはいえない。
⑦増加させるとはいえない。


  エビデンスサマリー
コクランレビューにおいては,アバタセプト(ABT)に関するRCTは全部で7つ選ばれ,3つがABT/MTX併用療法とMTX療法の比較, 1つがABT/DMARD併用療法とDMARD療法の比較,1つがABT単剤療法とプラセボとの比較,1つがABT/bDMARD(生物学的製剤)併用療法とABT/DMARD併用またはDMARD単剤療法との比較,1つがABT/エタネルセプト(ETN)併用療法とETN単剤療法の比較の合計2,908名のRA患者(ABT群1,863名,プラセボ群1,045名)が対象とされた。Risk of biasの評価では,7つのRCTすべてがlow risk of biasと判断された。

 疾患活動性制御については,選択された7つのRCTにおいて,臨床症状や身体機能の改善効果が示されている。このうち3つのRCT合計993名の検討で,治療開始1年後におけるACR50改善率はABT群(ABT 2 or 10mg/kg+DMARD/bDMARD(生物学的製剤))37.1%,プラセボ群(プラセボ+DMARD/bDMARD(生物学的製剤))16.8% で,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Fixed,95%CI)は2.21(1.73~2.82)でありABT群で有意に高く,ABT使用におけるACR50改善達成のNNTBは5であった。同様に,12ヵ月後の低疾患活動性(DAS28<3.2)達成率(1試験638名で検討)も42.4 vs 9.8%で,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Fixed,95%CI)は4.33(2.84~6.59)でありABT群で有意に高く,ABT使用における低疾患活動性(DAS28<3.2)達成のNNTBは4であった。

    関節破壊制御については,上記7つのRCTのなかで1つのRCT(AIM試験:MTX抵抗性RA 合計586名)において関節破壊進行抑制効果について検討が行われた。ABT群(ABT+MTX)はプラセボ群(MTX)に比して12ヵ月時点での関節破壊進行を有意に抑制した(TGSSのベースラインからの変化:0.25 vs 0.53,p=0.012,erosion scoreベースラインからの変化:0.0 vs 0.27,p=0.029)。

    機能障害制御については,上記コクランレビューの7つのRCTのなかで1つのRCT(AIM 試験:MTX 抵抗性RA合計586名)において身体機能障害改善効果について検討が行われた。ABT群(ABT+MTX)はプラセボ群(MTX)に比して12ヵ月時点での身体機能障害を有意に改善し(平均HAQ-DI ベースラインから0.3以上改善した症例の割合:ABT群63.7% vs プラセボ群39.3%,relative effect:RR(95%CI)4.33(2.84~6.59)),ABT治療により上記HAQ改善を達成するNNTBは4であった。

   有害事象による薬剤中止については,上記コクランレビューの薬剤中止総数(3,6,12ヵ月を含む)はABT群がプラセボ群と比較して有意に低く(RR(M-H,Fixed,95%CI) 0.60(0.52~0.70)),副作用による薬剤中止(6,12ヵ月を含む)は同等であった(RR(M-H,Fixed,95%CI) 1.30(0.91~1.85))。

   全有害事象および重篤な有害事象については,上記コクランレビューでは有害事象の総数(6,12ヵ月の研究を合わせた総合解析)は5つのRCT合計2,871名において,ABT群で若干リスク増加を認めた(Peto OR(M-H,Fixed,95%CI)1.05(1.01~1.08))。しかし,6,12ヵ月の研究を合わせた統合解析の場合,重篤な副作用,重篤な感染症,副作用による薬剤中止,悪性腫瘍,死亡などの有害事象の増加はみられなかった。ただし,個々の副作用をみると咳,吐き気,眩暈,下痢などの副作用はプラセボ群に低い傾向があり,頭痛(RR(M-H,Fixed,95%CI)1.45(1.20~1.74))および24時間以内の投与時反応(RR(95%CI)1.30(1.13~1.50))はABT群に有意にリスク増加がみられた。
   重篤な有害事象(6,12ヵ月の研究を合わせた統合解析)は6つのRCT合計3,151名において,プラセボ群と比較しABT群で特にリスク増加はみられていない(Peto OR (M-H,Fixed,95%CI)1.05(0.86~1.29))。しかし,ABTを他のbDMARD(生物学的製剤)と併用した場合には疾患活動性改善効果に有意差はなく,重篤な有害事象が増加した(RR(95%CI)2.30(1.15~4.62))ため,bDMARD(生物学的製剤)の併用は勧められない。
   また,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでも,5つの研究(2,052名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してABT群の重篤な有害事象発症のOR(95%CI)は0.89(0.61~1.26)と特にリスク増加は認めなかった。

