(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 52-58 担当者 岸本暢将
カテゴリー bDMARD(生物学的製剤) 6
CQ トシリズマブはRA治療において有効かつ安全か?
推奨文 疾患活動性を有するRA患者に対してトシリズマブ投与を推奨する。ただし個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を決めるべきである。
推奨の強さ 強い 同意度 4.94
解説  トシリズマブはわが国で世界に先駆けて2008年に発売されたIL-6受容体拮抗薬であり,わが国からの有効性,安全性のエビデンスが豊富なbDMARD(生物学的製剤)と考えられる。また,MTX単剤との比較やTNF阻害薬抵抗例に対する効果もRCTにて示されている。bDMARD(生物学的製剤)のなかでの製剤選択および症例選択はいまだ検討中の課題であり,また安全性に関するエビデンスレベルは有効性に関するエビデンスと比べいまだ十分とはいえず,個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を慎重に決定するべきであることを強調したい。
Q ①トシリズマブはRAの疾患活動性制御に有効か?
②トシリズマブはRAの関節破壊制御に有効か?
③トシリズマブはRAの機能障害制御に有効か?
④トシリズマブはRA患者に使用した際,有害事象による薬剤中止を増加させるか?
⑤トシリズマブはRA患者に使用した際,重篤な有害事象を増加させるか?
⑥トシリズマブはRA患者に使用した際,感染症を増加させるか?
⑦トシリズマブはRA患者に使用した際,死亡を増加させるか?
A ①有効である。
②有効である。
③有効である。
④増加させるとはいえない。
⑤増加させるとはいえない。
⑥増加させるとはいえない。
⑦増加させるとはいえない。


  エビデンスサマリー
コクランレビューにおいては,トシリズマブ(TCZ)に関するRCTは全部で8つ選ばれ,4つがTCZ/MTX併用療法とMTX単剤療法の比較,1つがTCZ/DMARD併用療法とDMARD単剤療法の比較,1つがTCZ単剤療法とDMARD単剤療法の比較,2つがTCZ単剤療法とプラセボとの比較の合計3,334名のRA患者が対象とされた。Risk of biasの評価では,7つがlow risk of bias,1つがmoderate risk of biasと判断された。

 疾患活動性制御については,選択されたRCTのうち6つの研究において,臨床症状や身体機能の改善効果が示されている。特にTCZ 8mg/kg+MTX(or DMARD)併用療法とMTX(or DMARD)単剤療法で使用開始後16~24週におけるACR50改善率は,4つのRCTで合計2,063名で検討されており,TCZ群で38.8%,プラセボ群で9.6%とTCZ群で有意に高く(relative effect:RR( 95%CI)3.17(2.72~3.67)),TCZ治療によるACR50改善達成のNNTBは5であった。同様に,TCZ 8mg/kg+MTX(or DMARD)併用療法とMTX(or DMARD)単剤療法で使用開始後16~24週における寛解達成率(DAS28<2.6)は,4つのRCTで合計1,946名で検討されており,TCZ群で30.5%,プラセボ群で2.7%でありTCZ群で有意に高く(relative effect:RR(95%CI)8.74(6.26~11.8)),TCZ治療による寛解達成のNNTBは5であった。
   さらに,コクランレビューで選定された期間以降2010~2012年に発表された文献についてもPubMedおよび医学中央雑誌を検索しそれぞれ15,24の研究がヒットした。これらを追加でレビューしたが,いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,上記結論は不変であった。補足であるが,TCZ単剤療法とMTX単剤療法の比較試験ではTCZ群がACR20達成率およびDAS寛解率ともに優れていることが示され(AMBITION 試験),他のbDMARD(生物学的製剤)にはない特徴である。

