(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第1章 本ガイドラインを有効に活用していただくために

3.GRADEシステムを用いた関節リウマチ診療ガイドライン2014の開発:コクランレビューの活用,GRADEシステムを用いた新たな試み
名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野准教授小嶋 雅代
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授中山 健夫

  緒 言
bDMARD(生物学的製剤)の導入により治療の選択肢が格段に広がり,RAの診療は大きな変貌を遂げた。この変化に対応し,ACRは2008年に1),またEULARは2010年に2),薬物療法に関する新たなリコメンデーションを作成しているが,わが国では2004年に公益財団法人日本リウマチ財団により作成されたもの3) が最後であり,昨今の急速に進歩したRA診療の実態を反映したものではない。そこで,厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」(研究代表者:宮坂信之)の一環として,関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会(以下,ガイドライン作成分科会)(分科会長:山中 寿)が結成され,2010年代のエビデンスに基づき,わが国の実情に合ったRA診療ガイドラインを開発することとなった。本ガイドラインは,将来一般医を対象としたガイドラインを作成することを念頭に,リウマチ専門医を対象として開発された。
 本ガイドラインは2004年のRA診療ガイドラインと大きく異なる点がいくつかある。特に,エビデンスの収集とまとめの過程では,これまでの診療ガイドラインにはない新しい試みをいくつも取り入れた。まず,米国医学研究所(Institute of Medicine ;IOM)が2011年3月に発表した最新の診療ガイドラインの指針である「信頼できる診療ガイドライン」の基準4)に準拠するよう計画された。信頼できる診療ガイドラインとは,明示的で透明性の高いプロセスに基づき,エビデンスの質と推奨度の順序付けを行ったものである4)。われわれはそれを具現化するためにGRADEシステム(http://www.gradeworkinggroup.org/index.htm)という新たなエビデンスの質の評価と推奨度の判断のためのプロセスツールを採用し,既存のシステマティックレビューであるコクランレビュー(http://www.cochrane.org/cochrane-reviews)を最大限活用した。治療の有害性とコストに関する情報源の1つとして,薬事法が定める製造販売後調査の成績および薬価を採用し,RA患者の治療に対する価値観,また現状意識について把握し,今後の方向性を探ることを目的に,患者アンケートとフォーカスグループを実施し,その結果を患者発エビデンスとして収載することとした。
 本ガイドラインでは,最終的な推奨文の決定はリウマチ専門医,患者グループに加え,医療経済専門家,医療ジャーナリストを含む各分野のエキスパートからなるパネル会議に委ね,エビデンスの質に加え,益と害のバランス,患者の価値観・希望,コストや資源を総合的に加味し,さらには本ガイドラインの草案をJCRウェブサイト上に掲載して広くパブリックコメントを求め,わが国の現状に即したガイドラインの完成を目指した。
 本項では,今回われわれが採用したガイドライン開発過程(図1)についてこれまでの流れを概説し,今後のガイドラインの在り方について展望を述べる。

 図1  関節リウマチ診療ガイドライン2014作成の手順
  ガイドライン開発の過程
 1.ガイドライン作成分科会の結成(2011年5 月24日) 
本ガイドラインは,厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」の一環として行われた。研究代表者(宮坂信之,JCR理事長,2011年当時),分科会長のほか,内科医6名,整形外科医4名を含むJCR 認定指導医計12名,疫学者1名(2012年度より1名追加),生物統計家1名,患者団体代表1名からなるガイドライン作成分科会が結成された。このうち,内科医6名,整形外科医4名がワーキングメンバーとして,CQの作成,エビデンスの収集・吟味,ステートメント案の作成までを担当した。その他の委員は分科会,メール会議に出席し,討議に加わるほか,適宜作業を分担した。
 なお,すべての委員が,本ガイドラインの作成に関し,該当する利益相反がないことを確認した。
 2.臨床課題の抽出・CQ の決定(2011年7~12月) 
第1回分科会(2011.7.20)において,以下の点が確認された。
 ①本ガイドラインは専門医に求められるものを目指す,②日本語論文も採用する,③未承認薬も扱うが,その旨を明記する,④パブリックコメントを求める,⑤ CQは「治療」に限定し,「診断」は対象としない。
 全委員よりRAの診療の場で重要と考えられる臨床課題を募ったところ,メール会議上,計199のCQが出された。分科会長がテーマ別に22のトピックに分け,これをもとに討議を行い,各トピックに対し担当者1~2名と確認者1~2名を割り振った(第2 回分科会,2011.10.22)(表1)。担当者は各トピックについて,PICO形式のまとめを作成した(第3回分科会,2011.12.14)。
 表1  分担領域と担当者