   感染症については,上記ABTのコクランレビューでは治療開始12ヵ月(6ヵ月の研究は含めない)の重篤な感染症の検討が3つのRCT合計2,214名で行われ,ABT群にリスク増加がみられたが(Peto OR(M-H,Fixed,95%CI)1.91(1.07~3.42)),6,12ヵ月の研究を合わせた統合解析の場合,PetoOR(M-H,Fixed,95%CI)1.56(0.93~2.61)と有意差は認められなかった。これはETNとABTの併用試験(Weinblatt M, et al. Ann Rheum Dis. 2007;66:228-234)の影響があり,この試験を除くとORは下がりPeto OR(M-H,Fixed,95%CI)は1.82(1.00~3.32)であった。
   また,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)のコクランレビューでは,5つの研究(2,052名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してABT群の重篤な感染症発症のOR(95%CI)は0.97(0.40~2.31)と特にリスク増加は認めなかった。結核再活性化に関しては,症例数が少なくbDMARD(生物学的製剤)全体でプラセボ群と比較した場合,OR(95%CI)4.68(1.18~18.60)と増加を認めている。個々の薬剤の結核発症リスクに関しては今後の長期試験での検討が必要である。
   以上より,ABT群がプラセボ群と比較して重篤な感染症を明らかに増加させる根拠はなかった。

   死亡については,上記コクランレビューの7つのうち6つのRCT 合計3,105名の患者で,ABT群(ABT 2 or 10mg/kg+DMARD/bDMARD(生物学的製剤))とプラセボ群(プラセボ+DMARD/bDMARD(生物学的製剤))を比較した場合,最大で12ヵ月のフォローアップであるが,特にABT群に死亡リスク増加は認められなかった(Peto OR(M-H,Fixed,95%CI)0.82(0.26~2.60))。

   以上より,コクランレビューにおいて,ABTはMTX併用療法において,プラセボ群と比較し疾患活動性制御,関節破壊制御,機能障害制御のいずれに対しても明らかに良好な効果をもたらすことが示され,安全性に関しては全有害事象の増加を認める一方,有害事象による薬剤中止,重篤な有害事象,感染症,死亡のいずれも明らかに増加させるとはいえないことが示唆された。

   さらに,コクランレビューで選定された期間2009年1月以降に発表された文献についてもPubMedおよび 医学中央雑誌を検索しそれぞれ14,16の研究がヒットした。いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,上記結論は不変であった。
エビデンスの質
(GRADE)
high
該当するコクランレビュー あり
書誌情報1 Maxwell L, Singh JA. Abatacept for rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2009, Issue 4 .
DOI 10.1002/14651858.CD007277. pub 2
書誌情報2 Singh JA, Wells GA, Christensen R, Tanjong Ghogomu E, Maxwell L, MacDonald JK, Filippini G, Skoetz N, Francis DK, Lopes LC, Guyatt GH, Schmitt J, La Mantia L, Weberschock T, Roos JF, Siebert H, Hershan S, Cameron C, Lunn MPT, Tugwell P, Buchbinder R. Adverse effects of biologics:a network metaanalysis and Cochrane overview. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011, Issue 2 .
DOI 10.1002/14651858.CD008794. pub 2

 
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