(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧 |
エビデンスのまとめ |
CQ ナンバー | 24-30 | 担当者 | 岸本暢将 |
カテゴリー | bDMARD(生物学的製剤) 2 | ||
CQ | エタネルセプトはRA治療において有効かつ安全か? | ||
推奨文 | 疾患活動性を有するRA患者に対してエタネルセプト投与を推奨する。ただし個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を決めるべきである。 | 推奨の強さ | 強い | 同意度 | 4.95 |
解説 | エタネルセプトはわが国で2番目に発売されたTNF阻害薬であるが,米国では1998年に最初にRAに対して承認を得たbDMARD(生物学的製剤)であり,インフリキシマブ同様最もエビデンスの豊富なbDMARD(生物学的製剤)の1つと考えられる。bDMARD(生物学的製剤)のなかでの製剤選択および症例選択はいまだ検討中の課題であり,また安全性に関するエビデンスレベルは有効性に関するエビデンスと比べいまだ十分とはいえず,個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を慎重に決定するべきであることを強調したい。 | ||
Q | ①エタネルセプトはRA の疾患活動性制御に有効か? ②エタネルセプトはRAの関節破壊制御に有効か? ③エタネルセプトはRAの機能障害制御に有効か? ④エタネルセプトはRA患者に使用した際,有害事象による薬剤中止を増加させるか? ⑤エタネルセプトはRA患者に使用した際,重篤な有害事象を増加させるか? ⑥エタネルセプトはRA患者に使用した際,感染症を増加させるか? ⑦エタネルセプトはRA患者に使用した際,死亡を増加させるか? | ||
A |
①有効である。 ②有効である。 ③有効である。 ④増加させるとはいえない。 ⑤増加させるとはいえない。 ⑥増加させるとはいえない。 ⑦増加させるとはいえない。 |
エビデンスサマリー
コクランレビューにおいては,エタネルセプト(ETN)に関するRCTは全部で3つ選ばれ,それぞれETN/MTX併用とMTX単剤療法の比較(Weinblatt ME,et al. N Engl J Med. 1999;340:253-259),ETN単剤療法(10,25mg週2回)とプラセボとの比較(Moreland LW,et al. Ann Intern Med. 1999;130:478-486),ETN単剤療法とMTX単剤療法との比較(Bathon JM,et al. N Engl J
Med. 2000;343:1586-1593)の計900名以上の患者が対象とされた。Risk of biasの評価では,1つがlow risk of bias, 2つがmoderate risk of biasと判断された。
疾患活動性および機能障害の制御については,これら3つの研究のうち2つの研究(Weinblatt ME,et al. N Engl J Med. 1999;340:253-259,Moreland LW,et al. Ann Intern Med.1999;130:478-486)において,臨床症状や身体機能の改善効果(ACR20/50/70改善率)が示されている。特に使用開始後24週におけるACR20改善率は合計247名で検討され,ETN 25mg 週2回使用群(MTX併用 or 非併用)で64%,プラセボ群(MTX or プラセボ)で15%であり,ETN群で有意に高く(RR(M-H,Fixed,95% CI)3.84(2.47~5.98)),ETN使用におけるACR20改善達成のNNTBは2であった。同様に,ACR50改善率はそれぞれ39 vs 4%であり,ETN群で有意に高く(RR(M-H,Fixed,95% CI)8.89(3.61~21.89)),ETN使用によるACR50改善達成のNNTBは3であり,DMARD抵抗例の長期罹病患者に対するETNの効果が示された。
関節破壊制御については,これら3つのRCTのなかの1つの研究(Bathon JM,et al. N Engl J Med. 2000;343:1586-1593)において関節破壊進行について検討を行っている。治療開始12ヵ月後におけるACR20改善率は,承認用量であるETN 25mg 週2回使用群はMTX群と比較して有意差はなかったが(RR(M-H,Fixed,95% CI)1.12(0.96~1.29)),ETN群において有意な関節破壊進行抑制作用が示されている(TSSのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-10.5(-13.33~-7.67),ベースラインからerosion score進行なし(72 vs 60%,p=0.007))。
有害事象による薬剤中止については,3つのRCTで薬剤中止総数および有害事象による中止が検討されている。薬剤中止総数はETN 25mg 週2回用量では合計671例で検討され,RR(M-H,Random,95%CI)0.43(0.24~0.77)とETN群で明らかに中止が少なかった。承認用量のETN 25mg 週2回用量における有害事象による中止は合計671例で検討され,RR(M-H,Random,95%CI)0.50(0.27~0.94)とETN群で明らかに薬剤中止が少なかった。また,BathonらのRCTをもとにETN 25mg 週2回用量で12ヵ月後の薬剤中止を合計424名の患者で検討すると,薬剤中止総数および副作用による中止はともにMTX単剤療法群と比較してETN単剤療法群で明らかに少なかった。
その後2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤) の副作用について検討したコクランレビューでは,7つの研究(1,600名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してETN群の全副作用の総数のORは1.38(95%CI 0.80~2.46)と特にリスク増加は認めず,副作用による薬剤中止もOR1.30(95%CI 0.82~2.17)でプラセボ群と同等であった。