 3.重要アウトカムの決定(2011年12月~2012年3 月) 
診療ガイドラインで扱われるべきCQは,患者にとって重要なアウトカムについての治療介入効果を決定するものでなければならない。そこで,臨床課題の抽出・CQの決定と並行し,本ガイドラインで取り扱う「重要アウトカム」とは何かが討議され,症状,構造的変化,長期予後,安全性について全部で44項目が挙げられた(第3回分科会,2011.12.14)。分科会長が項目を提示して点数付けを行うフォーマットを作成し,メールにて各委員に送付した。各委員が評価したフォーマットを返送後,分科会長が集計結果を提示し,各委員が再度評価するというデルファイ法により,死亡率が最重要アウトカム(9点満点中9点),DAS28などの複合指標,HAQ,寛解率,関節破壊に関する指標,重篤副作用頻度,重篤感染症頻度,質調整生存率(quality-adjusted life years;QALY)が次に重要なアウトカム(9点満点中8点)と決定した(表2)。この結果について委員全員で討議し,合意が得られた(第4回分科会,2012.3.3)。

 表2  デルファイ法によるアウトカム指標の重み付け
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 4.文献の収集(2012年3~ 8 月) 
コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)とは,1992年に英国の国民保健サービスの一環として始まり,現在国際的に展開されている医療技術評価のプロジェクトである。その主な活動は,臨床医,政策決定者,患者が合理的な意思決定を下すのに有用な情報を提供するために,さまざまな疾患の治療に関するシステマティックレビューを作成し,適宜アップデートし,コクランレビューとして提供することである5)。情報が氾濫するなかで,個人が玉石混交のすべての臨床研究を取捨選択し,結果を評価し,意思決定に用いるのは不可能である。コクラン共同計画では,レビューの過程を厳密に定め6),エビデンスの質の評価を徹底して行っており,利用者が信頼できる情報提供を行っている。
 2009年以後のコクランレビューの多くはGRADEシステムに基づいてエビデンスの質の評価を行っており7),ガイドラインで取り上げたいと考えるCQに合致するコクランレビューがあれば,このプロセスを大幅に短縮することができる。したがって,本ガイドラインの作成にあたっては,まずCochrane Library(http://www.thecochranelibrary.com/view/0/index.html)上でCQに合致するコクランレビューの有無を確認した。CQに合致する既存のコクランレビューがある場合は,さらに2012年8月までに出版された論文のなかに追加すべきエビデンスがないかどうかをCochrane LibraryとPubMed上で新たに検索した。CQに合致するコクランレビューがない場合は,Cochrane LibraryとPubMed上で網羅的検索を行った。また,すべてのCQについて,医学中央雑誌上で該当する和文文献の有無を調べた。文献検索は,特定非営利活動法人日本医学図書館協会の支援を受けて行った。依頼にあたっては,担当者が各CQについて,キーワード,既知の代表的文献2~3件を提示し,検索期間は2005~2012年8月,英文もしくは和文以外の論文は対象外とし,RA患者を対象とした調査結果に限定した(表3)。
 文献検索は各CQに対して2名ペアで担当した。結果について,まず(主)担当者がタイトル,アブストラクト,必要な場合は本文を読み,CQに合致しているかを検討し,確認者がその過程と結果を確認した。まずシステマティックレビュー,RCT,コホート研究について吟味し,CQに合致するエビデンスが得られない場合,症例対照研究,対照群のない症例報告も含めて次のプロセスに進んだ。
 外科的治療(手術)については,CQに合致するコクランレビューがないため,独自の文献検索によりステートメントを作成する方針となった。文献の検索範囲はひとまず2012年8月までのものとし,その後に出版された論文についても担当委員が適宜必要と判断したものは採用とし,その場合は第4章「エビデンスのまとめ」のなかに注記することとした。