   関節破壊制御については,上記8つのRCTのなかでは関節破壊進行抑制効果について検討は行われていなかったため,さらにコクランレビューで選定された期間以降2010~2012年に発表された文献の追加レビューを行い,関節破壊抑制効果について検討した2つのRCTを選択した。
   1つ目は,大規模な臨床研究(LITHE 研究)でMTX抵抗性のRA患者に対してTCZ 4mg/kg(n=197)もしくは8mg/kg(n=217)併用(TCZ+MTX)群とプラセボ(MTX 単剤)群(n=117)を比較した試験で,risk of biasの評価ではlow risk of biasであった。この研究において90%のランダムサンプルを抽出し,治療開始から1年後の関節裂隙狭小化と骨びらん進行(TGSSで評価)を評価した。結果,プラセボ群と比較しTCZ群でTGSSのベースラインからの変化が少なかった(TGSSのベースラインからの変化:TCZ+MTX群0.29 ± 0.96 vs プラセボ群0.90 ± 1.92;p=0.0007)。また,プラセボ(MTX)群においてはベースラインの疾患活動性と1年後の関節破壊の進行(TGSS)は相関していたが,TCZ(TCZ+MTX)群では相関はみられず,TNF阻害薬同様,ベースラインの疾患活動性にかかわらず関節破壊進行を抑制していた。
   2つ目は,DMARD抵抗性のRAに対してTCZ単剤療法とDMARD単剤療法を比較した国内臨床試験であるSAMURAI試験のサブ解析で,risk of bias評価はmoderate risk of biasであった。この研究において,TCZ群はDMARD群と比較してベースラインで関節破壊進行リスクが高いと思われる患者(high uCTX-Ⅱ,uPYD/DPD,low BMI,関節裂隙狭小化進行例など)においてもDMARD群に比べて関節裂隙狭小化と骨びらんの進行は有意に少なかった。
   以上より,コクランレビューでは評価されていなかったが,その後のRCTおよびRCTのサブ解析において,TCZはMTX(or DMARD)抵抗性のRA患者に対し,MTX併用療法およびMTX非併用(単剤)療法のいずれにおいても,プラセボ群と比較し関節破壊進行抑制に対し明らかに良好な効果をもたらすことが示された。

   機能障害制御については,上記コクランレビューの8つの研究のうち1つのRCT(DMARD抵抗例に対してTCZ併用療法とDMARD 単剤療法を比較したTOWARD 試験,1,220名のRA患者対象)にて身体機能障害の改善効果の検討を行っている。治療開始から24週後の臨床的意義のある 身体機能障害の改善(ベースラインからのHAQ >0.3 or mHAQ >0.22の低下)達成率はTCZ群で60.5%であり,プラセボ群34.0%と比較して有意に高く(relative effect: RR(95%CI)1.79(1.62~1.94)),TCZ治療による臨床的意義のあるHAQ改善を達成するNNTBは4であった。
   有害事象による薬剤中止については,上記コクランレビューの4つのRCT合計2,064名の患者で検討され,薬剤中止総数(16~24週後)は,TCZ群がプラセボ群と比較して有意に低く(7.5 vs 12%,RR(95%CI)0.61(0.49~0.77)),副作用による薬剤中止(16~24週後)は同等 (5.1 vs 3.6%,RR(95%CI)1.43(0.95~2.12))であった。
   その後2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでは,2つの研究(519名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してTCZ群の全副作用の総数のOR(95%CI)は1.31(0.57~ 3.01)と特にリスク増加は認めず,副作用による薬剤中止もOR(95%CI)1.83(0.64~5.42)でプラセボ群と同等であった。

