(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第2章 関節リウマチ診療ガイドライン2014 |
合併症・妊娠・授乳 1
CQ81 | 呼吸器疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
CQ82 | 循環器疾患,冠動脈疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
CQ83 | 腎機能障害を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)を投与した場合,投与しなかった場合と比べて予後は改善するか? | |
CQ84 | 肝機能障害を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
CQ85 | 内分泌代謝疾患,特に糖尿病を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
CQ86 | 自己免疫疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
推奨36 | 合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する。 | |
推奨の強さ:強い 同意度:4.72 |
解説 CQ81
RAの呼吸器合併症のなかで間質性肺炎(interstitial pneumonia;IP)が主に評価されている。RAの約7%にIPを合併する。しかし,他の呼吸器合併症(気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患など)について検討された研究は僅少である。また多くの臨床試験は呼吸器合併症を組み入れたときに除外している。したがって,リスクのある例に対する治療介入比較試験はなく,IP発症を予知する方法や頻度は解明されていない。また添付文書に,すべてのcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)はIPを誘導する可能性があり,危険性より有益性が勝る場合投与すると記載されている。IPを合併したRAに対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)を投与した症例報告を集積し解析した報告において,MTXとレフルノミドによる薬剤誘発IPは既存の肺病変の存在が危険因子であり,同様にTNF阻害薬による薬剤誘発IPの41.9%にRAに関連した既存のIPが存在していた。わが国の市販後調査におけるIP の合併率はインフリキシマブ(0.5%),エタネルセプト(0.6%),アダリムマブ(0.6%)と同等であった。しかしMTX併用に伴う例も含まれ,IPとTNF阻害薬との関連は不明である。IPの病型,病理組織型,呼吸機能との関連にて薬剤投与に関する比較対照をおいた多数例の比較試験はない。以上より,IPを含めた呼吸器合併症を有する例に,有効かつ安全なcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)の開発や投与に際してリスクとベネフィットを十分検討する必要がある。
解説 CQ82
RAは冠動脈疾患の合併が多い。多くの薬剤介入臨床試験は組み入れの際,循環器疾患,特に心不全,冠動脈疾患がある患者は除外されており,合併症を有する患者に対する有効性,安全性に関するエビデンスは乏しい。特にTNF阻害薬は重症心不全を合併したRAには禁忌である。心不全重症度分類(NYHA)ⅢおよびⅣ度のうっ血性心不全患者を対象としたインフリキシマブの海外臨床試験において,心不全症状などの悪化による入院や死亡が10mg/kg投与群で高いことが認められた。以上より,心不全合併RA患者へのTNF阻害薬は禁忌である。また心不全を有するRA患者へは注射金製剤も禁忌である。注射金製剤は高齢者において急激な血圧低下に伴い狭心症発作や心電図検査で心筋虚血が認められたとの報告がある。しかし,症例報告のみで症例対照比較試験はない。欧米からの報告がすべてであり医学中央雑誌から引用できる研究結果はない。コクランレビューに心血管合併を有するRAの報告があるがNSAIDなど疼痛治療に関する検討のみである。他の合併頻度が高い高血圧などについての検討はなく,またTNF阻害薬以外のbDMARD(生物学的製剤)について検討された研究はない。今後,新たな検討とわが国からのエビデンスが必要である。
解説 CQ83
腎機能障害を有するRA患者の治療におけるcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性は確立していない。腎機能が低下しているとき,腎排泄の薬剤はその血中濃度が上昇し,薬効の増強や副作用の頻度が増加する。腎機能が低下した慢性腎障害(chronic kidneydisease;CKD)患者では原則として腎排泄薬剤を避け,腎排泄の寄与の少ない薬剤や非腎排泄性の薬剤を選択すべきである。腎機 能に応じ1回投与量の減量や投与間隔を延長する必要がある。各薬剤の添付文書など最新の情報に基づいて検討し,患者ひとりひとりの個人差,脱水などの付加された病態,併用薬剤,特にNSAIDなどに注意して投与すべきである。bDMARD(生物学的製剤)である抗体製剤は腎排泄薬剤ではなく,添付文書にも腎機能に基づく投与制限はない。しかしCKDは原因疾患や血圧,貧血,骨ミネラル代謝異常を伴うため腎臓専門医との連携により薬剤投与によるリスクとベネフィットを十分考慮する必要がある。2次性アミロイドーシスによる腎機能障害に対するbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性の少数の報告はあるが安全性を担保するものではない。腎機能障害合併例に関する安全性を確認できるエビデンスが期待される。