 表3  エビデンスの質的評価の経過
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 5.GRADE システムによるエビデンスの質の評価(2012年2~12月) 
GRADE working groupはエビデンスの質の評価や推奨決定のための明確かつ質の高い基準を開発することを目的に2000年に活動を始め,同グループが推奨するシステムは現在までに世界保健機関(World Health Organization;WHO),コクラン共同計画をはじめ,世界中の多くの組織で採用されている。作成された診療ガイドラインの評価法として,AGREE Instrument(2002年,2009年改訂)8),診療ガイドラインの記述様式の指針として,Conference on Guideline Standardization の提案(2003年)9) があり,診療ガイドラインの作成に関しても参照することは有用であるが,具体的な手順を明示したものではない。GRADEシステムは診療ガイドライン作成に不可欠なプロセスを明確に定めたものであり,前述のIOMのConsensus Reportが信頼できる診療ガイドラインの要件として求める,明示的で透明性の高いプロセスと,エビデンスの質と推奨度の順序付けを可能とするものである。
 GRADEシステムに基づくエビデンスの質の評価では,個々の論文の質の評価とともに複数の論文をまとめた総体としてのエビデンスプロファイルを作成し,各アウトカムに関するエビデンスの質を評価する。各アウトカムについて,単なる研究デザインのみではなく,エビデンスの質を下げる5つの要因,すなわち① limitation(研究の限界・妥当性(バイアスリスク)),② inconsistency(非一貫性),③ indirectness(非直接性),④ imprecision(不精確さ),⑤ publication bias(出版バイアス)と,エビデンスの質を上げる3つの要因,① effect(効果の大きさ),② dose-dependent gradient(用量反応勾配),③ plausible confounder(効果を減弱させる交絡要因) について評価し, 非常に低(very low), 低(low),中(moderate),高(high)の4段階の推奨グレードとして最終的な格付けを行う。
 前述のように,2009年以後のコクランレビューの大半はGRADEシステムに基づいてエビデンス(総体)の質を評価しているため,まずCQに合致したコクランレビューがあったものについて,担当者が重要アウトカムに関するエビデンスプロファイルを作成し,委員全員で確認した(第5回分科会,2012.6.3,第6回分科会,2012.8.7)。次に,これらに準じ,新たに追加検索された文献について各文献のエビデンスの質の評価とともに,重要アウトカムに関するエビデンスプロファイルを作成し,結果の要約を行った。エビデンスプロファイルには,各アウトカムに関するエビデンスの質の評価の詳細(解説),エビデンスサマリー,最終的なエビデンスの質と推奨の強さとともにその判断理由などを示した。CQごとに作成されたエビデンスプロファイルは,主担当者と確認者とで合意が得られたものを委員全員で確認した(第7回分科会,2012.12.20)。なお,エビデンスプロファイルの最終案は「エビデンスのまとめ」として第4章に収載した。