   全有害事象および重篤な有害事象については,上記コクランレビューのうち,4つのRCT合計2,060名の患者においてTCZ 8mg/kg+MTX(or DMARD)併用療法をプラセボ+MTX(or DAMRD)単剤療法と有害事象の総数を比較した場合,TCZ群で75%,プラセボ群で65%とTCZ群に有意に多かった(RR (M-H,Fixed,95% CI)1.14(1.07~1.21))。個々の副作用のリスクは,TCZ群で全感染症,口腔内潰瘍,全消化器副作用,全皮膚副作用,検査異常(特にLDL上昇,LDL/HDL比上昇,白血球減少)がプラセボ群より若干高く,注意が必要である。ただし,後述する重篤な有害事象や重篤な感染症のリスク増加はみられなかった。
   その後2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでは,2つの研究(519名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してTCZ群の全副作用の総数のOR(95%CI)は1.31(0.57~3.01)と特にリスク増加は認めなかった。
   一方,重篤な有害事象については,3つのRCT合計1,961名の患者で検討され,24週後の重篤な有害事象はTCZ群で約8%,プラセボ群で約7%(RR(95%CI)1.17(0.83~1.64))で特にリスク増加はみられなかった。
   同様に,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでも,3つの研究(842名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してTCZ群の重篤な副作用発症のOR(95%CI)は0.77(0.41~1.45)と特にリスク増加は認めなかった。

    感染症については,上記コクランレビューでは8つのうち3つのRCT合計1,961名の患者でTCZ 8mg/kg+MTX(or DMARD)併用療法をプラセボ+MTX(or DAMRD)単剤療法と比較した場合,全感染症においてはTCZ群で若干の増加がみられたが(RR(M-H,Fixed,95% CI) 1.18 (1.04~1.34)),4つのRCT合計2,060名(16~24週後)で同様の比較をした場合,重篤な感染症に関してはRR(95% CI)1.75(0.99~3.12)と有意差は認めていない。
   また,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用のコクランレビューでも,3つの研究(842名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してTCZ群の重篤な感染症発症のOR(95% CI)は0.84(0.20~3.56)と特にリスク増加は認めなかった。結核再活性化に関しては,症例数が少なくbDMARD(生物学的製剤)全体でプラセボ群と比較した場合,OR(95% CI)4.68(1.18~18.60)とbDMARD(生物学的製剤)全体で増加を認めている。個々の薬剤の結核発症リスクに関しては,今後の長期試験での検討が必要である。
    以上より,TCZ群がプラセボ群と比較して重篤な感染症を明らかに増加させる根拠はなかった。
    死亡については,上記コクランレビューの8つのRCTのうち,2つのRCT合計1,551名の患者でTCZ 8mg/kg+MTX(or DMARD) 併用療法をプラセボ+MTX(or DAMRD)単剤療法と比較した場合,最大で24週のフォローアップであるが,死亡のRR(95% CI)は-0.00(-0.01~0.00)とTCZ群で特に死亡増加はみられなかった。

   以上より,コクランレビューにおいて,TCZはMTX併用療法において,プラセボ群と比較し疾患活動性制御,関節破壊制御,機能障害制御のいずれに対しても明らかに良好な効果をもたらすことが示され,一方,有害事象による薬剤中止,全有害事象および重篤な有害事象,感染症,死亡のいずれも明らかに増加させるとはいえないことが示唆された。

   さらに,コクランレビューで選定された期間2010年1月以降に発表された文献レビューにても,いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,前述した関節破壊制御エビデンス以外の有効性,安全性のアウトカムに関して上記結論は不変であった。
エビデンスの質
(GRADE)
high
該当するコクランレビュー あり
書誌情報1 Singh JA,Beg S,Lopez-Olivo MA. Tocilizumab for rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2010, Issue 7 .
DOI 10.1002/14651858.CD008331. pub 2
書誌情報2 Singh JA,Wells GA,Christensen R,Tanjong Ghogomu E,Maxwell L,MacDonald JK,Filippini G,Skoetz N,Francis DK,Lopes LC,Guyatt GH,Schmitt J,La Mantia L,Weberschock T,Roos JF,Siebert H,Hershan S,Cameron C,Lunn MPT,Tugwell P,Buchbinder R. Adverse effects of biologics:a network metaanalysis and Cochrane overview. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011,Issue 2 .
DOI 10.1002/14651858.CD008794. pub 2

 
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