全有害事象および重篤な有害事象については,上記コクランレビューでは有害事象総数,重篤な有害事象や感染症を個別に検討は行っていないが,RCTの報告に基づき注射部位反応,頭痛,鼻炎,副鼻腔炎,上気道炎,下痢,吐き気,眩暈,脱力,胃部不快感,口腔内潰瘍などの副作用の検討が行われた。6ヵ月および12ヵ月のフォローにおいてETN10,25mg 週2回用量どちらにおいても,注射部位反応以外はプラセボ群(MTX or プラセボ)と比較してこれら副作用の頻度は増加していない。注射部位反応はETN10mg 週2回用量において2つのRCTで合計581名の患者で検討されたが,プラセボ群と比較した際のRR(M-H, Random,95%CI)は3.86(2.59~5.77)とETN群でリスクの増加がみられた。承認用量であるETN 25mg 週2回用量においては3つのRCTで合計671名の患者で検討され,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Random,95%CI)は4.77(3.26~6.97)とETN群でリスクの増加がみられた。一方,吐き気および口腔内潰瘍に関しては2つのRCTで合計513名の患者で検討され,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Random,95%CI)はそれぞれ0.57(0.40~0.81),0.36(0.19~0.69)でありETN群と比較してプラセボ群で明らかなリスク増加がみられた。
さらに,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューのデータでは,プラセボ群と比較した際,ETN群で重篤な有害事象の明らかな増加はみられなかった(relative effect:OR 1.24(95%CI 0.93~1.69))。
感染症については,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューのデータでは,プラセボ群と比較した際,ETN群で重篤な感染症の明らかな増加はみられなかった(relative effect:OR 1.24(95%CI 0.72~2.45))。また,結核再活性化に関しては,症例数が少なくbDMARD(生物学的製剤)全体でプラセボ群と比較した場合,bDMARD(生物学的製剤)群でリスク増加を認めている(relative effect:OR 4.68(95%CI 1.18~18.60))。個々の薬剤の結核発症リスクに関しては今後の長期試験での検討が必要である。
ETN群がプラセボ群と比較して重篤な感染症を明らかに増加させる根拠はなかった。
死亡については,上記3つのRCTでは最大で12ヵ月のフォローアップであるが,いずれの研究においても死亡例の報告はなく,死亡に関する検討は行われなかったため結論は出ていないが,その後の検討でも特に死亡増加は示されていない。
以上より,コクランレビューにおいて,ETNはMTX併用療法において,プラセボ群と比較し疾患活動性制御,関節破壊制御,機能障害制御のいずれに対しても明らかに良好な効果をもたらすことが示され,一方,有害事象による薬剤中止,全有害事象および重篤な有害事象,感染症,死亡のいずれも明らかに増加させるとはいえないことが示唆された。
さらに,コクランレビューで選定された期間以降,2003~2012年に発表された文献についてもPubMedおよび医学中央雑誌を検索しそれぞれ103,109の研究がヒットした。いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,上記結論は不変であった。
疾患活動性および機能障害の制御については,これら3つの研究のうち2つの研究(Weinblatt ME,et al. N Engl J Med. 1999;340:253-259,Moreland LW,et al. Ann Intern Med.1999;130:478-486)において,臨床症状や身体機能の改善効果(ACR20/50/70改善率)が示されている。特に使用開始後24週におけるACR20改善率は合計247名で検討され,ETN 25mg 週2回使用群(MTX併用 or 非併用)で64%,プラセボ群(MTX or プラセボ)で15%であり,ETN群で有意に高く(RR(M-H,Fixed,95% CI)3.84(2.47~5.98)),ETN使用におけるACR20改善達成のNNTBは2であった。同様に,ACR50改善率はそれぞれ39 vs 4%であり,ETN群で有意に高く(RR(M-H,Fixed,95% CI)8.89(3.61~21.89)),ETN使用によるACR50改善達成のNNTBは3であり,DMARD抵抗例の長期罹病患者に対するETNの効果が示された。
関節破壊制御については,これら3つのRCTのなかの1つの研究(Bathon JM,et al. N Engl J Med. 2000;343:1586-1593)において関節破壊進行について検討を行っている。治療開始12ヵ月後におけるACR20改善率は,承認用量であるETN 25mg 週2回使用群はMTX群と比較して有意差はなかったが(RR(M-H,Fixed,95% CI)1.12(0.96~1.29)),ETN群において有意な関節破壊進行抑制作用が示されている(TSSのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-10.5(-13.33~-7.67),ベースラインからerosion score進行なし(72 vs 60%,p=0.007))。
有害事象による薬剤中止については,3つのRCTで薬剤中止総数および有害事象による中止が検討されている。薬剤中止総数はETN 25mg 週2回用量では合計671例で検討され,RR(M-H,Random,95%CI)0.43(0.24~0.77)とETN群で明らかに中止が少なかった。承認用量のETN 25mg 週2回用量における有害事象による中止は合計671例で検討され,RR(M-H,Random,95%CI)0.50(0.27~0.94)とETN群で明らかに薬剤中止が少なかった。また,BathonらのRCTをもとにETN 25mg 週2回用量で12ヵ月後の薬剤中止を合計424名の患者で検討すると,薬剤中止総数および副作用による中止はともにMTX単剤療法群と比較してETN単剤療法群で明らかに少なかった。