腎機能障害を有するRA患者の治療におけるcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性は確立していない。腎機能が低下しているとき,腎排泄の薬剤はその血中濃度が上昇し,薬効の増強や副作用の頻度が増加する。腎機能が低下した慢性腎障害(chronic kidneydisease;CKD)患者では原則として腎排泄薬剤を避け,腎排泄の寄与の少ない薬剤や非腎排泄性の薬剤を選択すべきである。腎機 能に応じ1回投与量の減量や投与間隔を延長する必要がある。各薬剤の添付文書など最新の情報に基づいて検討し,患者ひとりひとりの個人差,脱水などの付加された病態,併用薬剤,特にNSAIDなどに注意して投与すべきである。bDMARD(生物学的製剤)である抗体製剤は腎排泄薬剤ではなく,添付文書にも腎機能に基づく投与制限はない。しかしCKDは原因疾患や血圧,貧血,骨ミネラル代謝異常を伴うため腎臓専門医との連携により薬剤投与によるリスクとベネフィットを十分考慮する必要がある。2次性アミロイドーシスによる腎機能障害に対するbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性の少数の報告はあるが安全性を担保するものではない。腎機能障害合併例に関する安全性を確認できるエビデンスが期待される。
解説 CQ84
肝機能障害合併RA患者におけるB型ウイルス性肝炎について免疫抑制薬,bDMARD(生物学的製剤)投与に伴う再活性化の危険と対応のアルゴリズムは「日本リウマチ学会からのお知らせ免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン(改訂版)について」に提示されており,この基準に準じ対応すべきと考える。しかし,肝機能障害を合併している例に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)について検討されたエビデンスの高い報告はない。C型肝炎に対してはcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),免疫抑制薬は長期使用でも安全であると報告されているが,症例報告が主体である。B型肝炎のウイルス再活性化にはMTXやbDMARD(生物学的製剤)が含まれるが,他のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)などすべての薬剤に肝機能障害の副作用に関する記載がある。ただし臨床治験の段階で肝機能障害を有する例は除外されており,ウイルス性肝炎以外の肝機能障害を有するRAの治療介入に関する研究はない。また肝機能障害の重症度とRA治療薬に関する検討は報告されていない。しかし,肝機能障害を生じる可能性の高い薬剤は重症肝機能障害例への投与を避けるべきである。治療効果が安全性を上回ると判断される場合には,治療開始前に肝機能障害の定期的モニタリングを行い,肝臓病専門医と連携をはかる必要がある。
解説 CQ85
RA患者に合併する内分泌代謝疾患のなかで糖尿病が最も多く関係が論じられており,他の内分泌疾患に関する報告は僅少である。糖尿病は冠動脈疾患や脳血管障害の主要なリスク因子である。したがって糖尿病合併RA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)による治療介入は糖尿病の病態の悪化を伴うことなく,関節炎を改善することが重要である。当然,ステロイド療法は糖尿病悪化の誘因になるが,ステロイドの短期一時投与では大量投与でも耐糖能異常の誘発はないと報告されている。しかし糖尿病のあるRA患者には糖尿病治療を行ったうえでRAを治療すべきである。bDMARD(生物学的製剤),csDMARD(従来型抗リウマチ薬)のなかでタクロリムスは添付文書上,糖尿病および糖尿病の悪化(0.1~5%未満),高血糖(15%以上)を生じることがあると記載されているが,市販後調査では3,172名中1.5%,欧米では0.1%と頻度は少ない。しかし,投与開始時に糖尿病の疑いのある患者は除外されているためバイアスがあることが考えられ,耐糖能異常のあるRA患者にタクロリムスを投与する場合は注意する必要がある。糖尿病は冠動脈疾患や感染症の危険因子であり,治療薬選択の際に必要な検査を行い,もし糖尿病があれば糖尿病専門医と連携のうえ治療すべきである。
解説 CQ86
RAには他の膠原病が重複する症例や抗核抗体などの自己抗体陽性例が存在する。このような症例にcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)を適応することの有用性と安全性を考慮したランダム化比較試験による介入試験はない。一方,TNF阻害薬により全身性エリテマトーデスや血管炎を誘発する報告もある。しかし,TNF阻害薬以外のbDMARD(生物学的製剤)により他の自己抗体や自己免疫疾患を誘発した報告はなく,有用性や副作用に関する報告もない。多くのbDMARD(生物学的製剤)やcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)の臨床治験の際に膠原病との重複症例は除外されており,リスクに関するエビデンスは評価できない。csDMARD(従来型抗リウマチ薬)についても自己免疫疾患誘発についての症例報告は存在するが,関連性を評価できる報告はない。また多くは欧米からの報告であり,わが国からのエビデンスはない。新たな知見からリスクについての評価基準と適応すべき治療の選択根拠について検討した報告が待たれる。現時点では十分なエビデンスはないために,膠原病の要素を認めるRA患者に対しては定期的に自己抗体,身体所見をモニタリングし治療適応を決定すべきである。
References 1
▶CQ作成時の基本となったシステマテックレビュー
1) | なし |
References 2
▶追加解析に用いた文献など