(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 16 担当者 瀬戸洋平
カテゴリー ステロイド1
CQ RA患者に対してステロイド全身投与は有効かつ安全か?
推奨文 低用量ステロイドの全身投与は有害事象の発現リスクを検討したうえで推奨する。
推奨の強さ 強い 同意度 4.56
解説  RA患者におけるステロイドの全身投与に関するエビデンスは限られるが,画像所見,関節所見,疼痛の改善に一定の効果を認めた。一方,既知の有害事象,合併症を勘案して推奨される投与法に関する検討はなされておらず,個々の患者においてリスクとベネフィットを慎重に考慮する必要がある。
 現在の標準的薬物療法におけるステロイド併用の意義や方法,日本人における適正用量,長期の安全性に関する検討が望まれる。
Q RA患者にステロイド全身投与は有効かつ安全か?
A 疾患活動性,画像的アウトカム,機能的アウトカムを改善するが,有害事象発現とのリスク,ベネフィットの慎重な検討を要する。


  エビデンスサマリー
ステロイド全身投与の有効性に関するコクランレビューは3本発表されており,画像的(X線)有効性(2007年),短期(1ヵ月以内)低用量投与の有効性(2005年),中期(3ヵ月以上)低用量投与の有効性(1998年)につき検討 されている。
 Kirwanらは関節破壊抑制効果の検討を行い,15件のランダム化比較試験を引用している。メタ解析およびサブグループ解析において,ステロイド群(単独またはDMARD併用)の骨びらんスコア,関節裂隙狭小化スコアにおける有意な効果を示している(対照群に対しステロイド群でSMD 0.40(95%CI 0.27~0.54), 2年間の検討(806名)では1年目0.45(0.24~0.66),2年目0.42( 0.30~0.55))。Gotzscheらはプレドニゾロン(PSL)換算15mg/日以下の用量を1ヵ月以内の短期間で投与した文献11件(462名)を引用している。うち10件で関節所見,疼痛評価をアウトカムとして用いており,NSAID群またはプラセボ群と比較し有意な効果が認められた(ただし盲検化やランダム化に関する記述が欠損している文献が大半であった)。2つのプラセボ対照試験においてステロイド群のプラセボ群に対するSMDは,圧痛関節数-0.52( 95%CI -1.01~-0.03),疼痛-0.67( -1.58~0.23)で,NSAID群を対照とした検討におけるSMDは,圧痛関節数-0.63( -1.16~-0.11),疼痛-1.25(-2.24~-0.26)であった。CriswellらはPSL換算15mg/日以下の用量を3ヵ月以上投与した計7つの試験を抽出した。関節所見,疼痛評価,身体機能などの有効性指標について,プラセボ群に対して有意な効果を認めた(圧痛関節数SMD -0.37( 95%CI -0.59~-0.14),腫脹関節数-0.41(-0.67~-0.16),疼痛-0.43(-0.74~-0.12),機能障害-0.57(-0.92~-0.22))。一方アスピリン,hydroxychloroquineなどのactive controlに対しての有意差を認めなかった。3つのコクランレビューのうちGotzscheらは有害事象についても言及しており,最長2年間の複数の臨床研究における体重増加,満月様顔貌,椎体骨折,消化性潰瘍,消化管出血,高血圧,浮腫,精神障害,呼吸器感染症などの有害事象を示しているが,対照群との統計学的有意差は検討されていない。
 これに加え,コクランレビュー以降2012年7月までの文献についてPubMedおよび医学中央雑誌を用いて検索を行った。PubMedにて421文献,医学中央雑誌にて58文献を抽出し,タイトルおよびアブストラクトにより該当する3文献について構造化抄録を作成した。
 発症1年以内の高疾患活動性を有する早期RA症例を対象とした多施設前向き二重盲検プラセボ対照ランダム化試験であるCAMERA-Ⅱ試験は,PSL併用,非併用群において治療目標達成有無に応じてMTXを増量し,さらに他剤(シクロスポリン,アダリムマブ)を追加する共通したプロトコールに則り2年間治療を行った研究である。主要評価項目としてX線評価,副次的評価項目として疾患活動性(DAS28),寛解達成,他剤追加の有無につき検討を行っている。2年後のSharp変法による骨びらんスコアで有意差を認めるも,関節裂隙狭小化スコア,総Sharpスコアで有意差を認めず,DAS28による疾患活動性評価においては3ヵ月,6ヵ月で有意差を認めるも,1年,2年においては有意差を認めなかった。他剤追加併用率では有意差を認め,ステロイド併用の有用性を示している。試験期間中に有害事象発現の有意差を認めていない。
 Choyら(Choy EH, et al. Ann Rheum Dis. 2008;67:656-663)は2年間のMTX単独,MTX+PSL(およびMTX+シクロスポリン,3剤併用療法)の二重盲検ランダム化比較試験を実施している。新たな骨びらんの出現,Larsenスコア,HAQについて,PSL併用群はMTX単独群と比較し有意差を認めたが,DAS28,SF-36については有意差を認めなかった。MTX単独に対するPSL併用群での治療中止に至る有害事象発現のNNHは14であり,またPSL使用は高血圧合併と関連することが示された。
 国内では日本リウマチ財団ステロイド治療研究委員会が実施した小規模(ステロイド群21名vs 非使用群22名)な多施設比較試験が報告されているのみで,DMARDへのPSL 7mg併用の画像的有効性を評価しているが,サンプルサイズが小さく統計学的な有意差は示されていない。
 以上より,RA患者におけるステロイド全身投与は,限られたエビデンスによって中期(2年以内)までの有効性が示されているが,現在の標準的な治療プロトコールのなかでの高いエビデンスレベルでの検討はなされておらず,さらに既知の有害事象,合併症とのバランスと併せた検討も必要である。
エビデンスの質
(GRADE)
moderate
該当するコクランレビュー あり
書誌情報1 Kirwan JR, Bijlsma JWJ, Boers M, Shea B. Effects of glucocorticoids on radiological progression in rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2007, Issue 1 .
DOI 10.1002/14651858.CD006356
書誌情報2 Criswell L, Saag K, Sems KM, Welch V, Shea B, Wells GA, Suarez-Almazor ME. Moderate-term, low-dose corticosteroids for rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 1998, Issue 3 .
DOI 10.1002/14651858.CD001158
書誌情報3 Gotzsche PC, Johansen HK. Short-term low-dose corticosteroids vs placebo and nonsteroidal antiinflammatory drugs in rheumatoid arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2005, Issue 1 .
DOI 10.1002/14651858.CD00189.pub 2

 
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