その後2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤) の副作用について検討したコクランレビューでは,7つの研究(1,600名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してETN群の全副作用の総数のORは1.38(95%CI 0.80~2.46)と特にリスク増加は認めず,副作用による薬剤中止もOR1.30(95%CI 0.82~2.17)でプラセボ群と同等であった。
全有害事象および重篤な有害事象については,上記コクランレビューでは有害事象総数,重篤な有害事象や感染症を個別に検討は行っていないが,RCTの報告に基づき注射部位反応,頭痛,鼻炎,副鼻腔炎,上気道炎,下痢,吐き気,眩暈,脱力,胃部不快感,口腔内潰瘍などの副作用の検討が行われた。6ヵ月および12ヵ月のフォローにおいてETN10,25mg 週2回用量どちらにおいても,注射部位反応以外はプラセボ群(MTX or プラセボ)と比較してこれら副作用の頻度は増加していない。注射部位反応はETN10mg 週2回用量において2つのRCTで合計581名の患者で検討されたが,プラセボ群と比較した際のRR(M-H, Random,95%CI)は3.86(2.59~5.77)とETN群でリスクの増加がみられた。承認用量であるETN 25mg 週2回用量においては3つのRCTで合計671名の患者で検討され,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Random,95%CI)は4.77(3.26~6.97)とETN群でリスクの増加がみられた。一方,吐き気および口腔内潰瘍に関しては2つのRCTで合計513名の患者で検討され,プラセボ群と比較した際のRR(M-H,Random,95%CI)はそれぞれ0.57(0.40~0.81),0.36(0.19~0.69)でありETN群と比較してプラセボ群で明らかなリスク増加がみられた。
さらに,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューのデータでは,プラセボ群と比較した際,ETN群で重篤な有害事象の明らかな増加はみられなかった(relative effect:OR 1.24(95%CI 0.93~1.69))。
感染症については,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューのデータでは,プラセボ群と比較した際,ETN群で重篤な感染症の明らかな増加はみられなかった(relative effect:OR 1.24(95%CI 0.72~2.45))。また,結核再活性化に関しては,症例数が少なくbDMARD(生物学的製剤)全体でプラセボ群と比較した場合,bDMARD(生物学的製剤)群でリスク増加を認めている(relative effect:OR 4.68(95%CI 1.18~18.60))。個々の薬剤の結核発症リスクに関しては今後の長期試験での検討が必要である。
ETN群がプラセボ群と比較して重篤な感染症を明らかに増加させる根拠はなかった。
死亡については,上記3つのRCTでは最大で12ヵ月のフォローアップであるが,いずれの研究においても死亡例の報告はなく,死亡に関する検討は行われなかったため結論は出ていないが,その後の検討でも特に死亡増加は示されていない。
以上より,コクランレビューにおいて,ETNはMTX併用療法において,プラセボ群と比較し疾患活動性制御,関節破壊制御,機能障害制御のいずれに対しても明らかに良好な効果をもたらすことが示され,一方,有害事象による薬剤中止,全有害事象および重篤な有害事象,感染症,死亡のいずれも明らかに増加させるとはいえないことが示唆された。
さらに,コクランレビューで選定された期間以降,2003~2012年に発表された文献についてもPubMedおよび医学中央雑誌を検索しそれぞれ103,109の研究がヒットした。いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,上記結論は不変であった。
エビデンスの質 (GRADE) |
high |
該当するコクランレビュー | あり |
書誌情報1 | Blumenauer BBTB,Cranney A,Burls A,Coyle D,Hochberg MC,Tugwell P,Wells GA. Etanercept for the treatment of rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2003,Issue 3 . |
DOI | 10.1002/14651858.CD004525 |
書誌情報2 | Singh JA,Wells GA, Christensen R, Tanjong Ghogomu E, Maxwell L, MacDonald JK, Filippini G, Skoetz N, Francis DK, Lopes LC, Guyatt GH, Schmitt J, La Mantia L, Weberschock T, Roos JF, Siebert H, Hershan S, Cameron C, Lunn MPT, Tugwell P, Buchbinder R. Adverse effects of biologics:a network metaanalysis and Cochrane overview. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011,Issue 2 . |
DOI | 10.1002/14651858.CD008794. pub 2 |