 6.RA 治療の安全性と医療資源に関する情報収集(2013年1~9月) 
近年,有害事象の報告の質の改善を目指し国際的な議論の場が設けられ,ガイドライン的なものがいくつか発表されているが10),有害事象に関する情報をいかに蓄積し評価するか,十分な方法論の確立には至っていない。通常臨床試験は治療介入の有用性を示すことに重点をおいており,有害事象を受けやすい患者群が除外されている可能性があるなど,有害性の検証には不向きである11)。RCTに加え,コホート研究,症例対照研究,症例報告を含む観察研究データを含めた総合的な評価が必要と考えられるが10),質の異なる研究結果を統合することは困難である。わが国においては,特にこれまでに発売されたbDMARD(生物学的製剤)はいずれも薬事法に基づく使用成績調査の対象となっており,全例について使用開始から6ヵ月間の有害事象の発現状況が集計・報告されている。また,一部の登録症例については2年間の長期使用調査も実施中であり,有害事象に関してきわめて信頼性の高い情報源であるといえる。
 本ガイドラインでは,臨床研究のシステマティックレビューの結果とは別に,bDMARD(生物学的製剤)も含め,最終的にRA治療に推奨されたすべての薬剤について,厚生労働省より公開されている製造販売後調査・試験成績(市販直後調査,製造販売後臨床試験,特定使用成績調査,使用成績調査)における重篤な副作用情報を一覧表として第4章に収載することとした。製造販売後調査から得られる情報は国際的にも注目されており,今後のガイドラインにおける治療の有害事象に関する情報提供方法の1つであると考える12)
 また,医療経済に関する状況は国により大きく異なり,利用できる既存のエビデンスは限られているため,本ガイドラインでは,各CQにおける文献検索結果のレビューとは別に,RA治療に推奨されるすべての薬剤の年間薬剤費を算出し,前述の有害事象とともに収載した。RA治療薬の費用対効果分析に関しては,本ガイドラインでは扱わず,今後の課題とした。


 7.患者の価値観に関するエビデンス:患者調査の実施(2013年8~9月) 
医療全般において患者の価値観・希望が重視される傾向が強まっている。特にRA治療においては,欧米の国際的に活躍するRA治療のエキスパート(20名の医師,1名の患者)が集まり2010年に発表した“Treat to Target(T2T)”と呼ばれる寛解に向けての治療推奨のなかで13),基本的な考え方として「RA治療は,患者とリウマチ専門医の合意に基づいて行われるべきである」とし,同推奨文にも「患者はリウマチ専門医の指導のもとにT2Tについて適切な説明を受けるべきである」との記述が含まれるなど,リウマチ専門医と患者との情報共有の重要性が強調されている。
 本ガイドラインでは,今後のRA治療に患者の視点を最大限反映させることを目的とし,ガイドライン作成の各プロセスにおいて,患者代表の意見を聞く機会を設けた。また,本ガイドラインに患者の価値観を反映するためのエビデンスを創出することを目的として,公益社団法人日本リウマチ友の会(以下,日本リウマチ友の会)の協力を得て,RA患者計2,222名を対象とした郵送アンケート調査と, 5名の患者代表を対象としたフォーカスグループインタビューを実施した。アンケート調査の結果,ガイドライン作成CQに挙げられた項目はいずれも患者の関心が高く,価値観のばらつきは小さいことがわかった。フォーカスグループによりアンケート調査結果の妥当性が確認された。また,患者のpreferenceという言葉が英語文献ではよくみられ,日本語で「好み」と訳されることがあるが患者にとって治療とは好んで受けるものではない。治療法は益と害のトレードオフの結果選択されるものであり,本調査でも医師が治療について十分に説明し,患者と話し合うことの重要性が確認された。フォーカスグループの調査結果の詳細は第3章第1節表を参照されたい。


 8.推奨度の評価,推奨文の作成(2012年1月~2013年10月) 
GRADEシステムでは,推奨を「介入による望ましい効果が望ましくない効果を上回るか下回るかについて,どの程度確信できるかを示すもの」と定義しており,推奨の強さの分類は「強い」か「弱い」の2種類,推奨の方向は,「実施する」,「実施しない」の2種類がある。推奨度を左右する4つの要因として,エビデンス総体の質,益と害のバランス,患者の価値観や希望,コストや資源の利用が挙げられる(図2)。
 計88のCQについて,主担当者がエビデンスプロファイルと安全性,医療経済に関する情報をもとにガイドラインの推奨文案を作成し,委員全員で討議し,合意を得た(第8回分科会,2013.4.6)。
 次に,最終的な推奨の強さを決定するため,委員に加え,新たに日本リウマチ友の会役員3名,医療経済専門家2名を迎え,2日にわたりパネル会議を開いた(2013.9.16,10.6)(写真1)。各CQの担当者が推奨文案について説明したのち,推奨度の分類,推奨の表現について討議し,デルファイ法により最終的な合意形成が行われた。
 パネル会議では,計88のCQについて,分科会長より44の推奨文と推奨の強さが呈示された。各担当者より概略を説明のうえ協議した結果,37の推奨文に集約された。合併症については,全体で推奨文をまとめ,解説を各項目で記載する方針とした。
 またパネル会議出席者により,アウトカム全般に対するエビデンスの強さ,益と害のバランス,患者の価値観・希望・負担,利益とコスト・資源,推奨への同意について第1回の投票を実施した。推奨への同意が1~5段階の平均4以上の場合は同意が得られたこととし,4未満の項目については再度協議を行った。
 注射金製剤,ブシラミン,ミゾリビン,レフルノミド,イグラチモドに関する推奨文は平均4未満となったため,再度協議を行い,レフルノミド,イグラチモドについては推奨文を修正した。これら5項目は,推奨への同意について第2回の投票を実施した。この結果,ミゾリビンについては平均4未満(2.8)となったため推奨文を削除,他の4項目については4以上となったため推奨文を採用した。
 本パネル会議の結果,作成された推奨文案と推奨の強さを表4に示す。同意度は5点を満点とした投票者の平均値であり,SDとともに記載した。前述の削除された項目は収載していない。なお,パネル会議により決定した草案は,パブリックコメントを経て最終案決定へと至った。

 図2  GRADE システムによる推奨とその強さの決定
 写真1  パネル会議の模様

  今後のガイドライン作りに向けての展望
信頼できるガイドラインは信頼できるエビデンスのシステマティックレビューに基づく4)。コクランレビューは厳格に定められたプロセスに従って作成されており6)7),公表されたデータのなかから目的とする情報を効率的に取り出すことができる。今回,RAの薬物療法に関するCQについてはコクランレビューにより大半がカバーされたが,手術や合併症などに関するCQについては新たなシステマティックレビューが必要なものが多かった。コクランレビューがGRADEシステムで記述されるようになったのは2009年以降であり,その前に発表されたレビューからGRADEシステムでの評価に必要な項目を抽出することは相当の労力を要した。また,コクランレビューで扱われたCQは比較的シンプルなものが中心であり,本ガイドラインが主たる利用者として想定したリウマチ専門医が抱くCQに対し,十分なエビデンスを提示できるレビューは限られていた。今回新たなシステマティックレビューが必要であったものについては,各担当者が原著論文として発表し,今後のアップデートや他のガイドライン作成に役立つかたちで残す予定である。
 有害事象や医療資源については,学術誌に発表された研究論文としては限定的な情報しか得られない。本ガイドラインでは薬事法に基づく製造販売後調査・試験成績(市販直後調査,製造販売後臨床試験,特定使用成績調査,使用成績調査)や薬価データを利用したが,今後は電子カルテ,診療報酬明細,診断群分類(diagnosis procedure combination;DPC)データの活用が進み,ガイドラインにより正確な情報を反映させることが可能となると期待される。また,JCRではbDMARD(生物学的製剤)の長期使用の安全性について確認するため,市販後にbDMARD(生物学的製剤)使用を開始した患者の5年間の追跡調査を行っており,現在までに351施設が参加し,登録患者数は2万人を超えている(生物学的製剤使用関節リウマチ患者の長期安全性(SECURE)研究)14)。次のRA診療ガイドラインはこの結果も盛り込んだものとなることが期待される。
 本ガイドラインが真にわが国のRA患者のQOL向上を目指したリウマチ専門医の判断に役立つものでありつづけるために,患者団体との意見交換の場を継続的に設け,患者調査を定期的に行うなどの方策を検討中である。また,新たなエビデンスのモニタリングシステムの整備,対象とする臨床医へのガイドライン普及状況,現場の診療状況の把握など,次回のアップデートに備えた体制作りが必要である。

 表4  パネル会議集計結果
※別ウィンドウで画像が表示されます。

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